働き方改革関連法案の施行により、企業には厳密な労働時間の把握と管理が求められています。三菱電機ITソリューションズ株式会社(MDSOL)の就業システムALIVE SOLUTION TA(以下、ALIVE TA)では、特許を取得した「3点管理」という管理方式を用いた正確な労働時間の把握を可能にしています。ここでは3点管理の仕組みとそのメリット、開発の背景や運用について伺いました。
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サービス残業や過払いの防止に求められる正確な労働時間の把握
公平・公正な勤怠管理を行うためには、まず正確な労働時間の把握が必要です。しかし、労働時間計測を労働者の自己申告だけに頼っていると、いったん退勤のタイムカードを打刻してから業務を再開するいわゆるサービス残業や、実態以上に労働時間を長く申告することによる残業代の過払いといった事態が起きる可能性があります。
日本では2019年4月より「働き方改革関連法」が順次施行され、残業時間の規制や休暇取得の義務化などが行われています。企業にとっては、法令遵守のうえでも正確な労働時間の把握が必要になりました。厚生労働省は、長時間労働を抑制するために労働者が自己申告した時間とともに、労働時間を客観的な方法で適正に把握することを義務化しています。
こうした状況から、客観的な時間取得による正確な労働時間の把握は勤怠管理システムの重要な機能となっています。
1つの申告時間と2つの客観的時間に加え差異が生じた理由も記録
MDSOLの就業システムALIVE TAは、厳密な時間管理に定評のある、勤怠を管理するパッケージです。ここで正確な労働時間の把握を可能にしているのが「3点管理」という記録方法です。
3点管理では、労働者自身が始業/休憩/終業を入力する自己申告時刻に加え、2つの客観的時刻を記録します。例えば、客観的時刻として、会社の入退室システムを通過した時刻やPCのログイン/ログアウトした時刻を自動的に記録します。
管理者は、この3つの時刻の差異を見ることで勤務状況をチェックします。通常の勤務状況であれば、3つの時刻の差異は一定の範囲内に収まるはずです。しかし例えば、自己申告で終業が入力されてから、PCをログオフするまでの時間が長いなど、不自然な差異があった場合には、サービス残業などの可能性があります。また、PCをログオフした後も長時間会社に残っていたり、出勤してから仕事を始めるまでの時間が長いといった勤務状況も分かります。
もちろん、正当な理由があって自己申告した時刻と客観的時刻に差異が生じることもあります。ALIVE TAでは、この時刻の差異をチェックしており、時刻の差異があらかじめ設定したしきい値を超えるとアラートを表示して差異が生じた理由の入力を求めます。管理者はその理由の内容に応じて、時刻の差異を労働時間に含めるかどうかの判断を行うことができます。
このように、3点管理では自己申告時刻と客観的時刻を管理し、それらの時刻の差異と理由から正当性を確認することで労働時間管理の適正化を実現します。MDSOLはこの管理方法によって2018年に特許を取得しています。
正確な労働時間の把握は労働者・管理者双方にとってメリット
ALIVE TAへの3点管理導入の背景をソリューション事業部 ソリューション推進部長の小松雄一郎氏は次のように語ります。
「もともとALIVE TAには三菱電機の入退出管理システムMELSAFETYなどと連携して客観的時刻を記録する機能が備わっていました。しかし、お客様から『客観的時刻を取得してもタイムカードで退勤時刻を打ってから現場に戻って作業を再開する人やパソコンの電源を落としてから打ち合わせをする人が現れてしまう。将来、給料の未払いや法令違反に問われるリスクがあるため、その対策がしたい』、あるいは『朝早く来て新聞を読んだりメールチェックをする人がおり、どこからが仕事でどこからは仕事ではないのかを明確にしたい』といった要望が寄せられていました。3点管理は厳密な管理を求めるこうしたニーズに応えるものです」
開発を担当しているソリューション事業部 首都圏システムエンジニアリング第二部 第三課長の加藤泰継氏は、時刻差異の生じた理由を記録することが労働者と管理者の双方にとって重要だと語ります。
「単に客観的時刻を管理するだけでなく、差異の理由を労働者に問うことで、管理者はその理由が業務であるか否かの判断ができます。労働者にとっても、自身が申告した労働時間が適正なものだと証明できます。3点管理を使った正確な労働時間の把握は、サービス残業や残業代の過払いの防止につながり、使用者・労働者双方にとって、公正・公平な就業管理が実現できます。開発においても労働者、管理者の両方が使いやすいような操作や表示方法にこだわって作り込みました」
顧客への導入や運用のサポートを行っているソリューション事業部 首都圏システムエンジニアリング第二部 部長の三里峰義氏は、時刻差異とその理由をほぼリアルタイムに管理できることが実運用でのALIVE TAの大きな強みだといいます。
「労働基準監督署の監査があった際には時刻差異の理由が調べられます。ALIVE TAでは一つのデータベースで自己申告時刻と客観的時刻の両方を記録しており、差異がしきい値を越えるとすぐに理由の入力を求めることができます。このため常に正確な理由が得られます。一方、入退室管理の記録と勤怠管理のデータベースが分かれているシステムでは、リアルタイムに差異の把握ができず、月末に両システムの記録を突き合わせてあらためて理由を問わなければならない場合があります。しかし、時間が経ってからでは正確な理由が分からないことが多く、トラブルの要因になります」
ますます細かくなる時間管理に対応するにはシステム化が不可欠
小松氏は、法律の改正によって企業にはより細かい労働時間管理が求められるようになっており、もはや紙やExcelベースでの勤怠管理は困難になっているといいます。
「例えば2019年の4月からは時間外労働の制限について『月の時間外労働と休日労働の合計について、どの2~6ヵ月の平均をとっても1月あたり80時間を超えないこと』とされています。また、2021年1月からは、子の看護休暇と介護休暇について時間単位での取得が可能になりました。こうした複雑な計算を社員全員についてExcelで行うのは管理部門の負担が大きすぎます。計算を間違えると欠勤扱いになってしまいますから責任も重大です」
ALIVE TAでは法律に則した計算を自動化できるだけでなく、法律に違反するおそれがある場合には事前に予測して警告します。
「予測によってアラートを早めに出し、過重労働などの問題を未然に防ぐのは、勤怠管理システムの重要な役割だと考えています」(三里氏)
三里氏によれば、最近は法改正に確実に対応するために、スクラッチ開発ではなくパッケージシステムを選択するお客様が増えているそうです。
「スクラッチ開発では法律の改正に追従するためのコストが大きくなります。また、パッケージシステムを選択するお客様でも、就業規則をパッケージに合わせるのでカスタマイズを最小限にしたいというお客様が増えています」
他社連携でテレワークの管理も可能、将来はより多様な働き方への対応も
ALIVE TAの最新のバージョンでは新しい外部連携ツールにより、より多くのデバイスと連携した客観的時刻の取得が可能になりました。最近急速に増えているテレワーク対応では、PCログイン・ログオフの時刻記録に加えて他社システムとの連携によりキーボードの打鍵操作時刻を取得することなども可能となっています。
今後の開発について加藤氏は次のように語ります。
「新型コロナウイルスの感染拡大で働き方は大きく変化しました。お客様からは、在宅勤務の管理では時間だけでなく、そもそも仕事をしているかどうかを把握できるツールや体温情報の取得も求められています。また、最近ではジョブ型や成果型など、時間による管理とは異なる新しい働き方が登場しています。こうした働き方についても法制化審議の状況をウォッチし、適宜対応していくとともに、新しい技術やアイデアを導入して、パッケージシステムを進化させていきます」