コラム
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2004年 1月分 vol. 1
「恐怖の6分」切り抜け火星着陸。
ライター 林 公代 Kimiyo Hayashi


 明けましておめでとうございます。1月4日午後(日本時間)、NASAの火星ローバー「スピリット」が火星赤道近くのグゼフクレーターに無事着陸。ありがとう! って気分です。

スピリットが送ってきた初の3D画像。着陸地点はコロンビア号事故の乗組員を追悼し「コロンビア・メモリアル・ステーション」と名づけられた。スピリットのアンテナの裏には7人の乗組員の名を刻んだ板が取り付けられている。(NASA/JPL)  スピリットはさっそく旅先から「ポストカード」を送ってきた。グゼフクレーターはかつて湖だったと考えられているだけあって、岩が少ない。1997年7月に火星探査機「パスファインダー」が着陸したアレス谷は岩がごろごろしたロックガーデンだった。

着陸成功の喜びにわくスタッフ達。手前で座っているのが火星着陸責任者のロブ・マニング。(NASA/JPL)  スピリット着陸の喜びにわく、スタッフの中に見覚えのある顔を発見。パスファインダーミッションの主任技術士ロブ・マニングだ。(愛嬌のあるくりくりした目と口髭が特徴)彼は今回もスピリットが火星の大気圏に入り着陸するまでの責任者を務めていたのだ!

 スピリットは24個ものエアバッグの中に保護されて、スーパーボールのように火星上を約1kmも弾んでから着陸したが、このユニークな着陸方式は「マーズパスファインダー」計画から採用されている。NASA初の火星探査機バイキングは逆噴射ロケットを噴かして着陸したが、このやり方では噴射ガスが火星表面を汚染してしまう。そこで、考えられたのがエアバッグ方式。発案者は当時25歳のトム・リベリーニ。もちろん今回のスピリットチームにも加わっている。

 火星着陸は、いくつもの探査機が失敗しているが、それは秒速約500km以上の高速で冷たい真空空間を飛んできた探査機が、短時間に火星大気に突入し、焼け焦げるような超高温の中を減速しながら目的地に的確に着陸しなければならない点にある。スピリットの場合、火星大気突入から着地までが約6分。(6minutes of terrorと言われていた)着地まで約2分弱でパラシュートを展開し、着陸機を切りはなし、高度測定レーダーを始動し、着地まで30秒で写真を3枚とって速度を決定し、エアバッグの膨張を開始、減速ロケット始動・・という手順を自動的に行う。だって火星までの通信は片道10分かかってしまうから。

 この綱渡りの作業を、パスファインダーの経験をもつチームはきっちり切り抜けた。しかしスピリットが動き出すまで油断はできない。周りにどんな障害物があるか確認し、無事に地表におりるのが次の山場。

 ところで、パスファインダーやスピリットのエアバッグの素材に日本の繊維メーカー・クラレが開発した「ベクトラン」が採用されているんですよ。ベクトランは鉄と同じ強さを持ちながら、重さは鉄の5分の1から6分の1。衝撃や熱に強く、成層圏を飛ぶ飛行船にも使われている素材だとか。日本の技術力ってすごいんだから!

 1月末にはもう1機のローバー「オポチュニティ」がやはりエアバッグ方式で着陸する。じっくり見てね。2つのローバーが何を調べるかは、来週のコラムで。


マーズエクスプローションローバーNASAジェット推進研究所)のページから火星大気突入の動画が見られます。(「Entry, Descent, and Landing」のところ )
http://marsrovers.jpl.nasa.gov/gallery/video/challenges.html#edl