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生成AIの活用で新しい発想の製品やサービスが生まれる可能性が高まる

2023年12月 | EXPERT INTERVIEW

三菱電機は、AIを様々な機器に搭載できるように、コンパクトかつ高効率な独自のAI技術の開発を進めてきました。

こうした独自のAI技術を「Maisart※(マイサート)」としてブランド化し、事業展開を進めています。

近年発達の著しい生成AIに関しても、製品やサービスへの応用や社内活用のための積極的な取り組みを行っています。

ここでは、専門家から見た生成AIの現状と三菱電機の取り組み、生成AIが社会に与える影響について、三菱電機株式会社 情報技術総合研究所 知識情報処理技術部長の坂手寛治氏に伺いました。

  • Maisart:Mitsubishi Electric's AI creates the State-of-the-ART in technologyの略。 全ての機器をより賢くすることを目指した三菱電機のAI技術ブランド。

三菱電機株式会社 情報技術総合研究所
知識情報処理技術部長 兼 生成AIプロジェクトグループマネージャー
坂手 寛治 氏

三菱電機株式会社 情報技術総合研究所 知識情報処理技術部長 兼生成AIプロジェクトグループマネージャー。

学生時代に画像認識技術の研究開発を経験。三菱電機入社後の2015~2020年は情報技術総合研究所知能情報処理技術部にて、研究者およびグループマネージャーとして深層学習やビッグデータ分析に関わる研究開発に従事。

現在は知識情報処理技術部長として、自然言語処理、音声認識、自動運転、センサーフュージョン等に関わるAI技術開発を牽引するとともに、生成AIプロジェクトグループのマネージャーとして、生成AIに関するインパクト分析や製品開発戦略、知財戦略の検討を推進。ChatGPTの愛好家。

三菱電機株式会社

専門家も驚いた生成AIの急激な進歩新しい活用手法にも注目

坂手氏は学生時代からAIの研究に携わってきたこの分野のエキスパートです。坂手氏は最近の生成AIの進歩と普及の速度は、長年AIを研究してきた専門家にとっても驚きだと語ります。

「これまでの言語系生成AI の受け答えには、どこか機械的で不自然な部分がありました。現在のChatGPTのように自然な受け答えができる生成AIがこれほど早く登場するとは思っていませんでした。また、最近の急激な性能向上を見て普及を確信していましたが、社会に浸透するスピードは予想を超えるものです」

生成AI の技術は今も急速な進歩が続いています。坂手氏は最近注目している生成AIの動向について次のように語ります。

「最近は、新しい生成AI のサービスが次々と登場しています。以前は、生成AIの新サービスを作るときには、データを一から学習させる方法が主流でした。しかし最近は、ChatGPTなど既存の生成AIへの入力を工夫することで学習と同様の効果を得る手法が登場しています。この手法を使って新しい用途への対応を実現したサービスが出てきました。こうした新しいプロンプトエンジニアリングの手法は、既存の生成AIを特定の組織や分野に適応させる手段として注目しています。また、ChatGPT の周辺に他のAIやアプリケーションを接続して用途を拡げる取り組みも盛んです」

生成AIとMaisartの組み合わせで機器がさらに使いやすくなる

三菱電機はAI技術ブランド「Maisart」のもとでAIを活用した様々な製品やサービスを提供しています。三菱電機のAIへの取り組みについて、坂手氏は次のように語ります。

「三菱電機は、総合電機メーカーとして様々な機器やシステム、サービスを提供しています。当社独自のAI技術であるMaisartは、そうした機器やシステムに搭載するために、より演算量が少なくコンパクトに実装できる点が特長で、監視カメラやFA機器などに活かされています」

このMairsartに新たに生成AIが加わることで、機器やシステムをより使いやすくすることが期待できると坂手氏は語ります。(図2)

図2:三菱電機のAI 技術ブランド「Maisart」と生成AI

三菱電機のAI技術「Maisart®」

「生成AIの活用法のひとつとして、機器の知見を生成AIが学習してユーザーをアシストするような使い方が考えられます。例えば、生成AIがお客様の問い合わせにお答えするユーザーサポートです。マニュアル、製品仕様、さらに機器から得た情報などを学習した生成AIが、あたかも私どもの技術者が常に隣にいるかのようにお客様をアシストするといったことも可能になります」(坂手氏)

生成AIであれば24時間365日対応が可能で、多言語展開も容易です。

「また、生成AIを使えばお客様が話し言葉で機器の操作・設定を行うことも可能になります。生成AIをうまく使うことで、Maisartが使う人にとってより親しみやすいものになっていくでしょう。機器の知見を活用した生成AIは、機器を持っている会社にしか作れませんので、これまでにない製品やサービス作りにもつながると思います」(坂手氏)

グローバルIT基盤で生成AIを利用可能にガイドラインや専門組織も設立

三菱電機では生成AIの社内活用も始めています。2023年8月には、三菱電機グループが利用するグローバルIT基盤サービスである「MELGIT(Mitsubishi ELectric Global ITplatform service)」上で利用できる「MELGIT-GAI」をリリースしました。

「MELGIT-GAIは、三菱電機グループの社内システムで使える生成AIのサービスです。国内グループの全従業員約12万人が利用できます。日々の業務、例えば情報収集や整理、議事録の作成などに使うことで、業務効率の改善につながることを期待しています。このサービスはグループ内に閉じているため、よりセキュアに利用することができます。将来的には三菱電機特有の情報を学習させることで、さらに業務に役立つものになると考えています」(坂手氏)

MELGIT-GAIのリリースと合わせて、生成AIにおける機密情報の扱いや注意点などをまとめた利活用ガイドラインもリリースしました。さらに、生成AIプロジェクトグループという新組織が発足。複数の拠点に分散していたAIの研究者を集約し、三菱電機の製品・サービスにおける生成AIの活用方法や知財戦略を検討しています。

急速に普及する生成AIが社会にもたらす影響について、坂手氏は人間の可能性が大きく広がるとポジティブに捉えています。

「生成AIを使うことで、人が処理できる情報量が飛躍的に増大します。膨大な知識と高い言語能力を有し、分からないことをすぐに教えてくれる生成AIのアシストがあれば、一人ひとりの能力を高めることができるでしょう。それによって今までにない新しい発想の製品やサービスを生み出すことが可能になります。人の可能性を広げる手段として、生成AIはとても面白い存在です」(坂手氏)

  • 本記事は、三菱電機株式会社 情報技術総合研究所 坂手寛治氏への取材に基づいて構成しています。