私の台所
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第一回10年間、“わたし式”に
ととのえてきました
料理家・栗原友さん

いきいきとした素材をおいしい食事に変える台所。そんな魔法のようなスペースを、食や料理にまつわるプロフェッショナルはどうデザインし、
どんな風に使っているのでしょう。そこにある道具や収納、使い方は……?さまざまなプロフェッショナルの台所を巡ります。

Profile

栗原友(くりはらとも)さん
1975年生まれ。料理家。ファッション誌の編集者やアパレルのPR職を経て、2005年に料理家へ転身。
2012年から5年間、東京・築地「斉藤水産」に勤務し、2014年1月に同僚と結婚。同年末女児を出産した。2020年10月に築地に鮮魚店の「クリトモ水産」を開店させ、社長に就任。母は栗原はるみ、弟は栗原心平という料理家一家に育った。

栗原友(クリトモ)さんが、この台所をととのえ続けて10年が経った。

「最初は荷ほどきも済んでいないダンボールの山のなかでご飯を食べるような暮らしからスタートしました。結婚披露パーティーと引っ越しが同時期だったので」

荷ほどきをして、棚を置き、ひとつずつ定位置を決めたり、動かしたり。キッチンとダイニングの間に置かれた台は、輸入家具店で見つけて買ったもの。その昔、アイロン台として使われていたものらしい。

「お店の人もあやふやでしたけど(笑)。天板に埋め込まれた金属部分に鍋が置けそうかなって。カウンターキッチンのようにも使えるし、最近はYouTubeの収録にも重宝しています」

朝は5時すぎには起きて、子供を送り出したら洗濯機を3回回す。

「鮮魚店(クリトモ商店)は洗濯物が多いんです。毎日3回回さないと追いつかない。その後は料理家としての仕事――雑誌の撮影もだいたいここでやりますし、もちろん家族のごはんを作るのもここですね」

コンロと作業台の前、横1メートル、前後40cmの動線のまわりには、高さを変えながら厳選された道具、調味料棚、少し離れてゴミ箱までもが「ちょっと手を伸ばせば、全部手が届く場所」に身を寄せ合っている。

ふと上を見れば、吊り棚にタジン鍋などアジアの雰囲気あふれる鍋が顔を覗かせている。

「旅に出られない時期が続きましたけど、もともとタイやインドネシアなど行く先々で皿や鍋、調理道具を買ってきていたんです。でも2011年以来、しばらく皿を買うのをやめちゃったんですよね」

2011年に起きた東日本大震災。クリトモさんは揺れる部屋のテーブルの下で宝物のように大切にしていたお皿が次々割れていくのを目の当たりにした。

「その光景を見て『形あるものは壊れる』ってことを思い知らされて。それがつらくてちょっといいお皿を買うのをやめちゃったんです」

以来、皿はホーローやステンレス製の丈夫なものが増えていった。子供も生まれた。なおのこと、割れる皿は選ばなくなっていった。

「欠けたりするのもイヤなんです。それでも最近、また大皿を少しずつ買い始めました。刺身を盛りつけたり、鍋の材料をまとめたり、やっぱりいいお皿は楽しくて」

この台所に来て10年。行きつ戻りつしながら、台所はととのえられてきた。シンク脇の隙間には包丁、部屋中央の作業台には土鍋とあらゆるスペースが有効活用されている。

「鍋に皿、道具も含めてモノが多いから、生活感もありますよね。そりゃあ台所は暮らすところだから、生活感はありますよ。でもいまの道具といまの配置が最高に使いやすいし、ここで丸椅子に座っているときがいちばん落ち着く瞬間かも。ウフフ」

陽光の注ぐなか、背もたれのない丸椅子で微笑むクリトモさん。ここは家族の食事を作り、仕事をして、ほっと一息つくところ。“クリトモ式”にととのえられた台所は暮らしがぎゅうっと詰まった場所なのです。

壁掛けはスーパー一軍の道具
コンロ脇に吊ってある、はさみ、トング小鍋など。
すき焼き用の土鍋
京都のインド料理向けshiiboの深皿をすき焼き鍋に。「作風が気に入って、作家本人に連絡して作ってもらった一点物です」
梅シロップと自家製発酵調味料
シーズンには10数kg分の梅仕事。

家電のデザイナーが
プロの台所から学んだこと

三菱電機株式会社 統合デザイン研究所岩本秀人
10年間、毎日使い込まれたことがわかる、実用的で非常に使い込まれたレイアウトですね。コンロまわりは機能性抜群の凝縮感。部屋の中央の作業台の横、壁づけされたスチールラックは中段に普段使いの皿など使いやすく“見せる収納”として、最上段と最下段は見せたくないおやつなどをボックスに入れて見えないよう工夫された収納のバランスが絶妙でした。皿や鍋、アンティーク家具なども北欧、フランス、アジア、量販店など、出自は混在していましたが、明確な軸さえあれば世界観は統一できるものですね。驚いたのは調味料。日本のみならず、アジア各国由来と思われる発酵食品もたくさん自作されていて、調理家電にもまだまだお手伝いできる余地があることを勉強させていただきました。

構成・文/松浦達也 撮影/吉澤健太
2024.1.10