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ウェルビーイング経営の第一歩は、組織として目指す姿を自分たちで決めること

2022年6月 | Expert interview

ウェルビーイング経営には決まった形や手法がないため、実際に取り組もうとするとどこから手を付けて良いのか分からない企業も多いのではないでしょうか。ここでは、実際にウェルビーイング経営に取り組む際の注意点などについて「ウェルビーイング経営の考え方と進め方」の著者であり、様々な企業のウェルビーイング経営への取り組みを支援してきた武蔵大学 経営学部 経営学科教授の森永雄太氏に伺いました。

武蔵大学
経営学部 経営学科教授
森永 雄太 氏

兵庫県宝塚市生まれ。神戸大学大学院経営学研究科博士後期課程修了。博士(経営学)。著書は『ウェルビーイング経営の考え方と進め方:健康経営の新展開』(労働新聞社、2019年)、『日本のキャリア研究―専門技能とキャリア・デザイン』(白桃書房、2013年, 共著)など。これまで日本経営学会論文賞、日本労務学会研究奨励賞、経営行動科学学会大会優秀賞など学会での受賞の他、産学連携の研究会の副座長、HRサービスの開発監修等企業との連携も多い。

トップが強いメッセージを打ち出すことで社内の意識が変わる

経営学者である森永氏は、従業員のモチベーションを高める研究を起点として、その土台となる健康にも注目、現在は健康経営®の新しい展開としてのウェルビーイング経営を研究しています。

同氏は様々な企業と協力して研究を進めるほか、ウェルビーイング経営に取り組む企業への助言なども行っています。企業がウェルビーイング経営に取り組むうえでは、まず自分たちが目指すべきウェルビーイングな従業員像を描き、それをトップからのメッセージとして発信することが重要だといいます。

「最初に、我が社はこういうウェルビーイングを目指すんだということを、誰かの言葉を借りるのではなく、社内で議論して決めていく作業が不可欠です。組織のトップが組織として目指す姿、従業員に求める姿をきちんと示し、そこに向けて取り組んでいくというメッセージを発信することが非常に大切です」

トップがウェルビーイングへの取り組みについて明確な姿勢を打ち出すことは、健康に対する社内の意識を変える効果があるといいます。

「誰でも健康が大切だということは分かっていますが、仕事をするうえでは、どうしても体の不調を我慢したり、治療を後回しにしてしまうことがあります。組織の方針としてウェルビーイングを据えることで、健康を優先的に取り組むべき問題として引き上げる、あるいは仕事と健康のどちらを優先するかというジレンマ自体を課題として議論の俎上に上げることが可能になります」(森永氏)

先進事例の施策を参考に、自社のカルチャーにあったスタイルで実施する

ウェルビーイングを会社の方針として据えることで、これまでは個別に行われてきた健康診断やメンタルケア、働き方改革などの施策もそれを実現するための手段として統一性を持たせることが可能になります。そのためには、ウェルビーイング施策に関わる複数の部署が情報を共有する場が必要です。

「ウェルビーイング経営に取り組んでいる企業では、例えばウェルビーイング推進部のような部門を設立し、ここをハブとして関係する部署間の連携や情報共有を行っていくところが多いです。もちろん、専門性を要求される施策もありますので各部署の役割分担は必要となります」(森永氏)

ウェルビーイングに取り組む企業が増えたことで、以前に比べ、多くの事例が報告されるようになりました。先行事例を自社に取り込む際には自社のカルチャーに合わせて改善していくことが必要だといいます。

「私の参加している研究会では1年間限定で全社が同じ施策を実行してみたことがあります。同じ施策でも取り組み方は企業によって大きく異なり、イベントとして盛り上げる会社もあれば、組織で決めたこととしてきちんと取り組む会社もありました。自社にとってどういう形で取り入れるのが最適かという部分はそれぞれ工夫のしがいがあるところだと思います」(森永氏)

ただ、共通するのは楽しみながら取り組めるようにすることが重要だという点だと森永氏はアドバイスします。

「例えば、健康に関するイベントを開催する時に、もともとそれほど健康意識が高くない人にも参加してもらうためには、あまりストイックになりすぎないことを心がけるべきです。最初は、楽しそうだから参加してみようかといった気軽な感じで健康的な習慣に触れてもらうほうが良いと思います」

図2:ウェルビーイング経営に関わる施策群

図2:ウェルビーイング経営に関わる施策群

ウェルビーイング経営に関わる施策は非常に幅広い。複数の部署が関与するため、統合運用や情報共有の仕組みを整える必要がある。出典:武蔵大学 森永 雄太 氏

働く人の状態をより正確に把握するためのIT活用に期待

ウェルビーイング経営を継続するためには、働く人たちの心身の状態をきちんと把握して、施策の効果を測定し、改善を続ける必要があります。現在はアンケートやインタビューといった自己申告による調査が主流です。森永氏は、この状態把握や測定の部分でのIT活用に期待をしています。

「センサーなどで体の状態を測定することで、心身の状態をこれまでと違った形で捉え、マネジメントに活かしていける可能性はあると思います。例えば睡眠の質などはこれまで自己申告に頼っていましたが、ウエラブルデバイスで睡眠の状態を計測すれば、より質の高い情報が得られます。また、感情のようにうつろいやすいものを短い間隔で調査するパルスサーベイもITを使うことで実施しやすくなります。もちろんデータの扱いには注意が必要ですが、こうした測定によって得られたデータをうまく活用することでマネジメントの革新が起きるかもしれません」

今後のウェルビーイングの展望について、森永氏は一過性のブームで終わらないような地に足の付いた取り組みが求められると語ります。

ここ数年、ウェルビーイングという言葉を多くのメディアで目にするようになり、企業内でウェルビーイングを推進したい人にとっては大きな追い風になっています。ただ、いわゆるバズワードで終わってしまうことも懸念しています。ウェルビーイングについて一度冷静に考えて、その目指すべき姿を忘れないように取り組むことが大切だと思います」

  • 健康経営®は、NPO法人健康経営研究会の登録商標です。