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イノベーション経営の実践は
ISO 56001/ISO 56002を活用し
アントレプレナーシップを発揮すること

2025年3月|EXPERT INTERVIEW

イノベーション・マネジメントシステム(IMS)の国際規格である「ISO 56001」「ISO 56002」を活用することで、イノベーションを推進する経営体制を構築し、活動を効率的に進めることができます。しかし、イノベーション経営体制が整備されても、経営陣や従業員がアントレプレナーシップ(起業家精神/ 挑戦者魂)を持たない限り、その効果は限定的です。そこで、ISO 56000シリーズの原案作成から一語一句の国際交渉に10年間関わり続けている唯一の日本人であり、現在は世界トップクラスのスタートアップ・エコシステム育成機関Startup Genome社の日本法人Startup GenomeJapan株式会社で代表取締役社長を務める西口尚宏氏に、既存組織がイノベーションを興すためのヒントを伺いました。

上智大学特任教授
Startup Genome Japan株式会社 代表取締役社長
西口 尚宏 氏

上智大学特任教授、Startup Genome Japan 株式会社 代表取締役社長、GlobalEntrepreneurship Network (GEN) 日本マネージングディレクター。上智大学経済学部卒業。ノースウェスタン大学ケロッグ経営大学院でMBAを取得。日本長期信用銀行、世界銀行グループ、マーサー、産業革新機構などを経て現職。GENでは「イノベーション経営ブートキャンプ」を主催し、イノベーション経営の実践支援やコンサルティング会社と共同でアセスメントサービスを行うことで、イノベーション経営の実践的な普及を推進している。

Startup Genome Japan 株式会社 上智大学

認証規格「ISO 56001」の発行により
イノベーション経営は第四世代に突入

イノベーション経営は、2004~2005年にシリコンバレーでデザイン思考やスタートアップ創業ノウハウが教育プログラム化され、イノベーション手法の可視化・定型化が進んだことを起点とします。しかし、組織としての導入は容易ではなく、これがイノベーション経営への関心を高める契機となりました。その結果、2008年から欧州で研究が進められ、2013年にイノベーション・マネジメントの欧州規格が発行されるまでの期間を「第一世代(胎動期)」と位置づけます。

2013年以降、欧州を中心にイノベーション経営の導入が本格化し、「第二世代」が始まりました。同時にISOの委員会で規格開発が進み、2019年に国際標準規格であるガイダンス規格「ISO56002」が発行され、「第三世代」へと移行しました。

その後、2020年に「ISO 56000」が発行され、さらにテーマ別の国際規格が追加されました。そして2024年9月、認証規格「ISO 56001」が発行され、「第四世代」が始まりました。

第四世代の特徴は、「ISO 56002」と「ISO 56001」の共存にあります。特に「ISO 56001」は、イノベーション経営体制における必要最低限の要求事項を定めた国際規格として、各国での活用が進んでいます。

市場変化への迅速な対応と
アントレプレナーシップの浸透が重要

欧州で始まったイノベーション経営は、第一世代で欧州レベルで国際規格を研究しながら、第二世代で大企業から中堅・中小企業まで幅広く導入されました。また、国家もスタートアップのエコシステム構築を進め、活動を強化していきました。

「既存組織とスタートアップの双方で再現性の高い成果が出る仕組みを整えてきた欧州の場合、イノベーション経営とスタートアップのエコシステムは密接にリンクしています。国の競争力を高めるためには産業が生まれなければならない、グローバルで勝たなければならない。そのためには国家として支援するべきというのが欧州の考え方です」(西口氏)

「日本のグローバル競争力の欠如は調査結果からも明らかです。スイスのビジネススクールIMDが発表した2024年の世界競争力ランキングの経営手法に関する順位では、日本は67カ国中65位でした。調査項目の指標の一つが「マネージャーへの起業家精神の普及度」です。多くの日本企業では、現業優先の文化が強く、経営陣や管理職が現業に追われて新しい挑戦を奨励しない傾向があります。私が支援してきた日本を代表する企業でも、新規事業の話になると“経営層が決断しない”、“社内説明に膨大な時間がかかる”といった声が聞こえてきます。しかし、ISO56001を活用することで、より戦略的かつシステマティックにイノベーション活動を推進することができるようになっていきます」(西口氏)

イノベーション経営の推進は
アセスメント、決断、実行の3ステップ

西口氏は、既存組織がイノベーション経営を実践するためには、3つのステップで進めることが重要だといいます。

「イノベーションが興る経営体制を作るためには、まず企業の現状を理解するアセスメントから始めます。最初は多くの項目で未達があるのが普通です。ISO 56001の箇条4から箇条6までには、経営者として何をすべきかを規定しました。箇条7には現場の成功確率を上げるために必要な11の支援内容、箇条8には現場の活動で必要な5つのプロセスを規定しました。これによって、経営体制のギャップ分析ができます(PR TIMES 記事参照)」(西口氏)

アセスメント後の2つ目のステップは、会社として構築するイノベーション経営体制の方針策定と意思決定です。社長を含む経営陣としての意思決定が必要で、経営陣のコミットメントなしではイノベーション経営は実現しません。

3つ目のステップは、イノベーション経営体制構築を実行し、実践を始めることです。実践しても、すぐに満点に達することはありません。箇条9と箇条10で規定されているように継続的な改善を重ねていくことが必要です。

イノベーション経営推進のステップ

©GEN Japan 2025

ISO 56001の取得を“錦の御旗”に
部門単位で変革を先行して全社に展開

イノベーション経営体制を構築するアプローチには、部門単位で独自で進める方法と、経営企画部門などが主導して全社的に進める方法の2つがあり、いずれにおいても「錦の御旗」を掲げて進めるのが重要だといいます。

「効果的なのは、ISO 56001の認証取得を目指すことです。認証取得を“錦の御旗”にすることで、変革が加速する例を複数知っています。私が支援している日本を代表する企業でも、経営陣の意思決定の遅れにしびれを切らしたある部門が、独自にISO56001の認証を取得しようと動き出しました。特定の部門が先行することで、それが触媒となって会社全体に波及していくモデルですね。認証取得した部門が社内のチェンジエージェントになっていくわけです」(西口氏)

2025年以降、あらゆるテーマで共通するのがAI(人工知能)の活用で、避けて通ることができないと西口氏は語ります。

「今後、AIの活用はイノベーション経営における中核テーマとなり、企業の競争力に直結します。例えば、ISO 56001を活用しながらAIを組み込んだイノベーションプロセスを構築することで、より迅速かつ効果的な経営判断が可能になります。昨年末に上智大学とUCバークレーで共同開催した「イノベーション・ブートキャンプ」(上智大学 記事参照)でもAI活用が主要テーマの一つでした」

最後にイノベーション経営に取り組む企業や担当者に対して、西口氏は次のようなメッセージを送ってくれました。

「失われた30年で日本が失ったものとはアントレプレナーシップ(起業家精神/ 挑戦者魂)です。イノベーション経営では、挑戦者魂を社内で広め実践する経営体制を作ることで、多くの挑戦者が新しい事業機会を見つけ、それを実現していくことが最も重要です。そのためにもイノベーション経営の国際規格を活用し、アントレプレナーシップに満ちあふれた組織へと変革することが企業の競争力強化に必須であり、多くの企業が挑戦すべきと思います」