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2008年 10月分 vol.1
ISSが3人体制から6人体制へ。鍵を握る長期ミッション
ライター 林 公代 Kimiyo Hayashi


ISSでの緊急事態訓練中の第18次クルー。中央がコマンダーのマイケル・フィンク。右端は11月に打ち上げ予定のシャトルに搭乗し、長期滞在をするサンドラ・マグナス飛行士。若田飛行士は、マグナス飛行士と交替する予定。(提供:NASA)  NASA飛行士の二世が宇宙旅行者として訪れ、旧ソ連の英雄飛行士の二世がISSで迎えるという「二世対面」で話題になっている国際宇宙ステーション(ISS)。だが、今回のISS第18次長期滞在クルーはISSの次のステージに向けて、とても大きな意味を持っているのである。特に日本にとって。

 一つは、18次クルーの一員として2009年2月に、若田光一宇宙飛行士が日本人で初めて長期滞在を開始する。そして、日本の実験棟「きぼう」の最後のパーツ(船外のテラスのような実験スペース)が組みつけられ、日本実験棟がめでたく完成する!

 そしてもう一つは、ISSは現在、3人の宇宙飛行士がくらしている。これを2009年春に6人体制にする予定。確かに、「きぼう」がとりつけられ、居住スペースは大きくなった。だが、場所だけでは生きられない。ISSは真空の宇宙に人工的に作られたミニ地球だ。酸素は? 飲み水は? トイレは? 生活のためのインフラを整えなければならないのだ。

 第18次クルーのNASAのプレスキットを見ると、タイトルは「新たなステージ6人体制の準備」となっている。具体的には、11月に打ち上げられる予定のスペースシャトルで新しいトイレ、尿から飲料水を造る装置、二つの個室などを運ぶ予定だ。

 ISS最大の問題は水だ。現在は主に地上から運搬していてそのコストはコップ1杯30~40万円にもなるといわれている。尿から水が作られれば、地上から運ぶ必要がなくなり、究極のリサイクルになる。また、水を電気分解して酸素を作る装置も既にISSにあるので、酸素も得られるというわけ。

 ではその尿は? ISSのトイレは今、ロシアモジュールに一つしかない(故障して話題になりましたね)。ロシアの宇宙服を作る会社ズヴェズダ社が製造したもので、NASAも同じタイプを購入、NASAの実験棟にとりつける。そこから尿を回収し、飲料水を作り、酸素を供給。これまでロシアに頼っていた部分をNASAが自前で調達できるようになる。

 これらの生命維持システムがうまく機能するように起動、調整するのが、18次クルーの大きな役目。トイレは6人の使用に耐えるか、尿から本当に水ができるか。果たしてその水を飲めるのか・・? このシステムが働くようになれば、これまで年2回だったロシアのソユーズ宇宙船の打ち上げを2009年から年4回に増やし、6人体制に以降する。2009年秋からの野口飛行士の長期滞在、その後の日本人宇宙飛行士の滞在の機会がぐんと広がるし、6人体制になれば、ISSでできることの幅も広がるはずだ。

 ところで、18次クルーのコマンダーはNASAのマイケル・フィンク(41)。これが2回目のISS長期滞在。「宇宙飛行士は天職」という彼は岐阜に住んでいたこともあり、日本通。つくばでの記者会見でも日本語で回答した。とても上手だが、もっと具体的な内容を英語で話して・・・と思うものの、あまりに一生懸命なので突っ込めなかった(笑)。日本のお気に入りは「味噌カツ」と「カラオケ」だそうで、「コウイチ(若田光一飛行士)は仕事もカラオケもとても上手」と宇宙で仕事をしつつ、休日にマイクを握ることを楽しみにしている。