霧ヶ峰 FZシリーズ(2019年度モデル) 開発者インタビュー

AIと創り出す快適。

◆ ◆ ◆世界初。AIが人と住宅性能を学ぶ◆ ◆ ◆
エアコンが生まれるまで◆ ◆ ◆

※2018年11月1日発売。当社調べ。家庭用エアコンにおいて。部屋の中を360°センシングして、少し先の温度と湿度の変化を予測し、運転モードと気流を自動で切り替える技術。

ボタンひとつ押すだけで、AIがその家やその人に合わせて、
オーダーメイドの快適を創ってくれる。
そんな夢みたいなエアコン、
霧ヶ峰 FZシリーズ(2019年度モデル)。
今までに無かったまったく新しいエアコンが誕生するまでを、
開発者3人に裏話と共に語ってもらった。

※2018年11月1日発売。当社調べ。家庭用エアコンにおいて。
部屋の中を360°センシングして、少し先の温度と湿度の変化を予測し、
運転モードと気流を自動で切り替える技術。

全国どんな住宅環境にも、
ベストな快適を届けたい。
杉山 大輔 
設計/静岡製作所
開発したかったのは、
AIによる快適。
竹田 恵美 
研究開発/住環境研究開発センター
ボタンひとつで、
全てを快適にできないか。
森岡 怜司 
商品企画・先行開発/静岡製作所

人を、住まいを、
AIが学んで快適を創る。

森岡:「誰もが自動で快適になれるエアコンを創ろう」。そんな想いから今期のFZシリーズは生まれました。
極端に言うと、操作は「A.I.自動」ボタンを押すだけ。車の自動運転みたいなものです。
今までのエアコンにも、いわゆる普通の自動運転機能はありました。でも1人ひとり温度の感じ方は違いますよね。
私は「My自動」と呼んでいるのですが、自分好みに合わせた快適を自動で創り出してくれる、しかもその快適がどんどん自分にぴったりになっていく、そういうエアコンがこれからは求められると思ったんです。

部屋の中も外も。
360°センシングの独自センサー。

杉山:人の感覚も様々ですが、住宅の個性も様々。
ライフスタイルが変わり、一軒家や平屋やマンションなど、エアコンが使われる環境も多様化してきました。
今までは、どの住宅のエアコンも、床や人など部屋の中の環境だけ見て「室内の温度がこう変わったら、こう運転しましょう」と画一的に決めていたんです。でもそうすると、暑すぎたり寒すぎたりしてしまうことがありました。部屋の温度が変わる原因は、外気温や日射、そして住宅の断熱性など、部屋の中より外にあるからです。

森岡:高齢の方はもちろん、リモコン操作がめんどうな方にも、ふとした暑さや寒さを感じることなくずっと快適でいてほしい。
そう考えたときに「エアコンが見つめているのは、部屋の中だけでいいのだろうか」という疑問が生まれました。そしてそれが、今回のFZシリーズ誕生のきっかけとなりました。
AIを搭載した赤外線センサー「ムーブアイmirA.I.ミライ」で、室温が変わるよりも前に、未来の室温を先読みできるようになったんです。

目指したのは、
買った後に進化するエアコン。

竹田:プロジェクトが始動した当初は、まったくの手探り状態。「どうしたら快適を一定に保てるのか?」「温度が変化する原因は何なのか?」、疑問の連続でした。今までは、室内の研究がメインだったので、室外のことも含めた研究は初めてだったんです。最初は、何を測定すればいいのかもわからないし、せっかく測定してもその数値がどういう結果なのかもさっぱりわかりませんでした。
でも、ひたすら研究する日々の中に新発見がありました。
まず、室温が安定しているときにエアコンが出すパワーを分析することで、住宅から漏れたり外から入ってくる熱の影響を、細かく予測できることを発見したんです。その分析を繰り返すことで住宅性能を学習できるようになりました。
さらに、日射が室温の変化に大きく影響していることもわかりました。そこで、窓自体の微小な温度変化を測ることで、部屋全体に対する日射の影響を見積る技術を開発。これは、エアコンが設置されている壁の窓までぐるりと360°センシングできる「ムーブアイmirA.I.ミライ」ならではなんです。
※ここでいう住宅性能とは、室温に影響する性能(断熱性、気密性、広さを総合的に判断したもの)を指します。
森岡:今回のFZシリーズは、今までと開発の概念がまったく異なります。
これまでは、1つの家をモデルケースにした結果をもとに現在の温度を見て、後追いで運転していました。温度変化を先読みしようとしても、いつどのくらいの強さで運転すればいいのか、細かいことはわからなかったんです。しかも、家ごとにきめ細かく制御しようとすると、事前に古い家、新しい家、暑い地方、寒い地方…というように無数のデータを集めてエアコンに覚えさせたり、どんな家なのかをユーザー自身で入力してもらったりする必要がありました。でもそんなことできませんよね。
AI研究の成果で、今回のFZシリーズなら、エアコンを買った後どんな家なのかを学んで、何℃にするにはこれから何ワット必要なのかを計算できるようになりました。
だから、あたためすぎや冷やしすぎといったムダがなく、そのおうちにぴったりなパワーで運転ができます。
毎日ちょっとずつ学んでいくため、長く使うほど予測の数値は正確になっていきますが、1週間使えばきちんと予測できるようになるんです。

