企業がモノやサービスを購入する際にやりとりする見積書や納品書などの書類は「証憑(しょうひょう)」と呼ばれます。証憑は取引があったことを証明する重要な書類として、税法で一定期間の保存が義務づけられています。かつては紙での保存が必須でしたが、電子帳簿保存法の施行によって、現在は要件を満たせば電子媒体での保存も認められています。三菱電機インフォメーションネットワーク株式会社(MIND)の購買を統括する資材部では、証憑の保存を電子化することで、コストの削減や業務の効率化、さらにテレワーク対応力の強化を実現しました。
三菱電機インフォメーションネットワーク株式会社 資材部 計画課長 増田 誠司 氏(左)
三菱電機インフォメーションネットワーク株式会社 資材部 計画課 鈴木 美江 氏(中)
三菱電機インフォメーションネットワーク株式会社 デジタルトランスフォーメーション推進室 事業開発部 新事業企画課長 赤部 浩紀 氏(右)
保存義務のある証憑を紙のファイリングから電子保存に移行
MINDでは、社内のデジタルトランスフォーメーション(DX)推進と自社のタイムスタンプや電子認証サービスを使ったシステム開発における新たな知見を得ることを目的に、資材業務のペーパーレス化に取り組みました。その背景をデジタルトランスフォーメーション推進室 事業開発部 新事業企画課長 赤部浩紀氏は次のように語ります。
「DXを推進するうえで業務のペーパーレス化は重要な課題の一つです。資材証憑は法的に保存すべき書類と業務フローが明確なことから、ペーパーレス化に適していると考えて提案しました」
資材部計画課長 増田誠司氏はDX推進室からの提案を良い機会と捉えたと話します。
「ペーパーレス化は資材部としても課題でした。証憑のファイルは外部の倉庫も借りて保存しており、監査などで紙の原本が必要なときは取り寄せたり、倉庫に探しにいくこともあります。資材部のその他の業務は資材システムによって電子化されているため、法律的な問題さえクリアできれば、ぜひ取り組みたいと思いました」
従来は電子化済みの証憑もすべて印刷してファイリング
発注書などはシステムから電子形式で発行され、取引先から紙媒体で受け取った証憑はスキャンして資材システムに登録されます。しかし、このシステムは電子帳簿保存法に対応していないため、法律上、すべての証憑を別途、紙で保存する必要がありました。
資材部計画課の鈴木美江氏は電子保存に移行する前の業務について次のように語ります。
「以前は紙で受け取った証憑だけでなく、もともと電子形式で発行された証憑もすべて紙に印刷してファイリングしていました。法律上の義務から仕方なく紙に印刷していたので、電子保存のお話を伺ったときは、業務効率化につながると考えました」
業務・IT・法律・3者の知見を合わせた取り組み
電子帳簿保存法では、国税関係の書類を電子保存するための様々な要件が決められています。電子帳簿保存法の適用を受けるためには、税務署に事前申請を行って審査を受ける必要があります※1。
「特にスキャナー保存の申請では、システム構成、社内規定、業務フローなどを具体的に記載した資料の添付が必要です。どのような資料を用意すれば審査基準を満たせるのか、社内の知見だけでは判断ができず、電子保存や電子取引に詳しい税理士のアドバイスを受けました」(赤部氏)
プロジェクトは業務・IT・法律の知見を持つ三者で議論を重ねて進められました。
「国税の観点から求められる要件と当社の内部統制の両方を満たす規定の策定は入念に進めました」(増田氏)
「スタッフの負荷が増えないよう、既存の業務フローにできるだけ手を加えない新しい業務フローを専門家と相談しながら作っていきました」(鈴木氏)
既存システムと電子保存システムを疎結合して実現
今回導入されたシステムは、資材システムから取り出した証憑データを、クラウド上に新しく設置した文書管理プラットフォームに保存します。その際、証憑データにタイムスタンプを埋め込むことで、ファイルが存在していた時刻とその時刻以降に改ざんされていないことを保証します。さらに検索用の情報を付加して文書管理システムに登録されます。これらの処理は自動的に行われるため利用者が特別な操作を行う必要はありません。
