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日本企業のメタバースに対する意欲は想像以上に高く活用を検討している業種も幅広い

2023年6月 | Expert interview

世界規模で注目を集めているメタバースには、日本企業の多くが興味を持っており、実際に参入、あるいは参入を検討している企業が少なくありません。企業はどのようにメタバースビジネスに取り組もうとしているのでしょうか。現在のメタバースビジネスの現状や日本企業の動向などについて、メタバース活用のコンサルティングを行っているPwCコンサルティング合同会社 ディレクター 岩花修平氏に伺いました。

PwCコンサルティング合同会社
ディレクター
岩花 修平 氏

大手監査法人系コンサルティング会社、外資系統計解析ソフトウェアベンダーを経て現職。デジタルテクノロジーを活用した新規事業の推進や企業の業務改善を支援しており、主にドローンや「空飛ぶクルマ」などの社会実装、XR(AR/VR/MR)やメタバースの導入や事業推進、MaaS(Mobility as a Service)などモビリティ関連ビジネス、IoTや人工知能(AI)、データサイエンスなどの領域を中心に従事している。

PwCコンサルティング合同会社

VRゴーグル3,000台を使ったメタバースイベントを実施

岩花氏はPwCコンサルティング(以下PwC)のTechnologyLaboratoryにおいて、メタバースをはじめとする先端技術のコンサルティング活動を行っています。岩花氏は現在の仕事について次のように語ります。

岩花氏はPwCコンサルティング(以下PwC)のTechnologyLaboratoryにおいて、メタバースをはじめとする先端技術のコンサルティング活動を行っています。岩花氏は現在の仕事について次のように語ります。

PwCは早い段階からメタバースのコンサルティングに取り組み、メタバース活用を検討している企業に対して、新規事業や業務改善に関する調査・構想から実装、運用まで一貫した支援を提供してきました。また、PwCも自社の入社式や経営方針の発信といったイベントにメタバースを活用するなど様々なフィールドで実践してきました。経営方針の発信イベントは3,000台のVRゴーグルを用意して、社員に配布する大規模なものでした。(写真1)

「メタバースは実際に体験してみないと分からない世界ですから、自らこうしたイベントを実施して我々のコンサルティングサービスにフィードバックする狙いがありました。メタバースの効果について体験者への調査も行いました。例えばVRゴーグルを使った場合と、使わなかった場合の理解度の差を測るなど調査しました。参加者からは予想以上に好評で、社外からの反響も大きなものでした。課題としてはVR酔いをしてしまう人が一定数いたということです。これも重要なフィードバックとなりました」(岩花氏)

PwCコンサルティングが実施したメタバースでの社内イベントの様子
資料提供:PwCコンサルティング合同会社

地に足のついた取り組みが増えたメタバースビジネス

岩花氏は、最近のメタバースの動向について次のように解説します。

「一時期は、メタバースに対する過剰な反応が多く、話題作りを目的とした“打ち上げ花火”的な取り組みが散見されました。それが2023年に入ってからは少し落ち着いてきました。私どもに届くご相談でも、去年まではとりあえずメタバースの取り組みを始めたいというあいまいなものもありましたが、今はきちんとビジネスモデルや座組を考えるためのコンサルティングが増えてきています。全体的に地に足のついた取り組みになってきていると感じます」

世界規模で様々な企業がメタバース活用に取り組む中、日本企業も非常に意欲的だといいます。

「日本企業のメタバース活用に対する意欲は想像以上に高いです。元々日本はコンテンツビジネスに強いということもあり、日本のメタバースビジネスの動向は海外からも注目されています」(岩花氏)これまでのメタバースは、ゲームやエンターテインメント分野での活用が先行していましたが、PwCには様々な業界から相談があるといいます。

「私どものお客様は、元々メタバースと親和性が高いゲームやエンターテインメント業界だけでなく、製造業やエネルギー系といった、いわゆる成熟産業の割合が大きくなっています。お客様の部署も企画や新規事業開発部門に加えて、営業や製造、管理系など多岐にわたります。幅広い分野のお客様からご相談をいただくことで、メタバースに対する注目度が高いことを実感しています」(岩花氏)

成熟産業におけるメタバースの先行事例は、まだ多くありません。そのため、各企業の特性や目的に合わせて活用できるメタバースビジネスの領域やアイデアを一緒に考えることが多いといいます。

「社内に強力なアイデアマンがいて、最初から具体的なアイデアの検証を依頼される場合もありますが、多くは活用領域の検討から始まります」(岩花氏)

不確実性の高い市場では小さく始めて育てることがポイント

企業は具体的にはどのような形でメタバースを活用しようとしているのでしょうか。岩花氏はいくつかの例を紹介してくれました。

「例えば、人材派遣やアウトソーシングの会社では新たな働く場としてメタバースを検討しています。高齢者や障がい者など、リアルな世界ではなかなか思うような仕事につけない人に就業の機会を提供するような試みです。これは仮想空間によって人間のスキルや経験を拡張した生活の場を作るというメタバースの世界観に沿ったものといえます。また、プラントや工場で危険作業のシミュレーションや教育、遠隔操作に使いたいというところもあります」(岩花氏)

これからメタバースに取り組もうとする企業に対するアドバイスとしては、現状把握と柔軟なアプローチを挙げます。

「現状のメタバースはまだ制約が多く不確実性も高い世界です。メタバースビジネスが今後どのように展開するかもなかなか読みづらい部分はあります。同時に、メタバースビジネスは幅広い領域で大きな可能性を持っています。早い段階で独自の勝ち筋を見出すことができれば、企業にとって強力な武器になります。そのためには、正しく状況を理解して打ち手を考え、それを早めに実行していくことが非常に重要だと思います。その際には小さく始めて、効果を見ながら拡大していくアプローチが望ましいでしょう」(図2)(岩花氏)

不確定要素の多いメタバースビジネスの進め方のポイント

不確定要素の多いメタバースビジネスの進め方のポイント

資料提供:PwCコンサルティング合同会社

  • 本記事は、PwCコンサルティング合同会社 岩花 修平氏への取材に基づいて構成しています。