2019年に発生した新型コロナウイルス感染症(COVID-19)は、働く人の環境に大きな変化をもたらしました。まず、人の移動や接触を避けるためにテレワークが急速に普及しました。最近では、オフィスワークとテレワークを組み合わせたハイブリッドワークを採用する企業も増えています。ここではポストコロナへ向けた新しい働き方であるハイブリッドワークが登場した背景や課題について解説します。
テレワークは非常事態対応から日常のワークスタイルに
新型コロナウイルスの感染拡大により、人の移動や接触を避けることを目的に、世界中で多くの企業がテレワークを導入しました。コロナ前の日本では、働き方改革や東京オリンピック・パラリンピック期間中の混雑緩和を目的に一部の企業がテレワークの導入を進めていたものの、多くの企業にとっては、緊急避難的に急遽テレワークを導入することになりました。対応初期はテレワークと称していても、実態は自宅待機であったり、十分なツールやインフラがない中、手探りで業務を行う会社も少なくありませんでした。
新型コロナウイルスの影響が長期化するにつれて、多くの企業でテレワーク環境の充実が図られました。ビジネスチャット、Web会議、クラウドストレージ、グループウエア、仮想オフィス、勤怠管理など、様々なツールが導入されています。テレワークニーズの高まりによって、ツールの機能や使い勝手も急速に進化しました。テレワーク対応をきっかけに旧式のグループウエアをクラウド&ブラウザベースの最新のものに切り替える企業もあります。
2020年から2021年にかけてテレワークは一気に身近な存在となりました。多くの人が日常的にテレワークを利用しているほか、自身では利用したことがない人でもテレワークとは何かを知っているほどに当たり前のワークスタイルとなりました。
テレワークとオフィスワークを組み合わせたハイブリッドワーク
最近では、テレワークと出社(オフィスワーク)を組み合わせた「ハイブリッドワーク」を導入する企業が増えてきました。テレワークと出社の組み合わせには様々なスタイルがあります。例えば、週のうち2日はオフィスワーク、2日は自宅でテレワーク、そしてもう1日はシェアオフィスでの業務といったスタイルや、テレワークと出社の比率を自分で任意に決められる、臨機応変にテレワークと出社を切り替えられる場合などがあります。
ハイブリッドワークが登場した背景には、まずこの2年ほどの取り組みの中で、テレワークとオフィスワーク双方のメリットとデメリットが分かってきたことがあります。職種や仕事の内容によって、テレワークの方が生産性が上がる場合もあれば、オフィスで顔を合わせて働いた方が効率がよい場合もあるので、使い分けていこうという考えです。働く人達もテレワークに慣れてきて、必然性のない出社に抵抗を持つ人が増えています。
また、テレワークを日常的に利用することの重要性が認識されたことも背景としてあるといえます。新型コロナウイルス感染拡大初期の混乱の教訓として、テレワークを非常事態のときだけ、突然導入してもうまく使えないことが分かりました。
実運用で見えてきたテレワークやハイブリッドワークの課題
テレワークの普及によって、通勤からの解放、家族と過ごす時間の増加、介護や看護と仕事の両立、自分の仕事に集中できるなど、テレワークのメリットを多くの人が享受するようになりました。その一方で課題も見えてきました。
テレワークの課題としてよく挙げられるのがコミュニケーションの取りにくさです。テレワークでは、チャットやWeb会議、グループウエアなどでコミュニケーションを取りますが、やはりリアルオフィスとは勝手が異なります。特に指示や進行を明文化せずに”あ・うんの呼吸”で連携を取っていたチームにとってはテレワークでコミュニケーションの問題を抱えることが多くなります。
テレワークでのコミュニケーションは適切なツール選択や運用ルールの設定によって改善することができます。ここで重要なのがオンラインでの心理的安全性の高さです。心理的安全性の高さとは、組織において安心して自分の意見や気持ちを言い合えるかどうかの度合いを指します。オフィスでは他人が自然と察することができることも、テレワークではテキストや音声で自ら発信しなければ、なかなか伝わりません。このためテレワークを使う組織には躊躇せずにネット上で考えや気持ちを発信できる心理的安全性の高さが求められます。
ハイブリッドワークでは、オフィスワークとテレワークが混在するために、これらの課題が複雑化します。例えば、オフィスワークの多い人はリアルなコミュニケーションを重視し、テレワーカーはネット上のコミュニケーションが中心になります。このため、両者の間でコミュニケーションが分断される恐れがあります。今後は、チームの一体感や心理的安全性を高めるための研修やチームビルディングも、テレワークやハイブリッドワークに対応したものが求められていくでしょう。また、労務管理や人事評価もオフィスワークとテレワークを公平に行うことが求められます。
重要なことは課題を分析して改善を続けること
一部には、こうした課題に直面してテレワークやハイブリッドワークを断念して従来のワークスタイルに戻る企業もあります。テレワークの導入から活用までには、いくつかの壁があります(図参照)。導入後に課題が見えてきた時期は、それを克服してより高度なテレワークレベルに進むか、諦めて過去に後退するかの分岐点といえます。
社会のデジタル化、ネットワーク化の流れは止まりません。将来的にはテレワークがさらに普及していくことが予想されます。すでに多くの人がテレワークのメリットを体験したことで、企業を選ぶ条件の中にテレワークやハイブリッドワークの有無も入ってきます。新しいワークスタイルの導入に消極的な企業は、優秀な人材を確保するうえで不利になる可能性が高くなります。自然災害やパンデミックのような非常事態への備えからも、ここで改革を止めてしまうことは将来に向けて大きなリスクを抱えることになります。
これまでの仕事のやり方は、オフィスに集まって働くスタイルに最適化されてきました。ウイルスの世界的な感染拡大という予期せぬ事態をきっかけに急速に普及したテレワークやハイブリッドワークで課題が生じるのは必然といえます。新しい働き方を支援するツールやサービスも次々と新しいものが生み出されています。これからの企業には、テレワークやハイブリッドワークの運用で見つかった課題をきちんと客観的、定量的に分析して改善を続けることが求められます。
テレワーク活用の壁
テレワークの導入から本格的な活用までにはいくつかのステップがあり、各段階で生じる課題を解説することで、より高度な活用が可能になる。
出典:株式会社テレワークマネジメントの資料を元に作成
- 本記事は、株式会社テレワークマネジメント 田澤由利氏への取材に基づいて構成しています。
- 本記事は、情報誌「MELTOPIA(No.261)」に掲載した内容を転載したものです。
株式会社テレワークマネジメント
代表取締役田澤 由利 氏
奈良県生まれ、北海道在住。上智大学卒業後、シャープ(株)でパソコンの商品企画を担当。フリーライター経験を経て、1998年、夫の転勤先であった北海道北見市で、在宅でもしっかり働ける会社を目指し、(株)ワイズスタッフを設立。2008年には、柔軟な働き方を社会に広めるために、(株)テレワークマネジメントを設立。東京にオフィスを置き、企業等へのテレワーク導入支援や、国や自治体のテレワーク普及事業等を広く実施している。著書に『在宅勤務が会社を救う』(2014年 東洋経済新報社)、『テレワーク本質論』(2022年 幻冬舎)
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