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見える化だけでは把握できない需要変動は統計分析によって察知する

2019年8・9月 | Expert interview

データ分析はビジネスのあらゆる場面で活用されるようになってきました。多くの製造の現場では、製品の出荷などのデータを時系列で分析することで、需要の変動を素早く捉え、生産計画の調整に反映する仕組みを研究しています。ここでは、三菱電機 生産システム本部 技師長の小山克己氏にその手法や使用しているツールなどについて伺いました。

三菱電機株式会社 生産システム本部 技師長小山 克己 氏

三菱電機株式会社
生産システム本部 技師長
小山 克己 氏

三菱電機株式会社 生産システム本部・技師長。
慶応義塾大学工学部卒。1983年三菱電機入社・本社生産技術部配属。
入社後、生産技術センター、情報システム技術センター、電力システム製作所等を経て、2017年より現職。
ほぼ一貫して、コーポレート部門のスタッフ・エンジニアとして、三菱電機グループの国内外工場の工場計画, 生産ライン設備・生産管理システム等の企画・設計・導入立上に取組んできている。

三菱電機株式会社

需要変動の見極めと生産調整は製造業の大きな課題

小山氏は生産システム本部のスタッフ・エンジニアとして、三菱電機グループの国内外工場の工場計画、生産ライン設備・生産管理システムなどの企画・設計・導入・立ち上げに携わってきました。現在、三菱電機インフォメーションシステムズ株式会社(MDIS)の支援により、統計ツールを用いて製品の需要変動の分析に取り組んでいます。

小山氏は、この取り組みがスタートした背景を次のように語ります。

「流動数曲線を使ったデータ分析で、国内生産拠点と海外販売会社の連携を緊密にすることができたので、同様の分析を国内向けの製品についても行ってみることにしました」

国内全体の傾向としては入荷は出荷に追随しており、在庫も安定していました。しかし個別の機種ごとに見ると在庫の偏在が起きており、その原因は生産の増減にあることが判明しました。

「生産計画の担当者にヒアリングをするなどして、状況をより詳しく分析してみると、一時的な出荷のばらつきを需要変動と捉えているのではないかと推測しました」(小山氏)

生産部門は、基本的には年間計画に基づいて製品を生産していきます。しかし、計画通りに製品が売れるとは限らないため、出荷状況を見ながら細かく生産調整を行います。

「理屈のうえでは、実績を見ながら修正をかければ良いと考えられますが、現実には需要変動を見極めるのはとても難しいことです。平均値付近での単なるばらつきと、平均値自体が動く需要変動を選別できる方法として思いついたのが、品質管理で使われる管理図の応用でした」(小山氏)

品質管理技法の応用で需要変動を素早く捉える

品質管理で使われる管理図は、一種の折れ線グラフで、単なる偶然によって生じる品質のばらつきと、何らかの異常があって生じたばらつきを区別することができます。小山氏は、出荷データを管理図で分析することで、何らかの異常によるばらつき、すなわち需要変動を捉えられると考えました。

「実際の出荷データを管理図で分析してみたところ、月単位のような長期で見ると、需要変動が起きたことがグラフから直感的に分かります。しかし、これでは生産調整のアクションが遅れてしまいます。実用には、週単位、日単位のように期間を細分化しても判断できることが求められます。しかし期間を短くすると平均値からの乖離が少なく、グラフの見た目での直感的な判断は不可能になります」

そこで小山氏は、統計値による判定を行うことにしました。管理図には計算によって異常を判定する8つのルールがあり、これを適用することで直感的には分かりにくい変動を捉えることが可能です。

「需要変動を素早く見つけてアクションを起こすためには、人間の直感に頼らずに、統計値を使う必要がありました。また、現場での運用を想定するとExcelなどを使った簡易処理は困難です。管理図の作成や統計値の算出、判定を自動化できるシステムやツールが不可欠でした」(小山氏)

統計ツールの導入で自動化とさらなる発展が可能に

管理図の作成や判定を自動化できるツールを求めていた小山氏がMDISから紹介されたのが、SAS Institute Japan株式会社(以下「SAS社」)の統計分析ツールでした。同社は長年にわたって、様々なビジネスのデータ分析に使えるソリューションを提供しており、多くの実績を持っています。

「SAS社のツールには、私が必要としていた管理図が標準装備されていました。品質管理で異常を見つける8つのルールも用意されており、パラメーターも自由に設定できます。また、データの分布についても統計的な仕組みを正しく使って説明してくれます。これは使えると思いました」(小山氏)

MDISが提案したシステムでは、出荷実績データから自動的に管理図を作成し、自動的に異常(需要変動)を判定することが可能です。この分析を元に、よりスピーディーに生産計画や手配基準の見直しを行うことができるようになります。

「量産品に関しては、すでに管理図の運用を始めています。現在は、年間に数台しか出ないような少量品の出荷状況を分析することに取り組んでいます。少量品では、台数だけでなく出荷間隔という時間の要素を取り入れることで、MTBF(平均故障間隔)という手法が応用できそうです。MTBFは本来設備故障の管理に使う手法で、滅多に起きないことの分析に適しています。SAS社製品には、様々な分析ツールが用意されているので、新しい分析のアイデアをすぐに試してみることができます」(小山氏)

小山氏は、こうしたデータ分析の発展によって将来は生産計画のシステム化、自動化が実現することを期待していると話します。

「今の工場は自動化が進んでおり、生産計画に合わせて部品手配やラインの作業指示などを自動で行えます。しかし、肝心の生産計画の作成だけはまだ自動化できていません。将来、様々なデータの分析結果から生産計画が自動的に作れるようになるのが理想だと考えています」

図1:管理図を使った出荷状況の分析

図1:管理図を使った出荷状況の分析

月別では平均値が変わっていることが直感的に分かるが、それでは生産対応が間に合わない。
週単位、日単位での変化を直感で捉えるのは難しいが、統計値を使えば判別可能。

  • 本記事は、三菱電機株式会社の小山克己氏への取材に基づいて構成しています。