「信頼を得て選ばれ続ける、人に一番やさしい生命保険会社」をビジョンに、個人・法人向けの保険サービスを提供する明治安田生命保険相互会社(以下、明治安田生命)。お客さま重視を掲げる同社は、コンタクトセンターの強化に向けて、音声認識システムを導入。音声関連のシステム構築で実績のある三菱電機インフォメーションシステムズ株式会社(MDIS)が、約8ヵ月で導入しました。音声認識システムの製品は通話内容をリアルタイムにテキスト化する株式会社アドバンスト・メディアの「AmiVoice Communication Suite」(以下AmiVoice)を採用。オペレーターの対話内容を可視化し、1コールあたり約2分の作業時間の短縮を実現、応対品質の改善に活用しています。
目次
保険業務のDX推進を見据えて音声認識システムの導入を検討
明治安田生命は2004年に明治生命と安田生命が合併して発足した生命保険会社です。2017年に経営理念と企業ビジョンを一新して「明治安田フィロソフィー」を策定し、明治安田バリューの1つとして「お客さま志向」を定めました。
明治安田生命が掲げる「お客さま志向」を実現する最前線に立つのが、各種相談を電話で受け付けるコミュニケーションセンターです。お客さま志向統括部 コミュニケーションセンター コール業務開発グループ グループマネジャーの太田靖伸氏はその役割を次のように語ります。
「コミュニケーションセンターは、お客さまと直接コンタクトを取る重要なセクションです。当社の場合、インバウンド(受信)、アウトバウンド(発信)、事務対応の3つの機能を有しています。センターは東京と大阪の2箇所に設置し、席数は東西合わせて約300席です」
これらの業務を支えるのが、コンタクトセンターシステムです。デジタルトランスフォーメーション(DX)の推進や、今後のAIやビッグデータを活用したコミュニケーションセンターの高度化を見据えて、新たなコンタクトセンターシステムの更改に合わせて音声認識システムを刷新することを決定しました。
音声システムの構築実績を評価しMDISを導入パートナーに選定
同社は、2018年8月より先行してコンタクトセンターシステムと導入パートナーを選定し、続いて連携する音声認識システムを検討しました。RFPを提示して音声認識システムの提案を依頼した中から、「AmiVoice」を提案したMDISを導入パートナーに選定しました。その理由を情報システム部 事務フロントシステムグループ 主任スタッフの平山誠治氏は次のように語ります。
「『AmiVoice』は、国内約300社の導入実績があり、生命保険業界でも多く採用されている安心感がありました。コンタクトセンター業務に必要な機能を標準的に装備し、先に選定したコンタクトセンターシステムとの連携実績があることも評価しました。MDISは、金融機関を中心とした音声関連システムの構築をはじめ、様々なシステムインテグレーションの実績があったことが決め手になりました」
2019年9月にプロジェクトをキックオフ。要件定義を経て同年10月より構築に着手しました。その後、音声辞書のチューニング、稼働テスト、ユーザートレーニングなどを経て2020年5月7日より東京と大阪の2拠点、約300席すべてで音声認識システムが本稼働を開始しています。構築時のポイントは、コンタクトセンターシステムと音声認識システムの連携だったといいます。
「当社がスクラッチで構築した対応履歴管理システムと音声認識システムをシームレスに連携することで、過去のお客さまの対応履歴情報から直接、音声情報を呼び出すことが可能になりました」(平山氏)
加えて、早い段階から音声認識用の辞書を保険業務向けにチューニングすることで、短期間で業務に合わせた対応が実現しました。また、AmiVoiceのベース辞書が充実していたため、新型コロナウイルス関連の単語を意識して登録することなく正しく音声認識でき、辞書精度の高さを実感しました。コミュニケーションセンターのオペレーター約300名へのトレーニングも本稼働を迎える1ヵ月前から実施し、現場でのマニュアル整備と並行しながら、スムーズに移行することができたといいます。
「短期間で大規模コンタクトセンターの構築が求められる中、アドバンスト・メディア社や当社内の複数のステークホルダーをまとめながら進めるMDISのプロジェクトマネジメント力の高さと、音声技術力の高さに支えられ、8ヵ月の短期間で構築できました」(平山氏)
1コールあたり約113秒の時間短縮 対応品質評価の正確性が向上
音声認識システムの本稼働から約3ヵ月しか経過していませんが、すでに効果が現れています。
「音声情報がリアルタイムにテキスト化され、過去の問い合わせ履歴と紐付けが可能になったことで、これまで受電業務対応後に実施していた手作業での入力を廃止しました。結果として1コール当たりの作業時間は、平均113秒の短縮になりました」(太田氏)
また、お客さまとの通話内容はリアルタイムに認識されるため、頻出する単語やフレーズ、保険商品名などを事前に辞書登録しておくことで、電話応対中に関連するマニュアルやFAQを自動で呼び出したり、禁則ワードを発した際にアラートで警告することで、お客さまへの対応品質がさらに向上しました。
今後は、2ヵ月に1度実施しているオペレーターの対応品質の評価や業務改善、苦情対応などに履歴データを活用する予定です。お客さま志向統括部 コミュニケーションセンター コール業務開発グループ スタッフの佐久間沙織氏は次のように語ります。
「これまでは、評価部門の担当者が音声データを聞いてオペレーターの対応内容の品質を評価していました。1日1,500件以上の問い合わせがあるため、要件を適宜決めて1コールあたり6分程度の音声をピックアップしていました。それでも音声を聞くため相当の時間がかかっていました。通話が自動テキスト化され、通話データとしてダウンロードできることで、被り呼(会話が被ること)や話速(話すスピード)も即時に確認でき、大きく評価効率が向上しました。今後は、音声認識による自動評価部分と、SMS(ショートメッセージサービス)を使ったアンケートによるお客さまからの印象面評価を合算し、オペレーターの公正かつ正当な評価につなげていきます」
さらなるサービス向上に向けてAIやビッグデータの活用を検討
今後はテキスト化されたデータを活用して、コミュニケーションセンターの業務品質のさらなる向上を進めていく方針です。平山氏は今後のデータ活用として「他製品、他サービスへの連携による機能拡張や、蓄積している音声認識データを全社的な分析業務等へ活用していくことを検討していきたい」と語ります。
コミュニケーションセンターの運営に関しては、パンデミック発生時の在宅コールセンターを見据えたBCP(事業継続計画)対応の強化や、Web・SNS等を用いたマルチチャネル対応を進めていく考えです。
「例えば、有人 / 無人チャットの活用や、LINEメッセージへの自動返信、お客さま個人へのSMS送信による印象評価の実施など、非対面のサービスを充実させることで、お客さまの満足度を高めていきます。対面と非対面の融合のためにも、MDISには引き続き提案を期待しています」(太田氏)
明治安田生命は、これからも対面と非対面サービスの融合を推進し、「人に一番やさしい生命保険会社」の実現を目指していきます。