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多様な働き方を実現する
働き方改革の推進とICT活用のポイント

2019年1月|SPECIAL FOCUS

2019年4月から「働き方改革を推進するための関係法律の整備に関する法律(働き方改革関連法)」が順次施行されます。これに合わせて企業は単位時間あたりの生産性向上や、新たな人材活用法の実現に取り組んでいます。そのためには、業務のデジタル化とクラウドをはじめとするICTの活用が欠かせません。本特集では、働き方改革が求められる背景や目的と、それに対して企業や個人は、どのように対処すべきかを解説します。

社会環境の変化により求められる
多用な働き方への対応

厚生労働省では、働き方改革の基本的な考え方を「働く方々が、個々の事情に応じた多様で柔軟な働き方を自分で『選択』できるようにするため」としています。その背景としては、少子高齢化に伴う生産年齢人口の減少や働く人々のニーズの多様化があります。(図1)

日本企業の働き方には、主に戦後の高度成長期に形成されたものが現在も引き継がれています。男性中心で家庭よりも仕事を優先するという働き方は、高度成長期にはそれなりに機能していました。右肩上がりの経済成長、人口増加による安定した労働力の供給などの要因がこうした働き方を可能にしていました。加えて、家事を一手に引き受けてくれる専業主婦のサポートや、子育てや介護における地域、親戚などのコミュニティのバックアップもありました。

しかし、バブル崩壊やリーマンショックを経て右肩上がりの経済成長が止まり、社会的にも核家族化、少子高齢化が進行、さらに個人の価値観の多様化やグローバル化が進んだことで、従来の画一的な働き方では競争力を維持することが難しくなりました。環境が変わった以上、働き方を変える必要があります。

働き方改革関連法の施行は、その取り組みを本格化させるトリガーの役目を果たすものといえるでしょう。

図1:日本の人口の推移

日本の生産年齢人口の割合は減少していく。
人材確保のためには多様な働き方を可能にする必要がある。
出典:厚生労働省「(参考資料)働き方改革の背景」

働き方改革に不可欠な
業務のデジタル化とICTツール

これからの企業は、働く人の良好なワークライフバランスと多様で柔軟な働き方を実現しながら、ビジネスを成長させていかなければなりません。そのための対応策としては、例えば以下の3つが挙げられます。(図2)

  • 時間あたりの生産性の向上
  • 制約社員の労働参加率の向上
  • 繁閑対応体制の構築

図2:働き方改革への3 つの対応策

働き方改革への3つの対応策においてICT ツールの活用が欠かせない。
出典:株式会社テレワークマネジメント

どの対応策を実行するうえでも、業務で扱う情報のデジタル化とICTの活用が欠かせません。例えば、業務プロセスの途中に紙や手書きの書類があると、そこではICTによる効率化が行えず、大きなボトルネックになってしまいます。

時間あたりの労働生産性の向上は、長い間、日本企業の課題だといわれてきました。働き方改革は、その流れを加速させています。現在、生産性向上のために、多くの企業が業務の見直しや棚卸しを行っています。具体策としては、無駄な会議や複雑な承認プロセスの削減、情報共有の効率化、自動化などがあります。生産性向上に有効なICTツールには、Web会議システムやチャット、SNS(Social Networking Service)、クラウドストレージ、RPA(Robotic Process Automation)やAI(Artificial Intelligence)、ボットやスクリプトによる自動化、業務に最適化されたアプリケーション、ERP(Enterprise Resources Planning)、CRM(Customer Relationship Management)などが挙げられます。

業務の棚卸しにおいては、細かな作業の効率化に取り組む前に、工程そのものの必要性や、目的達成のための最適な手順を一から再検討する必要があります。

制約社員の労働参加を可能にするテレワーク

制約社員とは、子育てや親の介護、病気やケガといった様々な事情により働く場所や時間に制約のある社員のことを指します。従来の画一的な働き方では、制約社員は短時間で処理できる簡単な仕事に振り替えられたり、休退職を余儀なくされてきました。これは、社員にとっても企業にとっても不幸なことです。

しかし、今ではICTツールを駆使したテレワークを活用することで、制約があってもフルタイムの社員と同様に働くことができます。それを可能にしたのがクラウドです。業務で使うシステムやアプリケーションがクラウド化されていれば、自宅やサテライトオフィスのパソコンからでも、モバイル端末からでも、会社に居るのと同じようにアプリケーションが利用できます。

以前は、テレワークには情報共有やコミュニケーションに問題があるとされてきました。最近は、Web会議やビジネスチャット、ファイル共有などのツールが充実しており、これらを使うことで十分な情報共有やコミュニケーションが可能になっています。また、物理的に離れた人同士が机を並べているような感覚で働けるバーチャルオフィスでも正確な勤怠管理が行えるツールも登場しています。

制約社員が労働参加するための道具はすでに十分に揃っているといえます。テレワークの活用に必要なのは、自社に適したツールの選択と、そのツールが実際の業務で有効に使えるよう、業務の見直しや運用ルールの作成を行うことです。

テレワークの導入は、制約社員の労働参加率向上だけでなく、移動時間の節約による生産性向上、BCP(Business Continuity Planning)、さらには繁閑対応体制の構築にもつながります。繁閑対応で一時的にスタッフを増員する場合でも、テレワークを利用すれば、その都度オフィススペースを確保する必要はありません。

「当事者意識」が最大の導入ポイント

新しい働き方の実現には、業務の見直しやICTツールの導入に加えて、就労規則や人事制度、報酬などの変更も必要になります。長年、社会や組織、人々に浸透した働き方を変えることは、決して容易なことではありません。最も難しいのは、働く人たちの意識を変えることです。しかし、これからの時代に企業や働く人が適応していくためには、新しい働き方が必要なことは間違いありません。

働き方改革への取り組みは、企業にとっては特に人材確保の面で大きなメリットがあります。普段から無駄なく効率のよい働き方ができ、もし制約ができても働き続けられる企業は、優秀な人材をより集めやすくなるでしょう。反面、働き方改革への取り組みが進まない企業は、労働市場における評価を落としていく懸念があります。働く人自身も、今から制約社員が働きやすい環境づくりに協力しておくことで、将来、自分自身が制約社員になった時にも仕事を続けることができます。働き方改革の実現のためには、企業と働く人の双方が、当事者意識を持って取り組むことが重要となるでしょう。

  • 本記事は、株式会社テレワークマネジメントの田澤由利氏への取材に基づいて構成しています。

株式会社テレワークマネジメント代表取締役 田澤 由利 氏

奈良県出身。北海道在住。大学卒業後、シャープ(株)入社。出産と夫の転勤により退職するも、在宅でのフリーライター経験を経て、1998年に(株)ワイズスタッフ、2008年には(株)テレワークマネジメントを設立し、企業の在宅勤務導入支援、国や自治体のテレワーク普及事業等を広く実施している。内閣府政策コメンテーター。平成27年度に情報化促進貢献個人等表彰にて総務大臣賞、平成28年度にはテレワーク推進企業等厚生労働大臣表彰(輝くテレワーク賞)個人賞を受賞。著書に『在宅勤務(テレワーク)が会社を救う』(東洋経済新報社)がある。

株式会社テレワークマネジメント