「業務への影響を考慮し、最初から既存の資材システムに手を入れないことを前提に考えました。今後の開発や保守などを容易にするためにも、文書管理の機能は外部に置いて、資材システムと疎結合する方法を採りました」(赤部氏)
電子帳簿保存法対応に必要なタイムスタンプにはMIND の長期署名サービス「TrustMinder」、電子文書の管理には三菱電機エンジニアリングのOfficeSTAFF※2」が採用されました。
TrustMinderは電子帳簿保存法のタイムスタンプ発行に必要な一般財団法人 日本データ通信協会の「時刻認定業務の認定」を取得しています。また、OfficeSTAFFは公益社団法人日本文書情報マネジメント協会による電帳法スキャナー保存ソフトの法的要件認証製品です。こうした認証済みのサービスや製品を利用することで電子帳簿保存法に対応したシステムの構築と税務署への申請が容易になります。
入念な準備と段階的な導入によりスムーズな移行を実現
2019年11月の導入時は、小規模な範囲からスタートし、その後、段階的に拡大していく方法が採られました。
「まず、適用する業務区分を業務フローが似ている購入品、ソフトウエア開発委託、業務委託、工事外注の4つに絞り、証憑の種類も計画課内で完結できる納品書だけで始めました」(鈴木氏)
「一番気を使ったのは既存業務の流れを変えないことでした。電子帳簿保存法対応で変わった部分は、担当者がスキャンした証憑を上長が承認するときに、紙と見比べて同等性を確認するようになっただけです。日々の作業の流れは変わらないため、事業部への説明会を開くこともなく通知だけで済ませることができました」(増田氏)
入念な準備と段階的な導入が功を奏し、ペーパーレス化はスムーズに行われました。移行期ならではの出来事としては、ファイルの差し替えをするために、システムからダウンロードしたタイムスタンプ付のPDFに書類を追加して再登録しようとしたケースがあったといいます。
「この時は作業者が紙の証憑を差し替えるのと同じ感覚でダウンロードしたPDFにページを追加してしまいました。タイムスタンプ付きのPDFを編集してしまうと改ざんと見なされ、システムへ登録するとエラーとなってしまうので、差し替えではすべての書類を再スキャンすることになります」(鈴木氏)
なお、ファイルの差し替えがあった場合にもシステムの履歴管理機能によって過去のファイルもすべて保存されます。
電子取引の導入へつながる証憑のペーパーレス化
2020年6月からは電子保存の対象を見積書から検収確認までに拡大しました。すでに年間4万件の資材証憑が電子保存可能になっています。
「今では4つの業務区分で印刷とファイリングの業務がすべてなくなりました。これは年間で約1,194時間の省力化になります。資材部で紙保管していた証憑は、毎月の監査を終えると廃棄可能となったので、今後、倉庫費用も削減されていくと思います。また、印刷とファイリングという出社が必要な業務が減ったことで、在宅勤務に対応しやすくなりました」(鈴木氏)
今後、取引先から紙で受け取る証憑を減らすことができればスキャニングや照合、監査といった業務も軽減されていきます。
「今までは弊社の中でのペーパーレス化への取り組みでした。次のステップとして、電子取引を利用して取引先も含めたペーパーレス化に繋げていきたいと考えています」(増田氏)
「社内のペーパーレスのみならず、取引先との間で押印なども含めた手続きをクラウド上で行える電子取引・電子契約サービスの開発を進めています」(赤部氏)
- ※1電子帳簿保存法では書類(紙)をスキャンして保存する場合は税務署への事前申請が必要になります。
- ※2OfficeSTAFFは、三菱電機エンジニアリング(株)が権利者から許諾を得て使用している商標です。
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長期署名クラウドサービス
長期署名クラウドサービスは、電子署名・タイムスタンプを容易に導入・利用できるクラウドサービスです。電子文書に電子署名・タイムスタンプを付与することにより、「誰が」「いつ」作成したかを証明し、作成以降、文書が改ざんされていないことを証明することができます。
三菱電機インフォメーションネットワーク株式会社
所在地
東京都港区芝浦4-6-8
設立
1978年