コラム
星空の散歩道 国立天文台 准教授 渡部潤一
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vol.36
宵の明星:金星と木星の接近を眺めよう

 夕方の南西の空に、宵の明星:金星が見頃になりつつある。
 金星は内惑星なので、地球から見ると太陽の東西、一定距離の範囲内を行き来している。そのため太陽から大きく離れることはない。見かけ上、最も大きく離れているときのことを最大離角と呼ぶが、金星の場合、最大離角で太陽から50度ほど離れる。そしてマイナス4等ときわめて明るく輝く。太陽と月を除いて最も明るい天体なので、よく目立つし、まわりに明かりがなければ、金星の輝きで影ができるほどである。明星といわれる所以である。今回、金星が最大離角になるのは来年になる。したがって、地平線からの高さが急激に増して、見やすくなるのは年末から年明けである。12月半ばまでは、金星は日の入り直後の南西の地平線をうろうろしている。ただ、地平線に近いときでも、その明るさは格別なので、すでに読者の皆さんの中にも、今シーズンの宵の明星に気づかれた人もいるのではないか、と思う。

参考:2004年11月上旬明け方の天体ショー。金星・木星・月が並んでいる様子。今年はどんなショーが見られるでしょうか。(提供:国立天文台)  個人的には、地平線から高く上がった金星よりも、地平線に近い頃の方が好きである。というのも、地平線に近いところにある方が、ちょうど夕焼けや朝焼けの茜色のグラデーションのまっただ中で、まるで金色のように神々しく輝くからである。11月はじめから12月までは、そんな状況が楽しめる。また、今年の金星は、ほぼ南西の方角に位置している。実は拙宅からは、南から南西の方角の視界が開けているので、ちょうど今年の金星を自宅から眺められることになる。その沈んでいく先の地平線には富士山も見えるので、いまから楽しみである。(といっても、金星が沈む前に自宅に帰るなどというのは至難なのだが。。。)

 いずれにしろ、いちばんの注目は、11月から12月にかけて、木星が金星に接近することだろう。夏の星座であるいて座にある木星は、いわゆる年周運動に伴って、いて座と共に一日ごとに西へ移動し、次第に金星に近づいていく。一日ごとに位置関係が異なるのもわかるだろう。11月半ばには、お互いの距離は角度にして20度ほどあったものが、11月21日には10度、26日には5度と次第に、その距離は縮まっていく。そして、12月1日の夕方には角度にして2度、ちょうど月4個分の距離にまで最接近するのである。木星は金星に次いで明るい惑星なので、単独でも十分に目立つのだが、その木星が金星に接近するわけだから、多くの人の目を引く天体ショーになるわけである。木星と金星の接近は、もちろんこの日だけでなく、その前後1週間は楽しめる。最接近後でも、12月6日になっても、まだ5度程度の距離で、二つの明るい惑星が並んで輝く様子は、まだまだ楽しめるはずである。金星の見かけの動きは、中学校の理科の教科書にも掲載されている。学校によっても異なるが天文分野は中学校3年の冬に履修することを考えれば、今年から来年にかけての宵の明星は、ちょうど学校での勉強の時期に合致しているのは幸いである。教科書だけの勉強だけでなく、実際に観察してみてほしいものである。

 ところで、最接近日の12月1日は特別である。というのも、その日には接近した木星と金星に加えて、月齢3.7の細い三日月が彩りを添えるからだ。月は、ちょうど金星と木星の下方、角度にして4度ほどの場所に輝いている。金星、木星、月の三者が、夕焼けのグラデーションを背景にして、ほぼ直角三角形を成すように接近して輝くのだ。これほど見事な天体ショーはないだろう。前日の11月30日には、月はまだ10度以上も離れていて、接近というのはちょっとおこがましいし、月齢がまだ若いので、かなり細身の月となる。逆に12月2日でも、同じように三者が輝いているのだが、月は少し太った上に、東へ移動し、金星との距離も7度と離れてしまうので、見応えとしては、1日ほどではないかもしれない。12月1日は、月曜日なのが残念だが、平日でもちょっと早めに帰宅して、この天体ショーを眺めたいものである。