生物多様性ダイアログ、専門家からの提言

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当社は、生きものとの共生をテーマに、専門家と意見を交わす機会を随時設けています。絶滅危惧種の保全活動に取り組んでいる研究者や、都市緑化の専門家、緑を利用する園芸療法の専門家などとの対話を通して、様々な知識、観点に触れ、三菱電機グループのあるべき姿について考察を深めています。

これまでの対話・提言

2015年

テーマ:国内外の生物多様性保全の現状を踏まえ、企業に望むこと

神奈川県立生命の星・地球博物館  主任学芸員  苅部  治紀  様

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神奈川県立生命の星・地球博物館
主任学芸員 苅部 治紀 様

神奈川県立生命の星・地球博物館  主任学芸員  

苅部  治紀  様

生物多様性保全は、その現状を知ることから始まる

三菱電機さんには、主に次の3つのことを踏まえた活動を期待しています。

まず、日本は今多くの生物の絶滅が心配される危機的状況にあり、それらの生物種を絶滅から守る戦いの最中にあるということです。こう言うと、小笠原諸島や沖縄といった「特別な場所」をイメージする人も多いと思いますが、もっと人々に身近な場所に生息する種も絶滅の危機に直面しています。私の子どもの頃には普通に見られた環境、例えば、かつてはどこにでもあった草丈の低い原っぱなどは、近年、都市近郊ではほとんど見られなくなりました。これは、そこに生息する生きものが棲みかをなくすことを意味しており、そうした環境を棲みかとするバッタやゴミムシの仲間などが急激に減少しています。田圃についても乾燥化や農薬の影響によって同様に危機的です。生物の種というものは、1度絶滅してしまえば取り返しがつきませんから、今、生物多様性の保全に取り組むことには大きな意味があると思います。

次に、絶滅につながる要因として、どのようなものがあるかを知ること。さまざまな要因の中でメーカーの方には、「開発圧」「外来種圧」の2つを意識していただくとよいと思います。

開発圧というのは、文字通り、各種開発行為によって生きものの“棲みか”が失われることです。これは開発予定地にどんな生きものが生息しているかを事前に調査し、立地選定の中で希少種の生息地をさけることなどでリスクを低減できます。一方の外来種圧は、別の地域から生きものを運び込むケースを指します。例えば、水をきれいにする効果を狙って池にホテイアオイを導入することが、在来の水草を競争で排除したり、水生動物へ影響を与える事態を招きます。ペットとして人気のアメリカザリガニを沼に放った結果、水草や小動物がことごとく食い尽くされ、残るのはアメリカザリガニだけという状況を招いたりもします。人間が意識せずに行う生きものの移動が、その地にもともといる生きものの生息を脅かす原因になることがあるのです。生物多様性保全の活動を行うに当たっては、ぜひ、この点を心に留めておいていただきたいと思います。環境リスクの大きな種については、環境省のWEBサイトなどで知ることができますので、そうした生物を持ち込まないようにして下さい。


最後に、海外での事業活動について。海外には、生物多様性の保全につながる法規制が日本と比較して不十分な地域が少なくありません。三菱電機さんはグローバルに事業を展開していますので、そうした地域で活動する場合であっても、生物多様性に影響を与えることがないように行動し、また工業廃水などの公害のような、かつて日本が経験したような轍を踏まないようにリードする役割を果たしていただきたいと思います。

まずは、一人ひとりができることから始めてみてください。

ご意見を受けて

ご指摘いただいた「開発圧」「外来種圧」については、三菱電機グループが事業活動を行うに当たって、全員が理解することが大切だと思います。また、海外での行動への要望・ご期待はグローバル環境先進企業を掲げる会社として、社会から必要とされるために欠かせないことだと思います。

また、事業活動を含む人間の活動が、意図せずとも生物種の絶滅につながってしまうことがある、ということを認識して常に自らの行動を省みることは、「環境問題」というものを防止するための基本的な姿勢でもあると思います。事業所での生物多様性保全は、こうした姿勢を全員で獲得するための基盤となる活動として進めたいと考えます。


テーマ:生物多様性を豊かにするしつらえと共生・共存

兵庫県立大学大学院  緑環境景観マネジメント研究科  准教授  岩﨑  哲也  様

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兵庫県立大学大学院 緑環境景観マネジメント研究科 準教授 岩崎 哲也 様

兵庫県立大学大学院  緑環境景観マネジメント研究科

准教授  岩﨑  哲也  様

緑の“しつらえ”で生きものを呼ぶ

都会にある事業所は生きものとは無縁に見えますが、“しつらえ”次第で身近な昆虫などを呼び込み、生態系を豊かにすることが可能です。ポイントとなるのは、「多孔質空間の創造」と「多様性の確保」です。

隙間がある空間(多孔質空間)には、トカゲなどが好んで入り込みます。石や竹を積み上げるなどして、こうした空間をつくることで、生きものの棲みかを増やすことができます。また、生垣などでは単一の樹種を植えがちなのですが、これでは限られた生きものにしか利用できず、ひいては害虫の大量発生の原因にもなります。そこで、複数の樹種を混ぜて植えると、利用できる生きものの幅が広がります。生きた木だけでなく、枯れ木や朽木を好む生きものもいますから、これを置くことも検討できればもっとよいですね。

