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非IT部門でも分かるやさしいデジタルトランスフォーメーション(DX)

2021年9月 | Special focus

現在、多くの企業が取り組んでいるのが「デジタルトランスフォーメーション(DX)」です。デジタル技術を駆使することで、ビジネスのあり方や利益の出し方を根本的に変えるDXは、社会や人々の生活を変えるほどの影響力を持ち始めています。本特集では、DXとはどのようなものか、なぜ取り組む必要があるのか、どのように実現するのかについて、非IT部門の方にも分かるように解説します。

デジタルトランスフォーメーション(DX)とは

現代は、インターネット、クラウド、モバイル、AIなど様々なデジタル技術が普及しています。多くの企業がこうしたテクノロジーの活用を前提としたビジネスを展開することで、既存のビジネスが全く違う形に変わったり、今までにない新しいビジネスが生まれたりしています。また、人々の生活や社会のあり方もデジタルを前提としたものに変わってきています。その変化のスピードは今までにないほど速くなっています。

このような時代に既存の企業が競争力を維持するためには、製品やサービス、ビジネスモデル、さらに組織、プロセス、企業文化など、あらゆるものをデジタルを前提にした形に変える必要があります。これが「デジタルによる変革」=デジタルトランスフォーメーションです。

DXの代表的な例として挙げられるのが、米国のレンタルビデオチェーンが世界を代表する動画配信サービスへと変貌したケースです。レンタルビデオ店のデジタル化といえば、ネットで在庫を見てレンタルの予約ができたり、宅配で貸出と返却ができるようにすることが従来の常識でした。しかし、この会社ではDVDのようなモノのやりとりを止めてネットワークで動画を配信するようにしました。また、毎月一定の金額を払えば動画が見放題になるサブスクリプション制のビジネスモデルを導入することで、利用者を一気に拡大しました。さらに独自コンテンツによって他社との差別化を図るため、映像作品の自社製作も行っています。「顧客に映像作品を届ける」というサービスの根幹は変わりませんが、ビジネスモデルはもちろん組織や文化など企業のあらゆるものが、まさにデジタルを前提としたものに変容(トランスフォーム)しました。

そのほか、コロナ禍で日本でも急速に普及した誰でもすぐに配達員になれるフードデリバリープラットフォームや、データをもとにした強力なレコメンド機能を備えたネット通販などもDXの代表的な事例といえます。

変革の対象は業務ではなく顧客に提供する価値

既存のビジネスや企業の仕組みの多くはアナログ技術をベースに構築されてきました。紙の書類やハンコなどはその象徴といえます。

これまで行われてきたデジタル化は従来のアナログベースの仕組みやプロセスをそのままデジタルに置き換えることがほとんどです。変革の対象は業務でした。デジタル化によってコスト削減や生産性向上は実現しますが、ビジネスの仕組み自体は変わりません。もちろんDXでもコスト削減や生産性向上は実現しますが、DXの変革の対象は業務ではなく顧客に提供する価値です。顧客に提供する価値を高めるためにビジネスの仕組みやあり方そのものを変革します。それにより利益増大と成長を実現します。

見えない部分も含めた徹底したデジタル化とデータ活用

DX事例に共通するポイントとしては徹底したデジタル化とデータの活用が挙げられます。

DXを実践する企業ではビジネスプロセスのデジタル化が徹底されています。顧客との接点となるWebサイトやスマホアプリといった目につきやすい部分が注目されがちですが、DXではバックオフィスも含めてすべてがデジタルで処理され、自動化できる部分は自動化されていることがポイントになります。ビジネスプロセスのどこかにアナログ的で非効率な部分があるとそこがビジネス全体のボトルネックになってしまいます。

DXではデジタルで行うことが基本であり、アナログプロセスや人間による作業は、デジタルでは代替不可能であったり、それがビジネスにとってプラスになる場合に限られます。

徹底したデジタル化は企業文化を変革するうえでも重要です。デジタルを前提としたビジネスを行うためには、まず徹底したデジタル化を行い、デジタルを駆使した発想が自然と共有される、”デジタルファーストな”企業文化を育むことが求められます。

また、データの活用はDXの最重要ポイントです。DXではデータによってビジネスの状況を把握し、意思決定に役立てます。AIによる意思決定支援や自動化を行ううえでもデータは欠かせません。データは顧客の意思決定も支援します。過去の購買履歴やプロフィールに基づいた的確なレコメンドは顧客の維持や単価上昇に大きな威力を発揮します。DXではデータが貯まれば貯まるほど、従業員や顧客が便利になるような仕組みを作ることが目標となります。これからの企業には、デジタルファーストな企業文化とともに、データを使ってビジネスを進める「データドリブン」な企業文化も求められます。

DXは一日にしてならず 段階を踏んだデジタル化が求められる

DXはいわばデジタル化の集大成といえます。企業文化の変革も必要ですから一朝一夕には実現できません。

まだアナログプロセスが多く残っている企業がDXに取り組む場合には、まず「デジタイゼーション」と「デジタライゼーション」というデジタル化の2つの段階を踏む必要があります。

デジタイゼーションとは、アナログ情報のデジタル化です。ペーパーレス化が最も分かりやすい例でしょう。デジタイゼーションによって、まずすべての情報がデジタルでやりとりされるようにします。次の段階のデジタライゼーションはプロセスのデジタル化です。今まで順番に回覧していた文書をサーバー上で共有したり、Webで閲覧するような変更です。同時にプロセスの見直しや最適化も進めていきます。

2つのステップで重要なのが将来のDXにつながるようなビジョンを持って実施することです。具体的にはデータを活用できる形で蓄積できるような仕組みにし、どのように活用するかを考えていくことが求められます。

こうした段階を経てデジタルファーストな企業体質が定着すると、蓄積されたデータやデジタルな仕組みを生かして顧客に新たな価値を提供する体制が整います。遠回りのようですが、現在DXを体現している企業の多くも地道なデジタル化の積み重ねの結果としてデジタル時代に適したビジネスモデルを獲得しています。拙速なDX化は現場に混乱をもたらすリスクもあります。しっかりと段階を踏んだ計画的な取り組みが求められます。

業務変革とDX

業務変革とDX

DXと業務改革の違い。
業務改革が生産性の向上を目指すのに対してDXは新たなビジネスの創出を目指す。
出典:『いちばんやさしいDXの教本』(インプレス刊)

DX実現のステップ

DX実現のステップ

既存のビジネスがDXに取り組む際にはデジタイゼーションとデジタライゼーションの2ステップを踏む必要がある。
出典:『いちばんやさしいDXの教本』(インプレス刊)

  • 本記事は、ディップ株式会社 亀田重幸氏への取材に基づいて構成しています。
  • 本記事は、情報誌「MELTOPIA(No.257)」に掲載した内容を転載したものです。

ディップ株式会社
商品開発本部 次世代事業統括部 dip Robotics 室長
亀田 重幸 氏

プログラマーやインフラエンジニア職を経て、アルバイト・パート求人掲載サービス「バイトル」のスマートフォンアプリの企画立案を担当。エンジニアとディレクターという両側面のスキルを生かし、数多くのプロジェクトマネジメントを手掛ける。ユーザー目線を重視した顧客開発モデルを取り入れ、UXデザイナーとしても活躍。著書『いちばんやさしいDXの教本』(インプレス刊)