宇宙が誕生してから137億年経ったと言われる。今の宇宙は、星や銀河が溢れる「光り輝く宇宙」だが、宇宙誕生直後は水素やヘリウムの冷たく薄いガスが漂う暗黒の宇宙だった。「いつ、どうやって光り輝く天体が生まれたのか」。それは天文学や宇宙論の研究者にとって長年の謎だった。その謎を名古屋大学や国立天文台らのチームが解明した。コンピューターの中で初期宇宙を再現。宇宙誕生から約3億年後、暗黒宇宙から原始星が誕生する様子を詳細に突き止めたのだ。
今まで観測された中でもっとも遠くの天体は、日本のすばる望遠鏡が観測した129億光年彼方、つまり宇宙誕生8億年後の銀河だ。しかし、それ以前の宇宙は未だ多くの謎に包まれ「宇宙暗黒の時代」と呼ばれる天文学のフロンティア領域になっている。宇宙誕生38万年後には、物質密度にほんのわずかなむらがあることが、米国のWMAP衛星の観測でわかっているが、そのむらは「深さ10kmの海があったとして、表面10cmほど」のほんな小さな波の揺らぎにすぎない。この揺らぎから、どのように最初の天体が生まれたのか、世界の科学者達が挑戦してきたが、膨大な計算時間の前に達成はできなかった。
名古屋大学の吉田直紀助教らは、革新的手法で今回成功した。従来のシミュレーションとは異なり、やがて星となるガスの振る舞いを記述する方程式を、簡単な形で仮定することなく、ガス中で起こる化学反応や電磁波の放射との相互作用などを新たな手法で厳密に計算。25桁もの密度の変化を計算するために、72個の計算機をつないだスーパーコンピューターの中で宇宙を「進化」させていったのだ。これほど厳密な物理計算を取り入れてスパコン上でミクロ宇宙から天体形成までのシミュレーションを行ったのは世界で初めて。吉田氏曰く「我々は、宇宙初期の実験をしたのです」と語る。
その結果、わかったことは? 宇宙誕生数億年後にダークマター(暗黒物質。宇宙の物質の8割以上を占める未知の物質)の重力でまず「ダークマターハロー」ができる。その中に星のゆりかごになる「分子ガス雲」ができた。その中心部に注目し、さらに計算を続けると約10万年ほどで、太陽質量の約100分の一の原始星が誕生した。大きな領域の中で小さな構造を分解するために、10兆ピクセルの空間解像度を達成。太陽系の地球軌道にある1平方センチの部分がわかるほどで、もちろん世界最高性能。何もかも宇宙規模に桁外れ!
この偉業を達成した一人である吉田直紀氏に感想を聞くと「博士課程からこの研究に携わって約10年。実は計算そのものは1年以上前にできていた。その後、まちがいがないか確認をくり返したのですがその間、論文が書けず苦しかった。やっと安心しました」とのこと。134億年前の宇宙を突き止めるには、やはり相当の苦労があったようだ。
記者会見で記者たちが質問すると、資料を探すのでなく計算を暗算で始めてしまう。頭の中に誕生直後の宇宙が常にイメージされている、そんな印象を受けた。
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