このページの本文へ

ここから本文

  1. Home
  2. ITトピックス
  3. ビジネスを変革するクラウド活用推進組織『CCoE』設立・運用のポイント

ビジネスを変革するクラウド活用推進組織『CCoE』設立・運用のポイント

2022年9月 | Special focus

デジタル技術によるビジネスの革新にクラウドの活用はもはや不可欠です。しかし、従来のシステムをクラウドに置き換えるだけでは十分な成果を上げることはできません。そこでビジネスの革新につながるようなクラウド活用を推進するために『CCoE(Cloud Center of Excellence)』を設立する企業が増えています。本特集では、なぜCCoE が必要なのか、どんな組織なのか、どのように立ち上げて運用するのかなどについて解説します。

ビジネスを変革するためにクラウド活用推進組織を設置する企業が増加

CCoEは企業がクラウド活用を推進するために設置する組織です。全社的にクラウドの活用が促進されるように環境や制度を整備したり、各部署に対してのノウハウ提供、組織間連携の仲介をするなど必要に応じて様々な支援を行います。

近年、多くの企業がCCoEを設立しているのは、単に社内にクラウドを普及させるだけが目的ではなく、それをビジネスの変革につなげるためです。デジタル技術を駆使することで、これまでにないビシネスモデル、新しい顧客体験、飛躍的な効率化などを実現し、大きな競争優位を生むことは現代企業にとって重要なテーマのひとつになっています。

変革を生む土台として全社的なクラウド活用が必要

デジタルによるビジネスの変革を実現するための土台として、全社的なクラウドの活用が欠かせません。クラウドのメリットはなんといってもアジリティ(俊敏性)の高さです。クラウドを使えば手元の端末で簡単な操作やプログラムを実行するだけで、瞬時にITインフラやサービスが利用可能になります。クラウドは基本的に従量課金で容量や処理能力を後から容易に変更できるため、仕様検討や需要予測、見積などに時間をかける必要がありません。ITを駆使したビジネスやサービスのアイデアをすぐに試すことができます。

最近は、優れたアプリケーションやサービスを開発するためには、とにかく実際に動かしてみてユーザーや市場の反応を見ながら素早く改良を重ねていくアジャイルな手法が有効とされています。アジャイルな取り組みには、このクラウドの俊敏性が不可欠となります。

また、クラウド上のインフラは瞬時に修正することができます。失敗のコストが低くなることで今までなら躊躇していたような斬新なアイデアにも挑戦しやすくなります。

クラウド活用に求められる全社横断的なクラウド推進組織

CCoEのような全社的なクラウド推進組織がなくても、チームや部門単位で個別にクラウドを導入することはできます。クラウド活用推進の初期においては、むしろこうした個別導入のケースが多いはずです。しかし、クラウドの個別導入が増えていくと、様々な問題が生じてきます。

まずセキュリティーやガバナンス上のリスクが挙げられます。クラウド契約のアカウントやIDが個別に管理され、どこの部署で誰がどのようなクラウドを使っているのか把握できなくなる恐れがあります。クラウド対応のセキュリティーポリシーが整備されていない場合には、導入されたクラウドの安全性にばらつきが生じる可能性があります。また、個別の導入に任せていると、クラウド活用に積極的な部門と消極的な部門の間でクラウドリテラシーの格差が広がってしまいます。クラウド活用が一部の部門に留まっていてはビジネスの革新につながりません。

全社でクラウド活用を積極的に推し進めながら、同時にセキュリティーやガバナンスを維持するためには、CCoEのような組織が全社のクラウド活用に目を配る必要があります。

クラウド推進と抑制の二つの役割を担う

全社横断型の組織であるCCoEには、社内の複数のステークホルダーが参加します。参加部署としてはIT部門(開発・運用)、コンプライアンスおよびセキュリティー部門、事業部門、マーケティング部門などが考えられます。

CCoEのメンバーにはクラウドに精通していることが求められますが、技術的な観点だけではうまく機能しません。クラウド活用の目的はビジネスを変革するためなので、ユーザーとなる事業部門の参加は不可欠です。また、CCoEにはクラウド活用の推進役と、リスクを抑制する役割の両方が求められるため、各社の事情に応じたバランスが取れた組織構成が求められます。

クラウド導入の当初からCCoEを立ち上げる場合もありますが、先行してクラウド活用に取り組んできた部門が中心となって小規模なクラウド推進組織が作られ、それがCCoEへと発展する場合もあります。

クラウド活用を全社に拡げるうえで重要なのが強力なリーダーシップを持った牽引役の存在と経営層からのバックアップです。クラウド活用が組織に浸透する過程には、様々なハードルがあります。これを乗り越えるためにはCCoEのリーダーにクラウド活用に対する高いモチベーションと強いリーダーシップが求められます。また、部署間での調整をスムーズに行ったり、施策に効力を持たせるためには、組織の活動に対する経営層のバックアップも必要となります。

活用ステージによって変わる活動CCoE自身も進化し続ける必要がある

CCoEの活動は多岐にわたります。代表的なものとしては、クラウド契約のアカウントやID管理、クラウド利用ガイドラインやセキュリティーポリシーの策定があります。この二つは、全社的なクラウド活用に取り組むうえで基本的なものといえます。また、全社横断型組織として求められるのが、クラウド活用の障害を解消するために関係各所が協議する際の調整役としての活動です。特にクラウド導入の初期段階では、セキュリティー、ガバナンス、制度や慣習など様々な面での調整が必要となります。

そのほかの活動としては、技術支援、クラウド活用のためのツールの提供、最新動向の調査、啓発活動、外部への情報発信、人材の育成、クラウド利用状況の調査、可視化、効果測定などがあります。

活動の内容はクラウド活用のステージによって変わっていきます。導入初期と普及期、本格的な活用期ではCCoEに求められる役割も異なります。また、クラウド自体も常に変化し続けるため、できあがったルールや施策も継続的に更新していかなければなりません。ビジネスの革新につながるような先進的なクラウド活用を定着させるためにはCCoE自身が柔軟に変化し続ける必要があるでしょう。

CCoEの組織形態

CCoEの組織形態

KDDI ではクラウド推進を始めてからキャズム(多数派が使い始めるまでの壁)を超えるのに約3 年強を要した。
最初は独立型のクラウド推進組織として活動し、活動スケールの拡大に合わせてCCoEを設立した。
資料提供:大橋 衛 氏

  • 本記事は、KDDI株式会社の大橋 衛 氏への取材に基づいて構成しています。
  • 本記事は、情報誌「MELTOPIA(No.261)」に掲載した内容を転載したものです。

KDDI株式会社
DX推進本部 ソフトウェア技術部 エキスパート
⼤橋 衛 氏

大学卒業後12年間にわたり金融・通信・コンシューマーといった様々なエンプラ系Webシステム開発でプログラミングを経験。
その後軸足をインフラ側に移し、2013年にクラウドと運命的な出会いを果たしたことでクラウドアーキテクトの道へ。
KDDI入社後は社内のパブリッククラウド活用推進に従事。現在CCoEリードとしてセキュリティーガバナンス検討、アーキテクチャ提案、コンサル支援などを行う。CCoEやコミュニティに関する情報発信も積極的に実施。書籍「DXを成功に導くクラウド活用推進ガイド」(日経BP社)に寄稿。