杉山:買ってから、買った人の住宅に合わせて、エアコンがどんどん進化していくのが新しいところ。例えるなら、携帯電話の予測変換みたいですよね。

自宅にまで試作品を設置した、
実験漬けの日々。

竹田:開発する中で特に大変だったのは、住宅性能の数値の検証です。
三菱電機には、様々な環境を実際に再現できる実験住宅があるんです。部屋の大きさを8〜32畳に変えられて、そのうえ外気温も自由に変えて朝から夜の温度変化を再現できて、しかも雪まで降らせられる、という施設もあるのですが…実験住宅のデータだけでは人の生活による影響まではわからないですよね。
だから実験住宅や自分のマンションはもちろん、同僚にも頼み込んで自宅に試作品を取り付けてもらい、データを算出していきました。最初は、完成前の自作のプログラムを修正しながら進め、段々と形が見えてきたら住宅性能の数値を使って新しい制御システムを試しました。最終形を自宅に取り付けると「ママの愛情の風が吹いてくるね〜」って娘が言ってくれたのが嬉しかったですね。ちゃんと機能をわかっているかは謎ですけど(笑)。

竹田:様々な住宅条件の下、いろいろな環境のデータを取りたかったのですが、欲しい天気の日がなかなかこなくて、天気待ち…なんてこともありました。あと猛暑で、思っていたより暑すぎるデータしか取れずに慌てたり、調べたいデータがどうしても数ヶ月後にしか取れず、「データをちゃんと取れる冬まで待ちたいです!」と言って、進行を管理していた森岡さんを困らせたり(笑)。天候や季節に左右される中で、試行錯誤を重ねました。開発期間がいつもの2倍かかりましたね。

森岡:僕たちが研究している間にも、納期はどんどん迫ってきますからね(笑)。
ただ研究に妥協しなかったおかげで、外気温が下がってきたから何℃寒くなりそうとか、反対に日射量が増えてきたから何℃暑くなりそうだとか、お客様がなんとなく感じていた体感温度の変化原因とその度合を、エアコンがきちんと数値に換算できるようになりました。これは業界初です。
1時間後に0.5℃上がりそうといった具体的な予想ができるようになり、これからエアコンをどう運転すれば、ムダなく快適を一定に保てるかを細かく先読みできるようになったんです。
※ 2018年11月1日発売。当社調べ。

杉山:同じ目標に向かって、それぞれがやるべきことを進めた成果ですね。
自分も試作品を自宅に取り付けていたので、ついつい休日まで、試作品の動きをチェックしてしまうこともありました。入社以来ずっとエアコンの仕事一筋なんで染み付いちゃってるんですかね。もう冷媒の音を聞くだけで、今エアコンがどういう運転をしているかがわかるようになりました(笑)。

快適の秘密は、“湿度”にあった。

森岡:さらに快適を追求する中で、ヒントになったのはユーザーの声です。
ユーザー調査を行う中で、「冷房と除湿を切り替えるタイミングがわからない」「温度と湿度のちょうどいいバランスがわからない」。そんな湿度にまつわる悩みが増えていることがわかったんです。

杉山:「なぜ湿度の悩みが増えているんだろう」。そう考えると、近年、高断熱住宅が人気なことが原因なのではと思いあたりました。断熱性が高いと空気がこもり、例えば冷房のときに温度はすぐヒュンと下がるんですね。でもそうすると「温度が下がったからもういいや」とエアコンが判断して、湿度がまだ高いのに冷房を止めてしまう、するとずっと湿気だけが残ってしまう…そんなことが起こってしまうんです。

