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スマートファクトリー

Smart Factory

スマートファクトリーの概念を生んだインダストリー4.0(第4次産業革命)とは

スマートファクトリーとは、デジタルデータを活用して、設計から製造、保守に至るまでの製造プロセスの改善で生産性向上を実現する工場のことです。

スマートファクトリーの概念は、ドイツ政府が2011年に公表した「2020年に向けたハイテク戦略の実行計画」の中で示された施策の一つ「インダストリー4.0」構想から生まれました。

インダストリー4.0は「第4次産業革命」という意味合いで作られた造語です。1990年代のインターネットなどICT活用によって起きた大きな変化は、「デジタル革命」あるいは「第3次産業革命」と表現されることもあります。インダストリー4.0は、その第3次産業革命に匹敵する大きな変革がまさに起きようとしていることを示しています。

インダストリー4.0では、IoTやAIなどの先進技術を用いてデジタルデータを活用・分析することで、スマートファクトリーを中心としたエコシステムの構築を目標に掲げています。ドイツでは、政府の主導の下でインダストリー4.0への取り組みが強力に推し進められており、ドイツ国内における先進的な取り組み事例170件をまとめた「use cases Industrie 4.0」も公表されています。

日本政府が推進するスマートファクトリー

ドイツのインダストリー4.0が成果をあげていることを受けて、日本の経済産業省は2017年3月に「コネクテッド・インダストリーズ」構想を発表しました。人・モノ・技術・組織などがつながることによる新たな価値創出が、日本の産業の目指すべき姿であるとしています。

具体的には、「リアルデータの共有・利活用」、「データ活用に向けた基盤整備」、「さらなる展開」という横断的な政策により、新たな付加価値を生み出すことで社会課題を解決する産業を創出する長期的構想です。重点的に取り組む分野として、「自動走行・モビリティサービス」、「ものづくり・ロボティクス」、「バイオ・素材」、「プラント・インフラ保全」、「スマートライフ」の5つがあげられています。

コネクテッド・インダストリーズの指針とすべく、2017年5月には「スマートファクトリーロードマップ」が発表されました。サブタイトルは「第4次産業革命に対応したものづくりの実現に向けて」となっていて、ここでも第4次産業革命という言葉が使われています。

内容は、企業が取り組むべきスマート化の方向性やレベルを提示する調査報告書になっています。品質の向上、コストの削減や生産性の向上など、スマート化の7つの目的に対して、3つのレベルごとにIoTなどの先端技術をどのように活用するべきかを具体的に指南しています。また、スマートファクトリーとしてすでに成果をあげている事例を取り上げ、それぞれの事例について成功のポイントを整理しています。

ドイツが国をあげて提唱するインダストリー4.0や、日本政府が打ち出したコネクテッド・インダストリーズの内容を見ると、第4次産業革命はスマートファクトリーが主役であり、工場のスマート化を推進することが国策ともいうべき重要な課題になっていることがわかります。

ものづくりのスマート化イメージ

ものづくりのスマート化イメージ

出典:「スマートファクトリーロードマッ プ」経済産業省

FA(Factory Automation)からスマートファクトリーへ

製造工程を自動化して生産性の向上を目指したFA(Factory Automation)は、今のIT技術が登場する前から長い時間をかけて模索されてきました。スマートファクトリーの基盤として、FAで培われてきた自動化のノウハウが継承されています。

近年になってスマートファクトリーと形容されるようになった要因の一つに、IoT(Internet of Things)技術の登場があります。IoTとは、これまで接続されていなかったThings(モノ)をインターネットに接続する技術の総称で、日本語では「モノのインターネット」と訳されます。IoTを「PCやスマホだけでなく、日用品・家電・自動車・建物・食物などのさまざまなモノがRFIDや組み込みセンサー、無線LANなどによりインターネットに接続し、識別したり、位置を特定したり、コントロール可能にしようとするビジョン」と定義することもあります。

IoTによって、工場にはどのようなメリットが生まれたのでしょうか。工場における製造機器・装置もIoT技術によってインターネットにすべてつながるようになり、制御や遠隔操作が容易になりました。しかし、最大のメリットは、今まで入手することさえ難しかった情報をデジタルデータとして大量に収集できるようになったことです。

デジタルデータの活用例としては、製造機器が発する音波や電気信号を監視して異常を検知したり、センサーで製品の品質データを収集して設計の修正に活かしたりすることがあげられます。インターネットのブロードバンド化により、大容量の映像データを収集することも可能になりました。例えば、検査工程の映像をリアルタイムに解析して製品の不具合発見に役立てることができます。AIを活用した映像解析ソリューションは、製品の検査だけでなく、工場内の保安や従業員の安全確認など、スマートファクトリーにおいて幅広く活用されています。

スマートファクトリーに不可欠なサイバーフィジカルシステム(CPS)

