三菱電機「らく楽アシスト」

当たり前のように
使いこなせる製品へ

目指すのは、誰にでも使いやすい、
さり気ない工夫に満ちたUD社会。
トリセツづくりから考える、
お客様にとっての使いやすさとは。

Interview

家電をより使いやすくするために欠かせないトリセツ(取扱説明書)。三菱電機ホーム機器でそのトリセツづくりに従事するのが、松尾麻民さんです。読みやすさ、わかりやすさを探究していくなかでユニバーサルデザイン(UD)に行き着いた松尾さんは、現在「らく楽アシスト」のキーパーソンとしても活躍しています。ここでは、トリセツづくりやUD活動にかける熱い想いをお訊きしました。

トリセツづくりのプロである松尾さん。
お仕事を始めた当初のことを教えてください。

2008年から、IHクッキングヒーターのトリセツ作成を担当しています。当時はまだIHクッキングヒーターを見たことも触ったこともなかったので、まずは実際に使って調理してみるところから始めました。最初は、手元が全然熱くならないことに驚きましたね。なのに、火力は申し分なし。「一体これはどういう仕組みで動いているんだろう」という好奇心から、担当機種について色々調べました。その後、自宅でもIHクッキングヒーターを購入し、今では日々愛用しています。

トリセツづくりの第一歩は、改訂版の作成から。お客様からのご意見やコメントを参考に、すでに出ているトリセツに修正、改善を加えていく作業です。初めは言われた通りに仕事をこなしていましたが、徐々に「トリセツってこれでいいのかな?」と疑問が湧いてくるようになりました。文字が多すぎて読みづらいし、困ったときにどこを見ればいいのかもわかりにくい。「もっとお客様目線に立ったトリセツをつくったほうが喜ばれるんじゃないのかなあ?」と新米ながらに考えていたことを覚えています。

トリセツづくりにおいて
最も大切にしていることは何ですか?

いちばんは、お客様にとって使いやすいものであること。トリセツは困ったときに読むものだからこそ、お客様のストレスはできるだけ解消したいと考えています。それには、読みやすさやわかりやすさが第一。細かく丁寧に説明することも大事ですが、ときには多すぎる文字が読む人を疲れさせてしまうこともあります。私が理想とするのは、操作に迷ったときも必要な情報にすぐアクセスでき、そのページだけ読めばすべて解決するようなシンプルなトリセツです。

そこで、ある機種を担当した際に、思い切ってトリセツの大改造に踏み切りました。不要な情報は徹底的にそぎ落とし、クローズアップすべきところは大きくして、イラストや余白も増やしていったのです。また、使い方については調理方法ごとにまとめ、電源オンからメニューボタンの選び方、火力設定、電源オフまでの一連の操作が見開きで完結するように編集。操作と関係のない付随情報を別ページに飛ばすことで、とにかくスッキリしたデザインを目指しました。

トリセツを読みやすくすることで、製品がもっと使いやすくなり、愛着を持ってもらえるはず。その一心で関係部署にプレゼンをして回り、様々な意見をとりまとめながら仕上げた一冊は、おかげ様で日本マニュアルコンテストの賞を受賞することができました。最初は反対意見も多く、くじけそうになることもありましたが、あきらめずに挑戦して本当によかったと思っています。

※一般財団法人テクニカルコミュニケーター協会主催「日本マニュアルコンテスト2015」 紙マニュアル 一般部門 優良賞

“たかがトリセツ、されどトリセツ。
トリセツが変われば
製品はもっと使いやすくなるはずです”

ユニバーサルデザイン(UD)を
意識し始めたきっかけは?

これはトリセツ改善を決意した理由でもあるんですが、料理研究家の奥秋曜子先生が視覚障がい者向けに開催されているお料理教室にメーカーのアシスタントとして参加したのがきっかけですね。初めてIHクッキングヒーターで調理をした生徒さんたちが、「火が出ないし、音声でしゃべってくれるので、私たちにもあん心!」「簡単な操作で、こんなにおいしい料理がつくれるんだ!」と感激されていたのが印象的でした。それを見て、私にも何かこの人たちのためにできることはないだろうか、と考えたのです。

トリセツを改善するにあたって、カラーUDを採り入れるようになったのも、このときの経験があったからです。IHクッキングヒーターは火力によってランプの色が変わるため、トリセツでも同じ色を使って説明しているのですが、色弱の方でも判別しやすいよう工夫しました。といっても、当時はUDという言葉や概念の知識はなく、自分で色弱者模擬体験メガネをかけて一つひとつ色を検証していったのですが(笑)

