コラム
星空の散歩道 国立天文台 准教授 渡部潤一
星空の散歩道index
vol.2
冬空に輝く王者オリオン :青白き若き星たち
参考:2006年1月中旬午後8時頃の 
南の空、オリオン座付近  ちょうど今の季節、南の空を仰ぎ見ると、豪華絢爛なオリオンの姿が目にはいるでしょう。他の星座は知らなくても、オリオン座なら知っているという人も多いようです。オリオン座の真ん中、ほぼ等間隔に三つ並んだ2等星が三つ星と呼ばれています。三つ星を取り囲む大きな長方形の角の部分に、4つの星が輝き、全体の形を整えています。このうち左上が前回紹介した赤いベテルギウス、右下が青白いリゲルという星で、どちらも一等星です。一等星が2個、2等星が5個というきらびやかな星座は他にありません。まさに真冬の夜空のランドマークですね。

 さて、オリオン座はもともと巨人の狩人の姿ですが、目立つ星座のため、各文化圏でも様々に見立てられています。日本でも、和楽器の鼓(つづみ)に見立てられて、鼓星などと呼ばれていました。また、白いリゲルが赤いベテルギウスと、三つ星を挟んで対峙しているようにみえるので、リゲルを源氏星、ベテルギウスを平家星と呼んでいた地方もあります。源平のそれぞれの旗色にあてていたのですね。

 ところで、オリオンの星々は、ベテルギウスを除き、ほとんどが青白く若い星です。オリオンの左上のふたご座あたりを冬の天の川が流れています が、オリオンの中心にある三つ星は、この天の川から離れるように動いています。そのスピードから逆算すると、オリオンの若い星たちが生まれ始めた頃に、天の川を出発していることがわかります。

 天の川は我々の銀河系の円盤部分に相当し、星やガスの密度が濃い部分です。天文学者は、オリオン座を生み出すもとになった大きなガスの塊(巨大分子雲)が、ふたご座の右上の方角から天の川を突っ切った2000万年ほど前に、その衝撃でガスが圧縮され、星が生まれ始めたと考えています。天の川を通過して、次々に星を生み出しながら、現在の位置まで動いてきたわけです。

参考:オリオン大星雲(提供:国立天文台)※2006年1月現在の星の位置とは異なります。  そのガスの名残は、いまでも見ることができます。三つ星の星の下に、やや暗い星がさらに縦に三つ並んでいて、これを小三つ星と呼んでいます。この小三つ星、よく目をこらすと星の光が滲んでいることに気づくでしょう。まだ星雲が星を取り囲んでいるのです。この星雲こそ、オリオン座全体の星達を生み出した大きな雲の最後の名残で、オリオン大星雲、別名メシエ42(M42)とも呼ばれています。(メシエというのは、星雲や星団のカタログを最初に作ったフランス人天文学者シャルル・メシエに由来します)

 オリオン大星雲を天体望遠鏡で眺めると、中心に四つの星が輝いています。これはオリオン座では最も若い星で、生まれてからまだ約200万年と考えられます。例えば太陽は、すでに46億歳で、あと50億年くらいは輝きますから、星というのは長寿です。オリオン座の星たちはやや短命なのですが、それでも1億年は輝き続けるでしょう。とすれば、この四つ子の星達は人間に換算すると、よちよち歩きの1歳程度ということになります。 

 われわれが見ているオリオン座は、ちょうど星が生まれて輝きだした、壮大な星物語の序章に相当するわけです。