ドイツのインダストリー4.0の中で、センサーやIoT技術を用いて収集したフィジカル空間(実世界)の情報をデジタルデータとして分析し、それを産業の活性化や社会問題の解決に役立てていく「サイバーフィジカルシステム(CPS)」という概念が掲げられています。

サイバーフィジカルシステムとは、実世界のあらゆる事象をデジタルデータとしてとらえ、AIがデータを解析して、その解析結果の実施によって得られる情報をさらにデータとして蓄積するというサイクルを作り出すことです。

サイバーフィジカルシステムの中核技術の一つとして、「デジタルツイン(Digital Twin)」があります。センサーやIoTから収集したデジタルデータを分析して、仮想空間に再現した工場でシミュレーションを行い、改善策を迅速に見つけて現実の工場にフィードバックする一連のサイクルを指しています。現実の工場と仮想空間の工場をツイン(双子)とみなして、この名称がつけられました。

実は、サイバーフィジカルシステムの考え方自体は決して新しいものではありません。日本でも、以前から半導体製造工場や化学プラントなど一部の分野で導入されていました。当時は、デジタルデータの収集が難しかったこともあって導入分野は広がりませんでしたが、インダストリー4.0以降にセンサーやIoTなど要素技術が発展したことで急速に導入例も増えています。サイバーフィジカルシステムを具現化することによって、工場はスマートファクトリーに進化すると考えてもいいでしょう。

経済産業省では、IoTによるモノのデジタル化・ネットワーク化によって、デジタル化されたデータがインテリジェンスへと変換されて現実世界に適用される社会を「データ駆動型経済」と表現しています。データ駆動型経済は、サイバーフィジカルシステムがあらゆる領域で適用される社会とほぼ同じ意味ととらえることができます。

出典:JEITA・電子情報技術産業協会ウェブサイト

スマートファクトリーの理想は「マス・カスタマイゼーション」

経済産業省が公表した「スマートファクトリーロードマップ」には、工場をスマート化する目的として、品質の向上、コストの削減や生産性の向上など、7つの項目があげられています。これらの目的が達成できると、スマートファクトリーはどのようなステージに進化するのでしょうか。

ドイツのインダストリー4.0では、人間と機械だけでなく、その他の経営資源がつながることによって製造プロセスが円滑なものとなり、既存のバリューチェーンを変革して新しいビジネスモデルを構築できるとしています。スマートファクトリーの理想像の一例として、大量生産のプロセスを応用してオーダーメイド製品も作れる「マス・カスタマイゼーション」が実現すると表現しています。

マス・カスタマイゼーションを実現するには、工場という製造現場だけではなく、製品の設計や原材料を調達する部門、さらにはそれを企画して決裁する経営部門まで連携する必要があります。つまり、スマートファクトリーの本質は、製造プロセスの一部を自動化して効率化することだけに焦点を当てるのではなく、設計、製造、物流などプロセス全体をデジタル化して、すべてのシステムでデジタルデータを自在に活用できるようにすることにあります。

スマート化に取り組む手順としては、予兆検知、異常検知など、工場の一部の機能をIoTを活用して自動化することから始める企業が多いでしょう。部分的な取り組みに成果が確認できると、製造ラインから工場全体レベル、さらに製品の設計や企画を行う経営レベルへと適応範囲を拡大していくことになります。

スマートファクトリーを実現するための課題

近年、デジタルトランスフォーメーション(DX)が注目されています。DXとは、デジタルプラットフォームを利用したビジネス変革を指しますが、スマートファクトリーを目指すということは、製造業者におけるDXの取り組み、いわば「製造業DX」そのものといえるかもしれません。

ビジネスモデルを変革する可能性を秘めたスマートファクトリーですが、全体最適を実現するのは容易ではありません。それどころか、一部機能の自動化においても苦戦している企業も多いというデータがあります。経済産業省が毎年公表している「ものづくり白書」には、製造工程のデータ収集や自動化の実施状況の調査結果が掲載されていますが、「可能であれば実施したい」と回答した企業の割合は増えているものの、「実施している」または「実施する計画がある」企業の割合は思ったほど増えていません。また、「製造工程のデータ収集に取り組んでいる」企業の割合は、2017年度をピークに頭打ち傾向にあります。

これらの調査結果から、スマートファクトリー化の必要性は認識しているものの、まだ試験の検証段階で実施には移せていない、あるいは実施したものの、明確な成果が出なかったために計画がスローダウンしている企業が少なくないものと推測されます。例えば、製造プロセスの一部自動化により、現場では負担が軽減される効果が実感できたものの、コスト削減や収益性向上などが数字として表れずに経営部門からは効果があったとは認定されないケースもあるでしょう。スマートファクトリーは長い目で取り組むべき経営課題ですので、経営部門も参加してスマート化の効果を測定する指標を議論することも重要です。

出典:「2020年版ものづくり 白書」経済産業省

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