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ハイブリッドワーク成功のカギは“ほうれんそう”のデジタル化とフェアな環境の構築

2022年3月 | Expert interview

テレワークやハイブリッドワークのような新しいワークスタイルを成功に導くためには、現状の課題を分析して改善を続ける必要があります。ここでは、テレワークに特化したコンサルティング会社として、多くの企業のテレワーク導入と運営を支援している株式会社テレワークマネジメントの田澤由利氏に、日本のテレワークやハイブリッドワークの現状と成功するためのポイントについて伺いました。

株式会社テレワークマネジメント
代表取締役
田澤 由利 氏

奈良県生まれ、北海道在住。上智大学卒業後、シャープ(株)でパソコンの商品企画を担当。フリーライター経験を経て、1998年、夫の転勤先であった北海道北見市で、在宅でもしっかり働ける会社を目指し、(株)ワイズスタッフを設立。2008年には、柔軟な働き方を社会に広めるために、(株)テレワークマネジメントを設立。東京にオフィスを置き、企業等へのテレワーク導入支援や、国や自治体のテレワーク普及事業等を広く実施している。著書に『在宅勤務が会社を救う』(2014年 東洋経済新報社)、『テレワーク本質論』(2022年 幻冬舎)

株式会社テレワークマネジメント

テレワークは日本の社会にまだ定着していない

テレワークの専門家である田澤氏は、コロナ禍におけるテレワークの普及状況を次のように解説します。

「新型コロナウイルスの感染拡大をきっかけに多くの企業がテレワークを導入しました。弊社への問い合わせ内容も、コロナ前の”どうやって導入したら良いのか”といった初歩的な相談から、”この課題はどうしたら解決できるか”という具体的なものへと変わってきました」

ただ、緊急事態宣言の解除後に出社する人がまた増えている状況を勘案すると、テレワークが日本の社会に根付いたとまではいえないと田澤氏は語ります。

「出社する人が増えているということは、テレワークにはまだまだ課題があるということを意味します。それを解決せずに”テレワークの導入が進んだ”という前提で社会が進んでしまうのは好ましくありません。このままではテレワークのメリットを十分に享受できずに、これまで同様、テレワークが災害対応の手段に留まってしまうおそれがあります」

“ほうれんそう”のデジタル化がテレワークの生産性向上につながる

田澤氏はテレワークからオフィスワークへと戻る理由については、次のように分析します。

「今までテレワークで仕事をしていた人がオフィスワークに戻るのは、簡潔にいえば”仕事が回らないから”です。仕事が回らない理由のひとつにコミュニケーションの問題が挙げられています。会社で必要なコミュニケーションを分類すると、リアルタイムの会話、話しかけるきっかけ作り、チーム業務の進行、インフォーマルな情報(雑談)、チームの一体感に分けられます。コロナ対応で導入されたテレワークでは、この中で生産性に直接関わる”チーム業務の進行”の共有が重要視されていなかったと考えています」

チームで働くスタイルが多い日本の会社において、業務の進行の共有は重要です。対面では特に意識することなく行えていた進行状況の共有が、急ごしらえのテレワーク環境ではうまくできていなかったと田澤氏は指摘します。

「業務の進行状況の共有とはいわゆる”ほうれんそう”(報告・連絡・相談)です。”ほうれんそう”の共有がうまくいかないことが出社増の理由であるならば、”ほうれんそう”のデジタル化がテレワークの生産性向上につながるはずです」

ひとつの解決策として、テレワークマネジメントでは口頭でのやりとりで決まったことも含めてすべて、”ほうれんそう”の内容をクラウド上で共有しているそうです。

「”ほうれんそう”の共有には適切なツールと運用ルールが必要です。弊社では共有しやすい環境を用意したうえで、テキスト化されていない事項は無効になるというルールにしました。すべてをテキスト化するのは大変に思えますが、その過程で内容が明確になり生産性向上につながります」

ポストコロナで目指すべきはフェアなテレワーク

ポストコロナのワークスタイルとして注目されているハイブリッドワークについては、より広範囲に働く場所が選べることが望ましいといいます。

「ポストコロナに目指すべきハイブリッドワークは、会社か自宅かのどちらかではなく、会社でも自宅でもどこでも自分がその時に最大限のパフォーマンスを発揮できる場所を選んで働けるワークスタイルだと思います」(田澤氏)

そのためには働く場所によって有利・不利のないフェアなテレワークを実現する必要があると田澤氏は話します。

「現状では自宅や地方、サテライトオフィスなど会社以外の場所で働いている人には重要な仕事が与えられなかったり、出社した方が上司の印象が良いという理由でテレワークを諦めてしまう人がいたりします。それでは本当の意味でのハイブリッドワークになりません。どこで働いてもフェアな扱いを受けられる環境を整える必要があります。具体的には、業務の進行、コミュニケーション、マネジメント、そして評価視点の4つがどこで働いていても同じであれば、働く人と会社の両方がハッピーになっていくはずです」

フェアな環境の実現には、評価視点のように制度の変更が必要なものもありますが、ツールの使い方や運用ルールによって改善できるものもあります。例えば、出社した人とテレワーカーが混在するハイブリッド会議では、会議室に居るメンバーに比べてテレワーク参加者の存在が希薄になりがちです。しかし、会議室の大型モニターにテレワーク参加者の顔を映すだけで状況は大きく変わるといいます。

「会議をフェアにすることは、最も身近で分かりやすい課題だと思います。とても単純なことですが、会議をフェアにするためにはテレワーク参加者の存在をきちんと全員に知らせることが必要です」(田澤氏)

田澤氏は、欧米のテレワークを単に真似るのではなく、日本型のテレワークスタイルを構築する必要があると強調します。

「テレワークには欧米型の成果主義やジョブ型雇用が適しているともいわれますが、多くの日本人はやはりチームで働くことが得意です。結果を出せばどこで何をしていてもよいという環境に放り出されるよりも、ある程度決められた枠組の中で、組織に守られながら安心して働ける『日本型テレワーク』というのが、ひとつの答えではないかと思います」

「フェア」なテレワークの実現

「フェア」なテレワークの実現

働く場所に関係なく4つの条件を公平にすることが、テレワークやハイブリッドワークを成功させるポイントになる。
出典:株式会社テレワークマネジメント

  • 本記事は、株式会社テレワークマネジメント 田澤由利氏への取材に基づいて構成しています。
  • 本記事は、情報誌「MELTOPIA(No.261)」に掲載した内容を転載したものです。