なお、木を植える場合は、「地域性系統の保全」にも配慮が必要です。同じ樹種でも地域によって遺伝的変異がありますし、別の地域から木を移植すると、地域本来のものとは異なる微生物や土が持ち込まれることもあります。地域本来の生態系をかく乱しないためにも、地元産の木を植えることが望まれます。

都市の緑は、生きものだけでなく、人間にとっても重要な意味を持っています。ヒートアイランド現象の緩和や景観の向上といった「生活面の効果」、防災に貢献するなど「人の生存上の必要性」、郷土意識を涵養するなど「文化的な効果」もあります。これらも踏まえて、緑地のあり方を考えてもらえればと思います。

社員の手による生きもの調査を

現在、生きもの調査を実施するときは、専門家に依頼することが多いようです。それだけでなく、社員の方自身が、生きものの生息状況を調べてみてはどうでしょうか。実際に見て、触れることで、命の重みを実感できたり、思わぬ魅力に気づいたりすることもあるでしょう。それに、自分で調べたほうが愛着もわいてきます。

もう一つ考えてもらいたいのが、外来種の扱い方です。地域性の保全から考えれば外来種は邪魔者と思われがちですが、人間が移動させてしまったというだけで、外来種もまた生きものです。それをどう扱うべきなのかは、今後問題になってくるでしょう。三菱電機さん独自のやり方を確立していってください。


ご意見を受けて

調査会社などの専門家を活用して緑地の質を高める方向性を検討することが、形式上のものになってはいけないということを先生のお話から理解することができました。

また、国際的にも謳われている「生物多様性の主流化」において最も肝心なのは、一人ひとりが多様な生命の重みを実感することであり、大切にしたいという思いを育むことだという先生からのメッセージを心に留め、この活動を進めていきたいと考えます。

外来種については、外来種であるから単純に駆除するということではなく、地域固有の種の絶滅につながるような危険性の有無という観点から管理することを基本とし、日本においては環境省の定めるリストなどに沿って慎重に扱っていく考えです。


テーマ:園芸療法を活用する-事業所のみどり利用の可能性

兵庫県立大学大学院  緑環境景観マネジメント研究科  准教授 豊田  正博  様

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兵庫県立大学大学院 緑環境景観マネジメント研究科 準教授 豊田 正博 様

兵庫県立大学大学院  緑環境景観マネジメント研究科

准教授  豊田  正博  様

社員のストレス解消と仕事の効率アップに役立つ園芸療法

自然と共生する、というと、生きものにとって良い環境をつくることを考えがちです。しかし、「共生」というように、人にとっても心地よい環境であることが大切です。心地よい緑のある環境は、人間のストレス軽減にも役立ちます。例えば、美しい自然の景色や草花は、心理面だけでなく、血圧低下やストレスホルモンの減少など生理的にもリラックスにつながります。環境心理学者のカプラン夫妻が注意回復理論で述べているように、会社においてもリラックスを必要とするときには、屋外の休憩所に、仕事場が見えない(解放・離脱)、閉塞感がない(広がり)、美しく関心を引くものがある(魅了)、取りたい行動が取れる(適合性)といった要素が満たされていれば、気分転換につながるでしょう。花やハーブを素材にして作品をつくって飾り、住環境を改善する、といった活用法も考えられます。作品づくりの達成感はリフレッシュにつながりますし、作品づくりをきっかけに社員の方同士で新たなコミュニケーションの機会も生まれると思います。

何かに集中しようとする行為は、そう長くはもちません。注意回復理論では、注意には自発的注意と非自発的注意があるといわれています。自発的注意では余分な刺激をフィルタリングして必要なことに集中するように脳が働くため時間とともに疲労しますが、非自発的注意はリラックスしている状態で五感を通して受ける刺激を脳が認識するもので、疲労を生じることはないといわれます。例えば、ガーデンのような心地よい緑のある環境では、植物の色、動き、コントラスト、鳥や虫の声、日差しの温かさや肌に触れるそよ風など社内にいる時とは違う感覚刺激を受けます。その結果、ガーデンでは非自発的注意がはたらきやすく、自発的注意による疲労から回復させ、より長時間、より高いレベルの自発的注意を再び可能にして、結果的に仕事の能率アップにつながるのです。事業所の空間は限られていますが、うまく活用して、社員のストレス軽減に役立つ心地よい緑の空間をつくってはいかがでしょうか。


ご意見を受けて

事業所の生物多様性保全の活動の方向性の一つとして、事業所で働く社員がそこから癒しなどの恩恵を積極的に享受していくことを掲げています。自ら働く場所で緑を大事に育て、手入れをして利用していくということは、都市地域の中にある工業専用地域で行いうる“里山としての自然との共生”に他ならないと考えています。

園芸療法の中には、動かないことを進化的に選択した「植物」の命と共生することや、「鑑賞する」だけではなく、摘んだり切ったり香りをかいだりするなどの、五感を使った生きものとのかかわり方のヒントがたくさんあると考えています。私たちにとっての「里山」である事業所内の緑地から文化的サービスを享受していくにあたり、ぜひその考え方を参考にして、取り入れていきたいと思います。


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