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DX

Digital Transformation

DXとは何か、なぜDXが注目されるようになったのか

デジタルトランスフォーメーション(DX)とは元々、スウェーデン・ウメオ大学のエリック・ストルターマン教授が提唱した「IT(情報技術)が社会に浸透することで、人々の生活があらゆる面でより良い方向に変化する」という比較的あいまいな概念です。それを、IDCやガートナーといったIT調査会社などが2010年代後半に、IT企業やユーザー企業に対して「DXとはデジタルプラットフォームを利用したビジネス変革である」と打ち出したことで、近年、急速に注目されるようになってきました。

現在、多くのユーザー企業がDXの専門部署を立ち上げたり、DXプロジェクトのPoC(概念検証)を実施したりすることで、DX推進に取り組んでいます。DXに注目が集まる背景には、多くの企業において、既存システムがレガシー化し、クラウドサービス、データ分析、ソーシャルメディアといった新しいデジタル技術を活かせていないという認識があります。つまり、デジタル技術の進化に追い付いていないため、爆発的に増加するデータを自社の事業に活用できておらず、競争力強化、ビジネスモデルの変革、新たなビジネスモデルの構築が難しくなっているのです。実際、多くの企業において、情報システム部門のリソースの多くは基幹システムの運用保守に取られており、最新のデジタル技術を活かした新しい取り組みはあまり行われていないのではないでしょうか。

こうした現状に危機感を抱いた、日本の経済産業省もまた、『DXレポート ~ITシステム「2025年の崖」の克服とDXの本格的な展開~』を発表しました。このレポートでは、「DXの実現やその基盤となるITシステムの構築を行っていく上で押さえておくべき事項」を指摘するとともに、海外企業と比較して国際競争に遅れていること、この状態のまま放置すればデジタル競争の敗者となること、すなわち「日本全体の経済停滞=2025年の崖」に直面することを指摘しています。そして、DXを推進するには、ガイドライン策定、中立的な診断スキームの構築、ユーザーとベンダーの新たな関係、DX人材の育成・確保などが必要となると指摘しています。

DXはどのように分類されるか、現在どのような分野でDXが推進されているか

現在ユーザー企業内で進められているDXは大きく、「守りのDX」と「攻めのDX」に分類できます。すなわち、既存の業務を効率化するためのDXと、新たなビジネスを生み出すDXです。

守りのDXでは、デジタル技術の活用を通じて組織や業務を変革します。競争力を強化するには、組織構造や業務プロセスを変え、それに合った形に情報システムを変更しなくてはなりません。ただデジタル活用を妨げている既存システムは変更する必要がありますが、必ずしも基幹系システムを全面刷新する必要はありません。財務諸表を作成する、生産計画を立案するといった基本機能は変わらないからです。

逆に言えば、守りのDXを推進する上では「変わること」と「変わらないこと」を見極め、人手による作業や作業の重複を減らし、業務を効率化・自動化するためのシステムを再構築するのです。実際、こうしたDX推進による業務改革は、国や官公庁などにおいても進められています。たとえば経済産業省は、法人データ交換基盤により官民データ連携を通じて手続きの簡素化を図っています。

経済産業省の法人データ交換基盤

一方、攻めのDXでは、新しいビジネスや取り組みを実現します。ビジネスモデルを変革し、新規事業や新製品・サービスを創出するには、それを支えるシステムが必要です。

実際、金融業界においては新たなDXビジネスが誕生しています。クラウドやブロックチェーンといった技術を活用して、キャッシュレスや仮想通貨、クラウドファンディングなどのサービスが誕生しました。あるいは、FinTech(フィンテック)企業の提供するアプリ上では、口座情報を持っている銀行とのデータ連携によりユーザーが残高を照会したり、資産を運用したりといったことが可能になっています。あるいは、生命保険会社はユーザーの健診データと連携した、健康年齢に応じた新しい保険サービスの提供を始めています。

DXを実現する技術とは、DXによって可能になるビジネスモデルとは

残すシステムと変更するシステムを見極め、整理して、人手による作業や作業の重複を減らして効率化・自動化するシステムを構築する上では、RPAツールやノーコードツールの使用、AIの活用が有効です。実際、現在多くの業務部門においてRPAツールやノーコードツールで構築された業務システムと基幹系システムをデータ連携することで、業務の自動化や効率化が図られています。また、AI技術も業務効率化に役立てられています。例えば、伝票や書類の自動処理には画像認識技術が、議事録の作成や営業日報の入力などには音声認識や自然言語処理が使われるようになっています。

