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ビジネスを加速する
クラウドの最新トレンドと活用のポイント

2018年10月|SPECIAL FOCUS

日本でもITインフラをクラウドに移行する流れが加速してきました。スピード、グローバル、イノベーションといった現代のビジネス要求に応えるITインフラを構築するためには、クラウドの利用が不可欠です。またクラウドは、従来システムの置き換えだけでなく、新しいビジネスを生み出す場ともなっています。今回はクラウドの基本やそのビジネス面から見たメリットを再確認し、クラウド活用の最新動向についてもご紹介します。

クラウド移行が加速する国内企業

日本企業において、クラウドコンピューティングの活用が本格化しています。多くの企業のITインフラ導入を支援している株式会社アイ・ティ・アール(ITR)の「国内IT投資動向調査2018」によれば、国内大企業においてクラウドはすでに一般的なソリューションと認知されており、クラウド導入に前向きな企業が過半数を占めています。ITシステムの新規開発や移行の際に、クラウドの採用を第一に検討する「、クラウドファースト」をポリシーとする企業も少なくありません。また、これまでクラウドの採用は新規システムなど導入しやすい領域が中心でしたが、基幹システムにおいてもクラウドの採用を打ち出す大企業が現れるなど、国内企業のクラウド採用が加速しています。

このようにクラウドの導入が進んでいる背景には、ITシステムに求められる条件の多くで、従来システムに対するクラウドの優位性が明らかになってきたこと、現代のビジネスに求められるスピード、グローバル、イノベーションといった要素を実現するためにクラウド活用が欠かせないためです。さらに、クラウドという新しいインフラ自体が、ビジネスのあり方そのものを大きく変えています。近年の新興企業の急速な成長や、SNSなど全く新しい巨大ビジネスの誕生は、クラウドの発達によって可能になったといえます。クラウドをどのようにビジネスに活用していくかは、分野や企業規模の大小を問わず、これからの企業戦略に欠かせない要素になりました。

初期費用や保守管理コストだけにとどまらない
クラウドの価値

まずクラウドコンピューティングとは何か、という基本を再確認しておきましょう。クラウドコンピューティングは、ITリソースをネットワーク越しにオンデマンドで調達できる仕組みです。クラウドが一般的になった現在では、誰でもインターネット上でクラウド事業者に申し込むだけで、アプリケーション、プラットフォーム、サーバーなど、様々なITリソースが瞬時に利用できます。利用者はインターネットに繋がる端末が一台あれば、ネットワークの先にあるITリソースを必要な時に必要なだけ調達できます。その際、利用するITリソースがどこにあって、どんなハードウエアで動いているかという事は、基本的に利用者には分かりませんし、知る必要もありません。これを「雲の向こうの見えないところから、必要なものが降ってくる」と比喩したことが、“クラウド”の語源とされています。

一般的にクラウドサービスは、アプリケーションなどを提供するSaaS(Software as a Service)、アプリケーションの開発・実行環境を提供するPaaS(Platform as a Service)、CPUやメモリー、ストレージなどのインフラを提供するIaaS(Infrastructure as a Service)の3種類に分類されます。

クラウドは、ハードウエアを購入せずにITリソースを調達でき、初期費用や保守管理費用が低いことから、コスト削減の手段というイメージが強くあります。しかし、それはクラウドの表面的な価値に過ぎません。クラウドの規模が拡大し性能が向上した今では、ITだけでなくビジネス全体に大きな変化をもたらす存在となっています。

クラウドが可能にした
スピード、グローバル、イノベーション

ITRでは、クラウドの定義項目と要件、それがもたらすビジネス上のメリットを図のように整理しています。これらの要素を従来のデータセンターやオンプレミスのサーバーだけで満たすのは困難でしょう。しかし、クラウドを利用することでそのほとんどを容易に実現することができます。

ITRによるクラウド定義

ITR によるクラウドの定義。非クラウドのシステムでは、これだけの要件を満たすのは難しい。
出典:ITR、ITR Insight「第2段階のクラウド活用戦略の策定」2017年10月

クラウドがもたらすビジネスへの影響は、スピード、グローバル、イノベーションの3つに集約することができます。

まず、スピードの面からいえばクラウドと従来の環境では比較にならないほどの差があります。従来は何か新しいシステムを導入する際に、ハードウエアの調達やOS、アプリケーションのインストールなど、準備の段階で多くの時間を要します。クラウドであれば、わずか数分でシステムを使い始められる場合もあります。

スピードが重視される現代のビジネスにおいて、この差は決定的です。ある企業がハードウエアの見積もりを取っている間に、クラウドを採用した競合企業は、すでに開発を終えてサービスを開始しているかもしれません。ビジネスが急速に成長したときにも、クラウドであれば需要に合わせて簡単に処理能力を増強することができます。

グローバル展開は、規模の大小を問わず多くの企業にとって重要な課題となっています。当然、ITシステムにもグローバル対応が求められます。主要なクラウド事業者は世界中でそのサービスを提供しており、基本的にインターネットに繋がっていれば、どこからでもどんなデバイスからでも使うことができます。従来の専用サーバーでは、海外のデータセンターにアクセスする手段を用意したり、管理の方法を検討する必要がありました。クラウドであれば、最初からグローバルに展開できるシステムを立ち上げることが可能になります。

重要な点は、こうしたクラウドの特長が数多くのイノベーションを生み出していることです。イノベーションを生み出すための最も有効な手法は、とにかく思い付いたアイデアを数多く試してみることだと言われています。オンデマンドでITリソースが調達できるクラウドは、まさにアイデアをすぐに形にすることを可能にしました。そして、完成したシステムは、ただちに世界中のユーザーに提供することができます。仮に失敗したとしても、サービスをすぐに停止でき、オンプレミスで調達した場合の時のように物理サーバーなどのハードウエアが無駄になることもありません。上手くいった場合には、そのままクラウド上でスケールアップして世界的なビジネスへと素早く成長させることも可能です。近年、ITの世界では多くの新興企業が瞬く間に巨大企業へと成長していますが、それを可能にしている要素の一つがクラウドです。クラウドコンピューティングは、従来のサーバーの置き換えではなく、現代のイノベーション創出に欠かせない新しい概念のインフラだという事を理解しておく必要があります。

株式会社アイ・ティ・アール
プリンシパル・アナリスト
甲元 宏明 氏

三菱マテリアルにおいて、モデリング/アジャイル開発によるサプライチェーン改革、CRM・eコマースなどのシステム開発、ネットワーク再構築、グループ全体のIT戦略立案を主導。欧州企業との合弁事業ではグローバルIT責任者として欧州・北米・アジアのITを統括し、IT戦略立案・ERP展開を実施。2007年より現職。現在は、クラウドコンピューティング、ネットワーク、ITアーキテクチャ、アジャイル開発/DevOps、開発言語/フレームワーク、BPM/EAI/EDI、OSSなどを担当し、ソリューション選定、再構築、導入などのプロジェクトを数多く手がける。ユーザー企業のITアーキテクチャ設計や、ITベンダーの事業戦略などのコンサルティングの実績も豊富。

株式会社アイ・ティ・アール