生産性の向上やワークライフバランスの実現などを目的として、日本全体が働き方改革に取り組んでいます。働き方改革を実現するための第一歩が紙の書類の電子化です。書類の電子化には多くのメリットがありますが、効果的な電子化と運用には様々な技術とノウハウが求められます。そこで、注目されているのが、書類の電子化を専門としたBPO(Business Process Outsourcing)サービスの活用です。今回は、働き方改革の実現に向けた書類の電子化に関するBPOサービスの活用について解説します。
働き方改革の第一歩となる
書類の電子化による業務効率化
働き方改革は、従来の慣習にとらわれずに、現代のテクノロジーや社会情勢にあった新しい労働環境を構築することで、企業の競争力を高めるとともに、働く人にとって良好なワークライフバランスを実現する取り組みです。新しい働き方が求められる背景には、少子高齢化に伴う労働人口の減少、ライフスタイルや価値観の多様化、グローバル化への対応、長時間労働の解消などが挙げられます。
企業にとって働き方改革の実現は、優秀な人材の確保、業務効率化、コア業務への注力といったメリットがあります。労働人口が減少する中で企業が高い競争力を維持するためには、個人の生産性を高めなければなりません。また、人材の流動性が高まると、非効率で硬直的な労働環境では優秀な人材を長く定着させることが難しくなっていくでしょう。近年、従業員数や店舗数の削減、業務効率化の推進などに取り組んでいる企業にとっても、働き方改革は喫緊の課題となっています。
働き方改革を実現するための第一歩として、多くの企業が取り組んでいるのが紙の書類の電子化です。パソコンやネットワークが普及した現在においても、紙には一覧性、可搬性、書き込み、取り扱いの容易さなど、多くの優れた特長があることから、紙の書類はビジネスの至る所に溢れています。その反面、紙の書類に依存しているために、非効率な業務や不便を強いられる場面も少なくありません。そこで、紙の書類をスキャンニングしてイメージデータに変換し、ネットワークで共有することなどで、業務の効率化を図る企業が増えています。
省スペース、業務効率化をはじめとした
電子化のメリット
書類の電子化には、多くのメリットがあります。最も分かりやすいメリットが、スペース効率の改善です。大きな保管スペースを占めていた大量の書類も、電子化してストレージに保管すれば、大幅にスペースを削減できます。クラウドに保管すれば、ストレージの設置スペースも不要になります。大量の書類を保管している企業にとってその効果は小さくありません。特に都心の一等地にオフィスを構える企業では、書類の保管スペースの削減は大幅な不動産コスト削減に繋がります。さらに、電子化した書類によるバックアップは、事故や災害におけるBCP(事業継続計画)対策としても有効です。
電子化した書類は、適切な分類やキーワードを付加するなどで、検索性が大幅に向上します。OCR(Optical Character Recognition/Reader)やキー入力によって書類内の情報をテキストデータ化しておけば、より高度な検索や利用が可能になり、業務効率が向上します。ネットワークで共有すれば、どこからでもすぐに必要な書類を閲覧でき、倉庫の中で1枚の紙の書類を探し回る作業から解放されます。申請・承認作業も、紙の書類を回覧するよりもはるかに素早く行えます。
また、モバイルネットワークの普及と、スマートフォンやタブレットの高性能化は、電子化した書類を文字通り、いつでもどこでも閲覧することを可能にしました。サテライトオフィスや在宅勤務など、時間と場所に縛られない働き方を実現する上で、書類の電子化は不可欠な要素といえるでしょう。さらに、AI(Artificial Intelligence)やRPA(Robotic Process Automation)による作業の自動化といったメリットもあります。
BPOサービスの利用により
効果的な文書の電子化を実現
業務の効率化のために進めた書類の電子化作業が、働く人の新たな負担になってしまっては本末転倒です。そこで多くの企業では、書類の電子化に関するBPOサービスを活用しています。
BPOとは、企業内の一連の業務プロセスをまとめて外部に委託することを指します。業務の一部分だけを取り出してアウトソーシングするよりも、コスト削減や最適化などのメリットを享受しやすくなります。現在は、ビジネスの幅広い分野にBPOサービスが提供されており、その中に書類の電子化に関するBPOサービスがあります。
書類の電子化に関するBPOサービスの内容は、以下のものがあります。
- 文書の電子化のコンサルティング
- 電子化したい書類の分類・整理
- 書類のスキャンニング
- 書類上の文字や数字のテキスト化
- 文書管理システムの構築
- 文書保管サーバーの保守管理
- 書類の印刷・発送
- 書類の保管・管理・廃棄
多くのノウハウが求められる書類の電子化プロセス
書類の電子化を含む文書管理のBPOサービスの中には、コンサルティングサービスを提供している企業もあります。書類の電子化は単に紙をスキャンニングするだけでなく、その一連のプロセスによって成り立っています。電子化を行う際には、単にハードとソフトを用意するだけではなかなかうまくいきません。文書の発生から活用、保管、廃棄まで、文書のライフサイクルマネジメントをしっかり計画し、実用的なワークフローや運用ルールを構築することが大切です。
無計画に電子化を進めてしまうと、紙よりも扱いにくくなってしまいます。検討すべきルールとして、例えば、ファイル名の付け方、版管理(バージョン管理)の方法、互いに関連する文書の設定方法、原本とコピーの区別など多岐にわたります。また、法律で保存が義務づけられている書類に関しては、e-文書法に基づいて電子化・運用することで、電子データでの保存が認められているものと、紙で保存しなければならないものに分けられ、それぞれ定められた期間、保存しなければなりません。機密や個人情報を含むファイルに関しては、アクセス管理、暗号化、電子署名、タイムスタンプなどによるセキュリティー対策、データ保護が必要になります。
こうしたルールやセキュリティー設定などを含めた電子文書管理には、専門的な知識と実践的なノウハウが必要になります。経験豊富な電子化サービスのコンサルティングを利用することで、不要なトラブルを避けながら、実用的な電子文書管理が可能になります。かつては自前主義が強かった日本の企業でも、近年は自社にしかできないコア事業に集中し、それ以外の業務は外部に委託することにより企業の競争力を強化することが重要となってきました。文書管理のBPOはまさにこうしたニーズ応えるサービスといえるでしょう。
書類の電子化のポイント
作成から廃棄までの文書のライフサイクルの例と、各プロセスに必要な要素。文書管理のBPOサービスを利用することで、多くの部分を外部に委託し、コストや負担を減らすことができる。
出典:経済産業省「文書の電子化・活用ガイド」内の図をもとに作成
株式会社ジェイ・アイ・エム
代表取締役社長橋本 貴史 氏
株式会社ジェイ・アイ・エム代表取締役社長。公益社団法人日本文書情報マネジメント協会(JIIMA)市場開拓委員会建築WG委員長。1982年入社以降、営業として航空会社や大手製造業をはじめとする数多くの企業の業務課題を改善。2011年に取締役営業副本部長に、2017年5月に現職である代表取締役社長に就任。「顧客第一主義」と「全ステークホルダーの幸せ」を目指し、お客様が、より本業に専念できるようなBPO分野の強化や、AI・RPAを用いたサービスの開発等を主導。またJIIMAではIT国家戦略を実現するため、国と連携し、ガイドラインの策定、普及、啓発活動に貢献。
株式会社ジェイ・アイ・エム