コラム
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2002年 7月分 vol. 7
ハンドメイドな人工衛星
ライター 林 公代 Kimiyo Hayashi

── 人工衛星って、大企業のクリーンルームでエンジニア達が最先端機器を駆使しながら作っている、そんなイメージがありませんか?

写真 今、大学の研究室からゾクゾクと人工衛星が生まれている。さらに、学生が設計・制作に携わった人工衛星が2002年の秋以降、日本のH-Aロケット4号機で初めて打ち上げられる。その名も「観太くん」。千葉工業大学の林友直教授と学生たち100名以上がかかわって制作。打ち上げのときをまっているのです。

観太くんのミッションはくじらの生態を観測すること。くじらは極地方から赤道まで回遊するが、その生態にはなぞが多い。そこでくじらに発信機をとりつけて、観太くんが追跡。発信機には圧力計や温度計、GPS受信機などを内蔵。観測データをメモリに記録しておく。くじらが呼吸のために浮上するときにデータが送られ、観太くんがキャッチする。

観太くんは「第1回衛星設計コンテスト」の入賞作品。高校専門学生から大学院生を対象に行っているこのコンテストは、2002年で10回目を迎えている。毎年ユニークな作品が選ばれているが、実際に打ち上げられるのは今回が初めて。

 こんなふうに衛星を自分達で作り本当に打ち上げてしまおう、という動きが大学生達の間で盛り上がっている。しかもその活動は国際的。東京大学は空き缶サイズの衛星CanSatをアメリカ・ネバダ州の砂漠でアマチュアロケットで打ち上げたり、10センチ立方の衛星CubSatをロシアのロケットで打ち上げる計画を進めたり、日本の大学の中心的存在だ。

 ちょっとユニークなのが九州大学のQUEST-1。「テザー衛星」の開発を東京大学、ワシントン大、サンタクララ大と協力しながら進めている。テザーとは細いひも。母機と子機の二つの衛星をテザーでつなぎ、宇宙で子機を2Km離れたところまで展開する。国際協力とあってなかなか難しいところも多い。しかし実際に衛星に搭載する機器を積み込み、動くかどうかの確認と簡単な試験を2002年11月までに行う。実際に飛ぶ衛星の完成を2003年11月に予定。この衛星を打ち上げてくれるロケットを現在、日米で探しているところ。

── やっぱり、打ち上げるとなると作るときの気合がちがうでしょ。公の組織が作る衛星とは一味違った、おもしろくてユニークな人工衛星がどんどん生まれそうで、楽しみ。



鯨生態衛星観測プロジェクト(観太くん)
2002年 7月24日(水)~ 2002年 9月23日(祝) 日本科学未来館
http://www.it-chiba.ac.jp/guide/whale/top.html


九州大学 宇宙機ダイナミクス講座
http://ssdl-www.aero.kyushu-u.ac.jp/index-j.html


東京大学 中須賀研究室
http://www.space.t.u-tokyo.ac.jp/