有識者を招いた意見交換会(生物多様性保全)

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当社では「生物多様性保全」への取組を強化・推進するため、「三菱電機グループ 生物多様性行動指針」を定めて、当社の事業が生物多様性にどのような影響を及ぼしうるのかを理解するためのマップを作成しました。「サプライチェーンでの配慮」や「製品の環境性能評価を始めとする、特定の指標を用いた活動の評価(数値評価)の妥当性」などについても検討を重ねています。これに先がけ、2010年3月、名古屋市立大学准教授で「国連生物多様性条約第10回締約国会議(COP10)」の支援実行委員会アドバイザーでもある香坂玲氏を招いた意見交換会を開催しました。ここでは、当日の議題と香坂氏からいただいた助言をご紹介します。

有識者を招いた意見交換会

活動のベースは「感情」。その上で「論理」に基づいた行動を

香坂氏:具体的な内容に入る前に、ぜひ皆さんにお伝えしたいことがあります。私は、生物多様性保全への取組を進める際には、2つの段階があると考えています。

第1の段階は「感情」、つまり生き物たちとのつながりを“感じる”ことです。多くの人々は生き物に対し「かわいい」あるいは「大切にしたい・守ってあげたい」といった感情をもっています。これは生物との感情的な結びつきです。つまり「生き物を大切にしたい」と感じること自体が、既に生物多様性保全への取組の第一歩になるわけです。最初にそのような感情面での啓発を行っておけば、いざCO2削減や廃棄物削減を訴えようというときに、はるかに理解を得やすくなるわけです。

この「感情」という基盤の次に、第2段階である「論理」がきます。つまり企業の事業や人々の生活が、生態系から様々な恩恵を受けていたり、逆に生態系に種々の影響を及ぼしているという事実の客観的な認識です。この自覚に基づいて、一人ひとりが自らの行動を変えていくことが、実効性の高い活動につながると思います。こうした観点から、今回は三菱電機さんの多くの取組に対して意見を述べていきたいと思います。


「生物多様性行動指針」へのアドバイス

三菱電機:当社では現在ガイドラインとして「生物多様性行動指針」を策定中ですが、これに関してアドバイスをお願いします。

香坂氏:基本方針の案として示されている「マネジメント」「行動」「事業での貢献」は、生物多様性に企業として取り組んでいく上での基本要素であり、方向として正しいと思います。特に「行動」の部分で「生態系を大切に守り、共存する心──環境マインドの育成」を示されていることは、生物多様性保全のベースとなる「感情」を重視したものとして、高く評価できます。

欲をいえば、「地域の方々と協力して活動を進めていく」という方針が示されていると、なおよいでしょう。生物多様性への配慮という観点を活動に反映するには、それぞれの地域に詳しい専門家や地元の人たちの協力が不可欠です。こうしたガイドラインを活用して、例えば各地域で環境保護に取り組んでいるNPO団体などと一緒に、地域に根ざした活動を展開されていくことをお勧めします。

2010年5月、「三菱電機グループ 生物多様性行動指針」を発表しました。

「『生物多様性への影響』基本マップ」に関するアドバイス

三菱電機:事業活動と生物多様性との関係性を一枚のチャートにまとめた基本マップを作成中ですが、これについてご意見をお願いします。

香坂氏:事業活動と生物多様性とのかかわりの全体像を示すことはとてもよいと思います。ただし、基本マップを拝見すると、「調達」「設計・製造」「輸送・販売」「使用・保守」「リサイクル・製品の廃棄」というライフサイクルで、それぞれが同じウェイトで示されています。ものづくりにかかわるサプライチェーンの中で、「原材料の調達」の部分をもう少し強調した方がよいかも知れません。というのは、一般の人々が生物多様性について考える場合は「どんな材料で製品を作っているのか」に関心が集まることが多いからです。これは先に述べた第一段階「感情」の部分にかかわる問題です。

例えば一般の人々に「三菱電機に『環境保全』の面でどのように貢献してほしいと思うか?」と尋ねたら、おそらく「電気をあまり使わない製品をつくってほしい」といった答えが多いでしょう。しかし「生物多様性」について同じことを尋ねると「原料調達の部分で配慮してほしい」という答えが多くなると思います。三菱電機さんには「世界中から原料や資源を集めてものをつくる大企業」のイメージがあるからです。メーカーにとっては、生物多様性の保全において「設計・製造」での配慮が重要なのだと思いますが、一般の人々にとっては第2段階の「論理」の部分に相当する話なのです。実際の活動としては、社内外の「第一段階=感情」を踏まえて理解を求めていくことが大切なのではないでしょうか。

2010年5月、「生物多様性への影響」基本マップを公開しました。

サプライチェーンでのあるべき配慮とは

三菱電機:サプライチェーン、つまり資源・材料の確保について、どこまで遡って生態系への影響を考えればよいのでしょうか。

香坂氏:どんな製品も、辿っていけば多くの部分で生態系とかかわっています。「どこまで辿り、どんな活動をすべきか」はもちろん大切な問題ですが、「私たちの生活は、実はこういう分野で他国の環境に負荷を与えている」という「つながり」の意識を持ち、それを「見える」ようにすることがまず重要だと思います。

製紙業を例にとると、欧米の企業の多くは自社で森林を保有し、その木を原料に生産しているのでつながりが見えやすい。日本企業の場合は、そうしたつながりが辿りづらいわけです。しかし、世界のいろんな場所で起こっている生態系の破壊は、辿っていけば日本企業の活動とも必ずどこかでつながっています。できる限りそのつながり、影響を可視化して、知らせていくことが重要です。

