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クラウド時代に求められる
ユーザーとSIerが共に成長していく関係

2018年10月|EXPERT INTERVIEW

従来のシステムをクラウド上に移すだけでも災害復旧などのメリットが得られますが、クラウド用にプログラムを最適化することで、ITシステムをより柔軟で強力なものに発展できます。また、クラウド時代には、ITシステムの導入プロセスや開発環境なども見直す必要がでてきます。ここでは、ITインフラのエキスパートである株式会社アイ・ティ・アール(ITR)のプリンシパル・アナリストである甲元宏明氏に、クラウドの特性を生かした新しいITインフラ構築のポイントについて伺いました。

株式会社アイ・ティ・アール
プリンシパル・アナリスト
甲元 宏明 氏

三菱マテリアルにおいて、モデリング/アジャイル開発によるサプライチェーン改革、CRM・eコマースなどのシステム開発、ネットワーク再構築、グループ全体のIT戦略立案を主導。欧州企業との合弁事業ではグローバルIT責任者として欧州・北米・アジアのITを統括し、IT戦略立案・ERP展開を実施。2007年より現職。現在は、クラウドコンピューティング、ネットワーク、ITアーキテクチャ、アジャイル開発/DevOps、開発言語/フレームワーク、BPM/EAI/EDI、OSSなどを担当し、ソリューション選定、再構築、導入などのプロジェクトを数多く手がける。ユーザー企業のITアーキテクチャ設計や、ITベンダーの事業戦略などのコンサルティングの実績も豊富。

株式会社アイ・ティ・アール

ITインフラ構築の起点はビジネス戦略にある 

ITRは、ビジネスとITに関する問題解決を提供する独立系のIT調査・コンサルティング会社です。プリンシパル・アナリストの甲元氏は、日本のクラウドの黎明期からITインフラのエキスパートとしてユーザー企業を支援してきました。その甲元氏は、ITインフラを構築するためには、まず自社のビジネス戦略について深く考える必要があると話します。

「ビジネスに貢献するITインフラをどのように構築するかを考えるためには、まず自社のビジネス戦略をしっかりと考える必要があります。例えば、グローバルにビジネスを展開していく方針であれば、グローバルなITインフラは不可欠です。そこからグローバルでどのようなシステムを展開するか、そのためにはどのようなインフラが必要か考えるべきです」

今後、クラウドがITインフラの主流になっていくことは間違いありません。しかし、クラウドを導入する際に確固たるビジネス戦略があるかどうかで、構築するシステムやその活用に大きな差が出ます。

リフト&シフトで既存システムをクラウドへ移行

既存のITシステムをクラウドに移行することを「リフト&シフト」と呼びます。「リフト」は、既存のシステムを最小限の改修でクラウドに移行することです。クラウド環境のメリットをより多く引き出すためにアプリケーションなどを最適化(クラウドネイティブ化)することを「シフト」と呼びます。

「現在、多くの日本企業が基幹システムをクラウドに移行しようとしています。リフトだけではクラウドに移行する意味がないと言われることがありますが、そんなことはありません。クラウドに移行するだけでもITシステムのグローバルガバナンスやディザスターリカバリー(災害復旧)が実現します。これらは多くの日本企業が課題として挙げながら、なかなか実現していなかったものです」と甲元氏は語ります。

ただし、大規模システムのクラウド移行には、入念な調査を行って慎重に取り組む必要があると、甲元氏は注意喚起します。

「従来のシステムには、冗長性や高速性を実現するために、特殊なハードウエアに依存したものが多くあります。こうしたシステムは、プログラムの大幅な書き換えが必要になります。このため、既存のシステムを熟知しているパートナーのサポートが必要になります。また、ミドルウエアやデータベースのライセンスについても注意が必要です。ライセンスがオンプレミス限定の場合や、クラウド上での動作を保証していないことがあります」

クラウドネイティブなシステムは開発手法が変わる

クラウドのメリットをより多く享受するには、クラウドネイティブ化することが求められます。そこで注目されているものに「サーバーレスアーキテクチャ」があります。サーバーレスでは、開発者はサーバーの存在を意識する必要がなく、業務に必要なロジックの部分だけに集中して素早く開発できます。また、完成したアプリケーションは、利用負荷に合わせて自動的にスケーリングし、使われていない時にはリソースを消費しません。従来のシステムは利用者がいない時でも一定規模のサーバーを動かしておく必要がありますが、サーバーレスではオンデマンド、オートスケールを真の意味で実現できます。

「クラウドでの開発においては“マイクロサービス”という考え方が主流になっています。従来のように一つの巨大なプログラムになっていると、わずかな変更も容易ではなくなります。そこで、小さい単位でプログラムを作り、それらを決められた仕様(API)で接続して大きなシステムを構築します。APIさえ維持すればモジュールごとに簡単に変更できます。これによって、システムの寿命は格段に延びていきます」(甲元氏)

クラウドネイティブなシステムでは、10年に一度大規模なシステム改変を行うのではなく、小さなアップデートが頻繁に行われるようなスタイルになると考えられます。

「クラウドネイティブ」の必要性

既存のアプリケーションをクラウドに移しただけでは、クラウドのメリットは限られる。
クラウドネイティブなアプリケーションに改修することで、多くのメリットが得られる。
出典:ITR、ITR Insight「第2段階のクラウド活用戦略の策定」2017年10月

長期的視点に立ってクラウド事業者を選定する

クラウド移行に当たって、ユーザー企業はクラウド事業者やSIerをどのように選択すべきでしょうか。甲元氏は、クラウド時代は案件ごとに細かく選択するよりも、長期的で安定した関係を築くことが望ましいとアドバイスします。

「クラウドは使う企業にとってビジネスの基盤になります。数年で乗り換えるようなものではなく、基本的には一つのクラウド事業者とずっと付き合うつもりで選ぶべきです。案件ごとにクラウド事業者の選択から始めていたのでは、スピードというクラウドのメリットが失われてしまいます。特定ベンダーへの依存を恐れるよりも、ビジネス戦略に基づいて何が最も有効かを考えて選択すべきです」

また、クラウド時代の開発体制では、ユーザーとSIerとの関係もより緊密なものになると言います。

「ユーザーとSIerにおいても長期的で安定した関係を築くべきです。クラウド上でのシステム開発は、アイデアをすぐに試してみる、作りながら考えることが有効です。そのため、要件定義や仕様書のない状態で開発が始まることが多くあります。そのため、ユーザーとSIerが普段から共に開発し、成長していくような関係が求められます」(甲元氏)