また攻めのDXは、多くの「X-Tech(クロステック、エクステック)」によって実現されています。X-Techとは、既存の産業とデジタル技術を組み合わせることで、新たな製品やサービス、ビジネスモデルと価値を生み出す取り組みです。現在様々な業界において、IoTやセンサー、AIやビッグデータ、ロボティクスやブロックチェーンといったデジタル技術を活用することで、フリーミアムやシェアリングエコノミー、クラウドソーシングといったビジネスモデルによる新しい事業やサービスが誕生しました。特に、金融や広告、小売といった産業では既存事業者のビジネスモデルを破壊しています。今後はAIやIoTの活用で、農業や建設、医療や教育といったデジタル化が遅れた産業で大きなイノベーションを起こすでしょう。

近年、X-Techのサービスが次々と生み出されるようになった背景には、「ITリソースの価格が下がり利用のハードルが下がった」「スマートフォンなどの普及で顧客接点を持ちやすくなった」「仮想化技術やクラウドコンピューティングの進化でデータ処理能力が向上した」ことなどがあります。ただし、本質的な顧客にとっての価値は、業務効率化や資産活用、価格引下げなどであることには変わりがありません。

X-Techのビジネスモデル

DXが実現する未来とは、そのために必要になるものとは

今後、DXを社会全体で推進していく上では、社会のデータの収集、分析、活用というサイクルを実現することが重要になります。そのためには、IoTシステムが欠かせません。実際、IoTシステムは、倉庫における荷物の位置情報取得、コンテナ内における温湿度の管理、店舗内の顧客動線分析、住宅地における不審者検知、渋滞状況の配信、独居老人の異常検知、光量・CO2濃度を制御した農業など様々な領域におけるサービス提供が始まっています。

こうしたサービスを支えるのがIoTプラットフォームであり、2020年に日本でも開始された5Gの通信インフラです。IoTプラットフォームは、膨大なデータを収集・分析・学習して、現実世界に価値を提供します。一方、5Gは、「高速・大容量」と「低遅延」「多接続」を可能にします。これにより、「エッジコンピューティング」によるサービスが提供できるようになると考えられています。

エッジコンピューティングでは、通信経路の近くでデータ処理し、ネットワークを仮想的に分割する(ネットワークスライシング)ことで、負荷分散やコスト削減を図りつつ、リアルタイムで信頼性の高いサービスを提供できるため、顔認証入退勤管理、気象予報、ドローンや農業機器の制御、工場の異常検知など、様々な分野における活用が期待されています。

エッジコンピューティング

こうしたIoTを活用したイノベーションのうち、最近特に注目されているのが「サイバーフィジカルシステム(Cyber-Physical System、CPS)」という概念です。

これまでのIoTシステムでは、ネットワークや領域ごとにデータが分断される形でデータが収集、蓄積、分析されていました。CPSでは、ネットワーク・領域横断的に収集したデータを、大規模データ処理技術によって分析、知見化することで、そこから得られる価値を産業の活性化や社会問題の解決につなげていきます。

現在日本においても、都市開発、交通整備、医療福祉など、様々な領域でCPSの取り組みが行われています。例えば、国会図書館を書籍や論文およびそのコンテキスト情報の「知識インフラ」とする、全コンビニエンスストアにセンサーを設置して照明・空調機器を制御して省エネを実現する、船舶にセンサーを設置して運航データを分析することで入港による待機ロスを削減する、健康データと運動データを組み合わせて健康維持・増進を図る、センサー情報と過去の降雨情報などを組み合わせて半日先の豪雨予測と適切なダム放流につなげる、といった試みが行われています。

またドイツでは、「Industry 4.0」という製造業の国家プロジェクトとしてCPSを推進しています。Industry 4.0は、機械・デバイス・センサーを相互接続させて通信させる「相互運用性」、実世界の仮想モデル作成し情報を解釈可能にする「情報透明性」、危険で困難な人の課題を支援する「技術的補助」、観測データをサイバー空間で定量的に分析して意思決定を自律化する「分散型決定」によって、「スマートファクトリー=考える工場」を実現しようとする試みです。Industry 4.0により、拡張性・汎用性の高い生産能力、計画に基づく定期保全と稼働データに基づく予防保全、柔軟な製品製造(大量生産の仕組みを活用したオーダーメイドの製品作り=「マス・カスタマイゼーション」)、習熟が容易な製造システムなどが可能になるのです。

一方日本では、CPSの概念を社会全体に広げる取り組みも始まっています。社会全体の変革を促す「Society 5.0」です。これまでの情報社会では知識や情報が共有されないため、分野横断的な連携が不十分でした。Society 5.0では、すべての人とモノをIoTでネットワーク化し、そこから得られる様々な知識や情報を社会で共有することで、少子高齢化や地方の過疎化、貧富の格差や温室効果ガスの排出削減、エネルギー・食料の需要増加といった社会課題を解決するのです。そのためには、収集したビッグデータをAIが解析し、ロボットなどのデジタル技術を活用しなくてはなりません。

Society 5.0の下では、AIやロボットが人間の行っていた作業や調整を代行するため、人々は日々の煩雑で不得意な作業などから解放され、誰もが快適で活力に質の高い生活を送れるようになるでしょう。