森岡:体感してみればよくわかると思いますが、湿度が高いと同じ温度でも、もわっと感じます。でも暑くて不快なのか、湿度で不快なのか。どちらが原因なのかはユーザーにはわかりにくくて、自分でエアコンを調節するのは難しいんですよね。
そこで、AIが温度だけでなく湿度の変化も予測するようなプログラムを加えました。AIが、冷房を止めたら湿度が残ってしまうのか、送風にしても快適を維持できるのかを予測し、冷房と除湿と爽風(送風)をベストタイミングで切り替えるから快適がずっと続くんです。
温度と湿度、二つの軸で住宅性能を学習することで、AIにすべておまかせな「A.I.自動」が完成しました。
高断熱の家は、冷房時室温はすぐに下がるが湿度は残りやすい高断熱の家は、冷房時室温はすぐに下がるが湿度は残りやすい

暮らしも、そして健康さえも、
変えられるエアコンへ。

森岡:最近は、エアコンを我慢することによる熱中症が問題となっていますよね。残念なことにまだ「エアコンは健康に良くない、冷えすぎて体調を壊す」と考えている方も多くいらっしゃいます。でも、温度変化を先読みして絶対冷えすぎないようにしたり、自動で運転を調節したり、技術をちゃんとすれば、エアコンは使う方の体調を整えられるものになれるはずです。エアーコンディショナーからヘルスコンディショナーへ。これからは使えば使うほど笑顔で毎日を送れる、そんなエアコンを創りたいですね。

杉山:テレビがブラウン管から液晶画面へ革命を起こしたように、エアコンが大きな進化をする可能性はあると思います。でも、結局どこまで行っても、エアコンは快適と省エネを突き詰めるものだから、究極の快適を目指していきたい。未来では快適の考え方もガラッと変わると思う、エアコンから暮らしを変えていきたいんです。
杉山 大輔
設計/静岡製作所
入社以来約10年間、ルームエアコンの快適性設計を中心に担当。
営業部も経験したのち、FZシリーズでは、霧ヶ峰の特徴である2温度空調や、おまかせA.I.自動の量産開発に携わっている。
竹田 恵美
研究開発/住環境研究開発センター
入社当初は、冷蔵庫やビル空調の省エネ技術研究を担う部署に所属。
米国企業との共同開発にも取り組んだ。その後は住宅空調の制御技術を担当。
FZシリーズでは、エアコンの根幹となる制御技術を開発している。
森岡 怜司
商品企画・先行開発/静岡製作所
ルームエアコンのセンシングや清潔機能の先行開発を中心に担当。
営業・マーケティング・主機能企画・事業戦略など幅広い業務での経験を活かし、今回のFZシリーズでは、新AI制御・新リモコンの立案・先行開発を行った。

家電ライターから見た霧ヶ峰 FZシリーズ

今回の取材で特に印象に残ったのが、FZシリーズ開発者たちのチームワークの良さだ。特にFZシリーズは、AIが少し先の未来を予測。この結果から温度だけではなく湿度までをコントロールし、快適性と省エネ性を両立する「おまかせA.I.自動」など、エアコンとしてまったく新しい機能を搭載している。このため、開発にはかなり難渋したかと思えば「障害はあったけれど、大きな問題とは感じなかった」と開発メンバーは口をそろえた。

森岡氏はこの点について「新しい機能を開発するにあたって、もちろんトラブルはつきもの。ただ、開発メンバー全員が目指すゴールを明確にしていたので、課題があってもそれぞれの分野で対処ができた」とコメントした。

霧ヶ峰エアコンといえば、今回新しく開発された「おまかせA.I.自動」以外にも、人の手足の温度から、暑い・寒いを見分ける機能や、従来エアコンには使われなかったプロペラファンの採用など、今までも多くの先進的な機能で我々を驚かせてくれた。今回の取材では、これらの機能は各メンバーがそれぞれの強みを持ち合い、チームとして連携して動けるからこそ実現した機能だと実感させられた。今後、霧ヶ峰シリーズがどのような進化をするのか非常に楽しみである。
倉本 春
インタビュアー
パソコン雑誌編集者からドッグカフェオーナーシェフという異色の経歴を持つ家電ライター。
製品を実際に使ったレビュー記事のほか、IoT家電などの最先端の家電技術について、わかりやすく解説した記事が人気。
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