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成功のカギは普段の業務を
テレワークでできるようにすること

2019年1月|EXPERT INTERVIEW

テレワークは、ICTを活用した場所や時間を有効に活用できる柔軟な働き方です。テレワークを活用することで、今まで働きたくても働けなかった制約社員たちが働けるようになります。同時に企業にとっても、人材確保や生産性向上、コスト削減、災害対応など多くのメリットがあります。長年、自らがテレワークを実践しながら、その普及に取り組んできた株式会社テレワークマネジメント代表取締役の田澤由利氏に伺いました。

株式会社テレワークマネジメント代表取締役 田澤 由利 氏

奈良県出身。北海道在住。大学卒業後、シャープ(株)入社。出産と夫の転勤により退職するも、在宅でのフリーライター経験を経て、1998年に(株)ワイズスタッフ、2008年には(株)テレワークマネジメントを設立し、企業の在宅勤務導入支援、国や自治体のテレワーク普及事業等を広く実施している。内閣府政策コメンテーター。平成27年度に情報化促進貢献個人等表彰にて総務大臣賞、平成28年度にはテレワーク推進企業等厚生労働大臣表彰(輝くテレワーク賞)個人賞を受賞。著書に『在宅勤務(テレワーク)が会社を救う』(東洋経済新報社)がある。

株式会社テレワークマネジメント

テレワークは一過性のものでなく
これからの必然的な流れ

(株)テレワークマネジメントは、テレワークに特化したコンサルティング会社として、企業等へのテレワーク導入支援や、国や自治体のテレワーク普及事業を行っています。長年、テレワークの普及に取り組んできた田澤氏は、ここ数年のテレワークへの注目度が高まっている背景には、政府の働き方改革推進に加えて、深刻な人手不足があると分析します。

「今までにも大きな災害が起こる度にテレワークが注目されてきましたが、毎回一過性のもので終わっていました。しかし、今の人手不足は今後ずっと続く問題ですから、各企業の取り組みも真剣なものになっています」

人手不足の解消のためには、働きたくても働けない人が就業できるようにする必要があると田澤氏は語ります。

「日本には配偶者の転勤や子育て、介護や病気などの事情で、やる気も能力もあるのに働けない人が大勢います。こうした人たちもテレワークを使うことで、制約のない人たちと同様に働くことができます。テレワークは休むためのもの(=福利厚生)と思われがちですが、実際は働くためのもの(=企業戦略)なのです」

成功のポイントは
仕事道具や仕事仲間をクラウドに置くこと

すでに多くの企業がテレワークを導入していますが、なかなか実際の業務で上手く活用できない企業も少なくありません。田澤氏はこうした問題が起こる原因は、テレワークを特別なものと捉えているためだと言います。

「“テレワークに向いている仕事が限られる”と思っていると上手く行きません。テレワークに向いている仕事として、多くの人が思い浮かべるのは、切り分けやすい、一人の方が集中してはかどる、重要データを扱わない仕事でしょう。実際にはそのような仕事はほとんどありません。そこに無理矢理テレワークを導入すれば生産性が落ち、他の人にしわ寄せが行ってしまいます」(田澤氏)

必要なのは仕事を切り分けるのではなく、普段の仕事をテレワークでもできるようにすることだと田澤氏は強調します。

「皆さんが毎日会社に行くのは、会社には仕事の道具があり、仕事の仲間が居るからです。私どもが目指すべきテレワークでは、会社にある仕事道具や仕事仲間をクラウドに置きます。そしてその道具を会社に居るときから使うことが大切です。テレワークの時だけ道具を変えると上手く使えません。普段会社で使っている道具がテレワークでも使えれば、どこでも仕事ができるようになります」(田澤氏)(図1)

図1:業務のクラウド化

会社でもテレワークでも同じツールが使えれば、いつもの仕事をだれでも、どこでも行える。
出典:株式会社テレワークマネジメント

業務のクラウド化には、業務の棚卸しや意識を変えることも必要になります。このため、テレワーク導入は生産性向上への取り組みと一緒に行うことが望ましいそうです。

「もちろん、すべての仕事をいきなりクラウド化するのは難しいでしょう。できるものから少しずつクラウド化していくことで、テレワークでできる仕事が増えていきます」(田澤氏)(図2)

図2:テレワークの段階的な導入

テレワークが可能な範囲を少しずつ広げていくことで、将来的に大きなメリットが期待できる。
出典:株式会社テレワークマネジメント

テレワークでも緊密な
コミュニケーションを諦めない

会社に行くもう一つの理由である、仕事仲間とのコミュニケーションも、テレワークならではの解決方法があります。(株)テレワークマネジメントでは、バーチャルオフィスを利用して、離れた場所でも社員間の緊密なコミュニケーションを実現しています。バーチャルオフィスは、クラウド上にある仮想のオフィスで、画面上のオフィス内に田澤氏や社員が分身キャラクターとして表示されています。社員はバーチャルオフィスの中を自由に移動でき、居る場所によってコミュニケーションの機能が変わります。自席に居るときは、他の人の干渉を受けずに集中して作業ができます。共同のワークスペースに移動すると、そこに居る社員の声が聞こえるようになります。他の社員同士の会話に、途中から参加するといったリアルなコミュニケーションが可能です。

「弊社のバーチャルオフィスでは、東京と北海道のオフィス、在宅勤務者が机を並べて仕事をしています。必要なときにはすぐに声をかけられるので、寂しいということはありません。在宅だから孤独なのは仕方がないと考えずに、できるだけ会社にいるのと同じ状態に近づけるべきです」(田澤氏)

少子高齢化社会に対応する
日本型の新たなテレワークを目指す

田澤氏は、近い将来、日本独自のテレワークスタイルができることを期待していると言います。

「アメリカではテレワークの比率が日本よりも高くなっています。そこには成果主義で非終身雇用だという背景があります。成果さえ出してくれれば働き方は問わない、もし成果がでなければ明日から来なくて良いと言えるのであれば、テレワークは導入しやすいです。一方、日本は従業員を簡単に解雇することはできませんし、テレワークでもしっかりと時間管理をする方向に向かっています。日本の法律とビジネス習慣の中で、きちんと管理をしながら、どこでも仕事ができる。そんな日本型のテレワークが実現し、少子高齢化社会への対応ができれば、それは世界的な働き方のモデルになり得ると思います。もちろん、まだまだ多くの課題がありますが、私どもはその実現を目指して取り組んでいます」(田澤氏)