そうやって手探りでUDらしきものを追究していた時期に、上司に誘われて参加したのが、「らく楽アシスト」活動の一環で行われた視覚障がい者向けの料理イベントでした。そこではIHクッキングヒーターの操作説明をさせていただいたのですが、私にとってはこれが「らく楽アシスト」との最初の出会い。この活動で得られたものは大きく、以来、UDの視点を大切にしたトリセツづくりを心がけるとともに、UDの普及や「らく楽アシスト」活動にも積極的に携わるようになりました。

「らく楽アシスト」の取り組みについて
教えてください。

「らく楽アシスト」は、三菱電機のUDの考え方で、ひとりでも多くの人があん心して(safe to use)、らくに(easy to use)、楽しく(fun to use)使えるデザインを通じて、豊かな暮らしのお手伝いをする活動です。そのコンセプトを聞いたとき、「私が探していたものがこんな近くにあったんだ!」と知り、うれしくなりました。誰もがらくに使えるデザインという点では、ボタンや文字が大きい、光や音声で操作をナビゲートするといった家電機能と同様、トリセツにも通じるものがあると考えたからです。

「らく楽アシスト」では、UDを製品に採り入れることはもちろん、全国の福祉・医療団体が主催する視覚障がい者向け展示会やイベント、ラジオやインターネットなどの各種メディアを通じて、UDの考え方やUD製品の普及活動にも取り組んでいます。私も、視覚障がい者向け総合イベントのサイトワールドや調理体験会、日本点字図書館さんの音声マガジンの収録などに参加させていただいています。「らく楽アシスト」に出会い、こうした普及活動を重ねていくことで、ようやく自分が目指すトリセツや家電のあり方が見えてきました。
IHクッキングヒーターでいえば、それをわかりやすくカタチにしたのが、「らく楽IH」という機種です。「らく楽IH」はその名の通り、「らく楽アシスト」のエッセンスがぎゅっと詰まった機種。大きなボタンで押しやすく、機能を絞り込むことでボタン数を最小限に抑えているため、高齢者や初めての方にもシンプルで使いやすいのが特長です。次にどのボタンを押せばいいのかも音声できちんと教えてくれ、操作に迷うこともありません。展示会では視覚障がい者の方々にも大好評で、「こういうIHが欲しかった!」「これならもっとお料理が楽しめそう」といったお声を多くいただいています。

“「らく楽アシスト」は、
まさに求めていたトリセツ、家電の方向性そのもの。
UDの普及活動にも力が入ります”

松尾さんの考える理想のUDとは?

子どもが生まれてから気づいたんですが、今の世の中って実はUDに満ちあふれているんですよね。知らないで使っていたものが、実はUDに基づいてつくられているものだったりする。たとえば、今私の目の前にペットボトルがあるんですが、このキャップを外して置いておくと子どもが飲み込んでしまう危険性があります。でもボトルから離れない構造にすることで、その懸念は解消されるし、床にキャップを落としてしまうリスクもなくなります。実際そういうペットボトルは開発されているし、なぜその形になったのかを意識することなく、私たちは便利にそれを使っている。こんなふうに、ともすると気づかない、さり気ない工夫こそが真に望まれるUDで、そのようなデザインに満ちた理想的な社会を作るのが、私たちメーカーの使命だと考えています。

私がトリセツづくりや「らく楽アシスト」で目指すのも、まさにそういう”さり気ない”UD。ひとりでも多くの人にとって便利で使いやすく、でもそれを感じさせないものづくりをしていきたいですね。三菱電機にはそれを叶える技術や製品が数多くあります。そのらくさや楽しさを体感していただける、三菱家電を集めたショールームがあればいいなと思っています。そこでたくさんの方々のお声を聞いてみたい。

「らく楽アシスト」活動では、お子さまからお年寄り、体の不自由な方を含めたみなさまのご意見を大切にしています。その声をもとに生まれた「らく楽IH」のような製品もあります。現在、三菱家電を使っていらっしゃる方は、ぜひ「もっとこうして欲しい」「これがあるとうれしい」といったご要望をどんどんお寄せいただきたいですね。そのアクションこそが、よりよい製品開発につながるからです。これからもたくさんの声にお応えできるものづくり、トリセツづくりに励んでいきたいと思います。

“お使いの三菱製品に対する
みなさまのご意見をお聞かせください。
それが新たな使いやすさにつながります”

三菱電機ホーム機器株式会社
松尾 麻民

住設機器技術部 IHクッキングヒーター技術課

2008年より三菱電機ホーム機器でIHクッキングヒーターのトリセツの作成に携わる。UDの発想を採り入れた読みやすくわかりやすいトリセツには定評があり、2015年には日本マニュアルコンテストの紙マニュアル 一般部門にて優良賞を獲得。よりお客様目線に立ったトリセツ作成を目指し、「らく楽アシスト」活動にも積極的に参加する。2020年の産休・育休を経て、2021年4月より復帰。子育てママのリアルな目線から、さらなる使いやすさを探究中。

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