3月のある日、向井万起男さんからメールが届いた。
「・・・私の新刊書『ハードボイルドに生きるのだ』が発売されます。初のエッセイ集です・・・」。
本屋で表紙を見て驚いた。トレンチコートに帽子、ビルの谷間にたたずむ「ハードボイルド」な男は万起男さん。※「宇宙飛行士の夫」本でないことは明らかだ。週刊文春「私の読書日記」に新聞・雑誌に載った原稿、書下ろしを加えたエッセイ集だが、話題は宇宙、野球、医学、文学と幅広い。そして独特のこだわりとユーモア。ゲラゲラ笑って一気に読むと、久しぶりに「万起男さんとお話したいな~」とたまらなくなった。で、4月初旬、万起男さんファンのDSPACEプロデューサーI女史と、慶應義塾大学病院に向かった・・・。
― 「私の読書日記」の連載は、もう終了してしまったんですね。
降りさせてもらったんですよ。忙しいから。力入れすぎて疲弊しきっちゃった。毎回テーマを決めて書くんだけど、テーマを決めるために実際に紙面で扱っている本の10倍は読んでますからね。でもね、あの欄は5人が交代で書いていて、他の方が紹介した本は扱っちゃいけないんですよ。誰かに先に書かれちゃうと「あぁー、やられた、困っちゃった」って。(笑)それが2回ぐらいありましたよ。だから本を紹介してないのが時々あるでしょ。
― ふふふふ、ありますね。
でもこれまでの「夫」のイメージからずいぶん変わりましたね。
「読書日記」っていうのが今までの僕のイメージと違うかな。 読書だけが趣味だから。
― 分析も、ですよね?
(力を込めて)すんごい大好きなの。こだわっちゃって。
― いつごろからですか?
中学からかな。野球の打率とか。 アメリカ大リーグがめちゃくちゃ好きだったから。
― どんなお子さんだったんですか?
本ばっかり読んでたの。小学校から岩波文庫とか読んで中学校でアメリカのウォルター・リップマンっていう政治ジャーナリストの本でノンフィクションに興味持ったんですよ。
― 中学から慶應でしたっけ
そう。13歳で慶應中学に入って43年間ずっといるんだもん。 歩くシーラカンスと呼ばれてる(笑)。一度も出たことないの。
― 大リーグを見て、野球をやるのではなく、分析のほうに行ってしまったんですか?
野球やってましたよ。 慶應高校軟式野球部の部員ですから。セカンドで。
― 中学は?
サッカー部。
― えっ?
ほんとですよ。中学サッカー、高校軟式野球部、大学は演劇部。 節操ないでしょ。(笑)
アメリカ大リーグは中学以来の大ファンで「日本屈指の大リーグ通」。本書には「イチロー」がやたら出てくる。(イチローのコース別打率まで分析している!)では「ゴジラ」は?
― 松井選手にはどんなご意見を?
イチローが天才だとすると、松井は秀才。応援はしてるけど、松井がどんなに逆立ちしても、タイトルは永久に取れない。
― 断言しますか?
とれるわけないじゃない。冷静に考えても。アレックス・ロドリゲスがいるからホームランも打点もとれないし、打率はイチローがいる。だから松井の目標は「打率3割、本塁打30本、100打点。」タイトルには結びつかないけど、同時に達成すればすごいですよ。でも今年は絶対無理。どれか一つ達成すればいい。となると3割が一番可能性があるだろうけど。でも僕の予想は2割8分。ホームランは二十数本。
― うーん、厳しいですねぇ。
甘くないのよ、大リーグって。何がすごいってピッチャーがすごい。ボールが全然ちがうの。ほんとに。それでも首位打者とっちゃうイチローは天才。2年目だって打率4位で200本安打打ってるんだから。それを松井に求めるのは無理。松井がイチローにないものって言ったらホームランなんですよね。だからホームランに徹したほうがいいと思うけどね。
― イチローはもっと伸びますか?
伸びます。今年は首位打者なんて当たり前と思ってるの。 行くぞー、みたいな。
4月始めに既にイチローの活躍を予想していた万起男さん、恐るべし・・・(つづく)
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