もう一つ、「人への貢献」という視点も重要です。これは世の多くの生物多様性の議論において抜けている部分だと思います。オランウータンやゴリラの保護はなされても、その地域で生活する人々に思い及ぶことが少ないのです。 しかし、地域住民の教育水準や衛生状態、貧困の度合いも、生態系保全にとって非常に重要な要素なのです。それらが悪化することで、例えば無理な伐採や焼き畑が起こる可能性が高まります。地域の人々が安定して持続可能な生活がおくれるようにしていくことも、生物多様性への貢献である、という視点が必要だと思います。


指標作成(数値評価)の可能性について

三菱電機:LCAでの評価や自主基準での数量化といった様々な指標は、生物多様性保全に対して有効でしょうか?

香坂氏:企業は数値で指標化されると取組を進めやすいですから、「改善のものさし」として目標を数値で指標化すること自体は有効な方法だと思います。ただし、指標化することによって「情報の開示」自体が目的化してしまうケースがしばしばあります。現在、世界各国で様々な指標がつくられていますが、私はその点に対して慎重であるべきだと思っています。また個々の目標に関して、ばらばらによい数字を追うようなことになる可能性もあります。それも活動の手法として適切とはいえません。例えば「CO2の排出削減」だけを追求すると「資源の有効活用」の側面がおろそかになる可能性もあります。「持続可能な企業経営」という観点から、様々な活動を位置づけていく必要があるでしょう。

そうした意味から、私は生物多様性の取組のために、敢えて新たな指標を増やす必要はないと考えています。低炭素社会の実現に向け設定した指標に沿った改善努力は、生物多様性にとってもプラスになることが多いのです。新しい指標をつくることよりも、例えば、資源の採掘に関する影響を考慮しながら、ものづくりをすることの方が重要だと考えています。

  • LCA : Life Cycle Assessment。資源の採取から設計・製造、輸送、使用、製品の使用済みになった時点まで、製品のライフサイクルを通して製品の環境影響を定量的、網羅的に評価する手法。

三菱電機への期待

三菱電機:持続可能な社会の実現のために、当社にどんなことを期待されますか?

香坂氏:三菱電機さんは、写真家の岩合光昭氏を起用した啓発コンテンツ「the beauty of NATURE」をウェブサイトのトップページに掲載し、自然の美しさをサイトの利用者に伝えるなど、生物多様性の第一段階となる感情的な部分で、大変有効な活動を進められていると思います。おそらく今後は、2段階である「論理」に、それらの活動をどう結びつけていくかが重要になるでしょう。それを上手くつなげていくことが、三菱電機さんの課題でもありチャンスにもなるだろうと思います。

例えば指標をつくるにしても、その目的を社内外に明らかにし、企業活動と生物多様性のつながりを従業員にも消費者にも見えるようにして、「三菱電機はこのために、こうした活動をやっているのだ」と思える取組をどんどん推進してほしいと思います。その点において、生活の様々な場面で出会うことができる製品を作り出している企業であることは大きな強みです。この強みを上手く活かして、ぜひ日本をリードしていただきたいと思います。

意見交換会出席者

アドバイザー

香坂 玲 氏

香坂 玲 氏

名古屋市立大学経済学研究科 准教授
国連生物多様性条約第10回締約国会議支援実行委員会アドバイザー
国連大学高等研究所 客員研究員


三菱電機株式会社

環境推進本部長 蛭田道夫
環境推進本部長

蛭田道夫

環境推進本部 主管技師長 太田完治(省エネ担当)
環境推進本部 主管技師長

太田完治(省エネ担当)

環境推進本部 企画グループ 田中基寛(製品の環境配慮担当)
環境推進本部 企画グループ

田中基寛(製品の環境配慮担当)

環境推進本部 企画グループ 樋熊弘子(化学物質規制担当)
環境推進本部 企画グループ

樋熊弘子(化学物質規制担当)

資材部 総合企画グループ 鳥羽恭郎(調達担当)
資材部 総合企画グループ

鳥羽恭郎(調達担当)

総務部 社会貢献推進課 多和田純子(社会貢献担当)
総務部 社会貢献推進課

多和田純子(社会貢献担当)

意見交換会を終えて
環境推進本部長 蛭田道夫
環境推進本部長

蛭田道夫

「生物多様性」は、企業からみると捉えづらい課題です。もちろん、その重要性は理解できるのですが、具体的に企業としてこのテーマにどう対応していけばよいのか、香坂先生のお話を聞くまでは、もやもやとしたものがありました。今回、先生と一つひとつ話をさせていただいたおかげで、そのもやもやが晴れ、理解を大いに深めることができました。特に、生物多様性保全を進める際の2つの段階、「感情」と「論理」は、我々が生物多様性への取組を進めていく上での理解を助けてくれると思います。

三菱電機グループは、「みつびしでんき野外教室」や「里山保全活動」などに取り組み、環境マインドをもった人材育成を目指していますが、改めて、生き物たちとのつながりを“感じる”ことの大切さを認識しました。また、事業活動と生態系の関係を「見える」ようにすることで、「環境ビジョン2021」で進めている低炭素社会や循環型社会形成に向けた活動との関係を当社従業員一人ひとりが理解し、自らの行動を変えていくことが重要であると感じました。

本日の香坂先生のお話をしっかりと受け止め、三菱電機グループの生物多様性保全への取組を推進していきたいと思います。


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