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  3. DXと生成AIで激変する日本の労働需給とそれに対応した人材育成のポイントとは
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企業も個人も人材の流動化を前提に
これからの活動を考える時が来ている

2024年9月 | EXPERT INTERVIEW

三菱総合研究所のレポート「スキル可視化で開く日本の労働市場」は、2035年に起こりうる労働需給のミスマッチを予測し、それに対応するためのリスキリングの重要性、生成AIが労働市場に与える影響などに言及しています。ここでは、同レポートを執筆した三菱総合研究所の山藤昌志氏に研究の背景やこれからの企業や個人のあり方などについて伺いました。

株式会社三菱総合研究所
政策・経済センター 特命リーダー 主席研究員
山藤 昌志 氏

株式会社三菱総合研究所 政策・経済センター 特命リーダー 主席研究員。人材、労働、社会保障分野を中心とする政策提言、労働需給や人口動態、健康寿命等に関するシミュレーション、各種統計手法を活用したデータ解析などを行っている。DX、アフターコロナ、人材戦略などに関する寄稿・講演も多数手掛ける。

株式会社三菱総合研究所

最新の情報を取り入れて
労働需給の予測をアップデート

山藤氏はデータ起点で定量的なエビデンスを提示し、それをもとにした考察を政策提言につなげるというアプローチで研究を行っています。同氏はレポート「DXがもたらす雇用影響とデジタル人材育成」を作成したきっかけについて次のように語ります。

「今回のレポートは2018年に試算したものをベースにその後の環境変化を加味したものです。2018年当時、すでに日本の労働力人口が減少することは確実でした。一方でDXやIoT、AIなどが注目され、デジタル技術が人間の雇用を奪うのではないかという脅威論も広まっていました。しかし、労働力減少とデジタル技術の双方が与える雇用への影響について、データに基づいて明確な答えを出している研究はありませんでした。そこで、様々な要素を勘案したうえで労働需給のバランスがどうなるかを、中長期的なスパンで明らかにしたいと思ったのが、この研究の始まりでした」

内容の更新に当たっては、DXやAIに加えてGXや経済安全保障の枠組みにおける半導体産業の再生などの新要素が加えられました。労働需要の予測ではこれらの技術が普及した場合に、どのセクターの雇用にどのくらいのインパクトがあるかを積み上げて算出しています。その結果、2035年に総数で190万人の労働力が不足し、さらに職種による需給のミスマッチにより670万人の労働力不足が起こりうるという予測が立てられています。

「労働需要は、日本が技術革新をうまく取り入れて構造変化を実現できた場合にどういう人材が必要になるか、という試算を積み上げています。そのため、“必ずこうなる”という数字ではありませんが、2035年にこのような構造変化を実現していないと日本経済は厳しい状況に陥っていると考えられます」(山藤氏)

事務系職種の比率が高い日本の人材ポートフォリオ

人材ポートフォリオの他国との比較では、国ごとの産業構造の違いを考慮する必要があると山藤氏は話します。

「日本は製造業が強いので、必然的に製造現場に代表される定型的・作業的なタスクに従事する人材が多くなります。そのこと自体には何の問題もありません。問題だと思うのは分析的・定型的タスクに分類される職業、つまり一般的な事務職に従事する人の数が多いことです。米英ではこの分野の人材が急速に減少しているのに対し、日本は事務職の割合が高いだけでなく、ほとんど変化がありません。今後の労働需要の変化に対応するためには、ここに属している人材をより創造的なタスクにシフトしていくことが求められます」(山藤氏)

「FLAPサイクル」で職のミスマッチを乗り越える

リスキリングやキャリアシフトを行うための方法として、三菱総合研究所では「FLAPサイクル」を提唱しています。FLAPサイクルは、働く人が新しいスキルを身につけてキャリアをシフトするための4つのプロセスを分かりやすく表現したものです。“FLAP”は「知る(Find)」「学ぶ(Learn)」「行動する(Act)」「活躍する(Perform)」の頭文字からきています。

「三菱総合研究所では2018年から職のミスマッチを解消する方法としてFLAPサイクルを提唱しています。最近になって注目されている人的資本経営の中身を見ると、FLAPサイクルと共通する項目が含まれており、その主旨は非常に近いものです。日本の労働市場は、FLAPの4要素の中でも、最初の要素である“F=知る”についての問題を多く抱えています。日本では、職種によって求められるスキルや、現在の自分の立ち位置、これからの成長分野はどこかといった情報が不足しています。正確な情報をもとに、現状と目標のギャップを理解し、足りない部分を学び、新しい場所に移って活躍する、このサイクルの起点としての“知る”を充実させることが重要だといえます」(山藤氏)

図:FLAP サイクルによる DX 人材育成

出典:三菱総合研究所

スキルベースへの移行には
しっかりとした職務範囲の定義が必要

欧米・アジアで注目されているスキルベース組織について、山藤氏は次のように語ります。

「ジョブベースの雇用が普及している海外では、ジョブによって画一的に職務範囲が区切られてしまうと、人間の持つ多彩なスキルが活かせないという不便さなどから、スキルベース組織が注目されています。日本が職能資格制度からジョブ型へと移行する一方で、海外はジョブ型から人間のスキルを活かす方向へと、双方のマネジメントが近づいているイメージがあります。ただ、スキルベース組織では、業務や個人のスキルを非常に細かいデータとして定義しますから、まずはジョブベースで職務をしっかりと定義し、その上でスキルベースに移行することが望ましいと考えられます」

最後に今後の労働市場の変化に企業と個人はどう対応すべきかについて山藤氏に伺いました。

「企業も個人も人材が流動化することを前提に、これからの活動を考える時が来ていると実感しています。企業は優秀な人材を雇用し続けるために、そこで働くことの魅力を高める必要があります。個人としては、会社だけに頼らずに、自分のキャリアについて自立して考えることが求められるでしょう」