近年、板金加工機の性能・機能は目覚ましい進化を遂げ、生産性の向上に大きな貢献を果たしています。一方、生産管理側と製造現場の距離は縮まらない状況です。そこで加工機で豊富な実績を誇る村田機械株式会社と三菱電機株式会社 名古屋製作所は、システム開発を手掛ける株式会社三菱電機ビジネスシステム(MB)(現社名:三菱電機ITソリューションズ株式会社(MDSOL))とアライアンスを組み、「Factory-ONE電脳工場MF」をベースに製造設備と連携できる生産管理ソリューションを新たに開発しました。これによって生産計画から板金製造計画、板金加工指示、板金加工まで、各工程の進捗状況をワンストップで収集・管理できるようになり、加工機と合わせたトータル提案が可能になりました。
左から、
村田機械株式会社 工作機械事業部 板金システム部 設計グループ 課長 玉村 仁 氏
村田機械株式会社 工作機械事業部 板金システム部 プロポーザルグループ 兼 マーケティング室 課長 今尾 泰之 氏
三菱電機株式会社 名古屋製作所 レーザ製造部 レーザ自動化システム設計課 専任 阿部 代樹 氏
株式会社三菱電機ビジネスシステム 第二事業本部 計画部 次長 河野 智聡 氏
- 株式会社三菱電機ビジネスシステム(現社名:三菱電機ITソリューションズ株式会社)
板金業における課題を解決するソリューションの開発を検討
村田機械と三菱電機 名古屋製作所(三菱電機)は、それぞれ自社製の板金加工機や放電加工機を製造・販売しています。村田機械は加工後のプレス工程で使うプレスブレーキの分野に、三菱電機はレーザ加工機の分野に強みがあり、製造現場の生産性向上に貢献しています。しかし、製造現場では、いまだ手作業によるデータ入力やExcelベースのデータ連携が多いため、現場の負荷は高く、生産管理側と製造現場の距離は縮まらない状況です。そこで両社は村田機械が提供する板金加工の工程管理システム「ProcessNet」を用いて加工機への製造指示や加工実績の管理をすることで顧客の要望に応えてきましたが、人手不足や企業間競争の激化などを背景に、生産管理も含めた提案依頼が増加し、両社はソリューションの検討を開始しました。
村田機械 工作機械事業部 板金システム部設計グループ 課長の玉村仁氏は「顧客からは製造現場の進捗状況が見えないため、納期遅延が発生することがあるという声が聞こえてきました。また、慢性的な人手不足による事業継承問題や、働き方改革の推進による生産性向上の要望、さらにはデジタルトランスフォーメーションへの対応やサイバー攻撃対策なども求められています。そこで、こうした課題を解決するために、板金業全般の課題を解決する基盤となるソリューションの開発を決断しました」と語ります。
導入実績が豊富な「電脳工場」を採用し3社の協力体制でソリューションを開発
生産管理を含めたソリューションを検討した両社は、MBが取り扱う「Factory-ONE 電脳工場MF(電脳工場)」に着目し、3社の連携によって生産管理から、工程管理、加工実績、加工機の監視までの工程全体をシームレスに連携する「板金業向け生産管理ソリューション」を開発することを決定しました。電脳工場は生産管理パッケージ製品として定評があり、板金企業にも多くの導入実績がありますが、決め手は、MBが三菱電機グループの一員であり、電脳工場に関する豊富な導入実績と知見があることでした。村田機械 工作機械事業部 板金システム部 プロポーザルグループ 兼 マーケティング室 課長の今尾泰之氏は「私たちに不足していることを補ってくれるのがまさにMBでした。システムの専門家でない私たちにとって、導入を手掛けるフィールドSEがいることは特に重要です。今回、MBのSE部隊が加わることで提案から構築までがすべてカバーできることが大きなポイントになりました」と語ります。
デジタルトランスフォーメーションやサイバー対策を推進するうえでも、幅広いソリューションを持ち、実績が豊富なMBに対する期待が大きかったといいます。三菱電機 名古屋製作所 レーザ製造部 レーザ自動化システム設計課専任の阿部代樹氏は「IoT化によるビッグデータの活用でスマート工場を実現するe-F@ctoryにおいて、MBはアライアンスパートナーであり、連携製品も扱っている他、セキュリティーや就業管理など様々な製品・サービスを取り揃えており、工場経営の最適化にも貢献すると期待しています」と語ります。
開発は、2018年11月に仕様検討から開始し、2019年10月に完了しました。試験導入を経て、2019年12月にリリースされる予定です。
共同開発では、ProcessNetと電脳工場間でデータがスムーズに流れるように仕様検討を重ねました。MB 第二事業本部 計画部 次長の河野智聡氏は「システムの設計思想や、各社が使用する専門用語の定義の違いに戸惑うことはあったものの、3社の協力で完成度の高いソリューションを作ることができました」と語ります。また、今回開発した「板金業向け生産管理ソリューション」は、2019年7月に開催されたプレス・板金関連の展示会「MF-TOKYO2019」に出展され、多くの反響がありました。
作業状況の見える化により適切な在庫管理や納期管理を実現
共同開発した板金業向け生産管理ソリューションは、生産管理の電脳工場(MB)、工程管理のProcessNet(村田機械)、CAD/CAM(村田機械・三菱電機)、レーザ加工機・放電加工機(村田機械・三菱電機)をシームレスに連携したものです。取引先からの受注内容に応じて電脳工場で生産計画を策定し、ProcessNetを介して生産指示を加工機まで一気通貫で流れます。加工実績はProcessNetを介して電脳工場にフィードバックされ、在庫・製造実績に即座に反映されます。その間の作業はすべて見える化・自動化されています。
このソリューションの最大のポイントは、生産管理と製造現場がデータでつながることです。これまでは作業指示書を現場に渡した後は、製造現場内の管理になっており、進捗把握・在庫計上がタイムリーに行えていませんでした。製造実績も紙ベースで運用されており情報が分断されていました。このシステム連携によってリアルタイムな工程進捗の見える化が実現し、適切な在庫管理や納期管理が可能になります。情報がつながることにより生産工程のトレースデータの採取も可能になり、品質管理にも活用できるようになりました。
「製造現場で収集した情報がすべてデジタル化されることで、管理側は得られた情報を活かすことが可能になります。ものづくりの現場はますます自動化が進んでいくと思いますが、管理側が様々なメーカーの設備情報を一元的に把握することで、さらなる生産性の向上が期待できます」(河野氏)
3社の連携強化をさらに進めよりよいソリューションに進化へ
板金業向け生産管理ソリューションにより、3社はそれぞれの顧客に対してトータル提案が可能になり、板金工場が抱える課題に応えることが可能になりました。
今後も3社の連携によって板金工場、さらには製造業全体の生産性向上に向けてソリューションを進化させていきます。河野氏は「リリース後も様々な改善点が出てくることが予想されますが、よりよいソリューションになるように3社で協力して改善していきます。そして、これからも3社の強みを活かして製造業の生産性向上、さらにはAI・IoTなど先進技術を活用したデジタルトランスフォーメーションの実現にも貢献していきます」と話します。