製造業でデジタルトランスフォーメーション(DX)推進の機運が高まる中、生産設備や機器からデータを収集して生産性向上や品質向上を図る取り組みが進められています。三菱電機インフォメーションシステムズ株式会社(MDIS)では、三菱電機株式会社のFA製品であるシーケンサ(PLC)のデータをクラウドで一元管理し見える化・分析する、製造業向けIoTソリューションを提供しています。このソリューションでは、シーケンサからのデータ収集と分析モデルによるデータ監視を産業用パソコン「MELIPC」(以下MELIPC)上で実現しています。2021年には、シーケンサ「MELSEC iQ-Rシリーズ」のオプション「C言語インテリジェント機能ユニット」をレパートリーに追加。シーケンサにデータ収集とデータ監視という役割を持たせることで、安価に設備からクラウドへデータを転送することが可能になり、リモート保守などのサービスも容易に提供できるようになりました。
目次
工場の見える化ソリューションをクラウドとエッジの連携で革新
製造現場では近年、品質改善や歩留まり率の改善をしたい、生産設備のリモート保守や稼働監視をしたい、といったニーズが増えています。
これに応える鍵となるのがクラウドの活用です。産業第一事業部 製造営業部 第二課 サーティファイドプロフェッショナルの中谷壮志氏は次のように語ります。
「クラウドには複数の工場間のデータを一元管理しやすいという基本的な特徴があります。加えて、自社内の拠点間だけでなく社外の遠隔地に設置された設備のデータも安全に収集することが技術的に可能です。このようなデータ管理を実現する上で、クラウドの利用はインフラリソースを拡張しやすくセキュリティの確保も容易な特長があります」
MDISでは、エッジ領域に産業用PCやシーケンサを活用しクラウドにデータを集約するためのソリューション提供に取り組みました。
その第一ステップが、生産現場のデータをMELIPCで収集してクラウドサービスのアマゾンウェブサービス(AWS)上で管理するソリューションです。これにより工場内の設備や機器の稼働状況の見える化や分析が可能になります。クラウドサービスを利用することで、目的に応じてサーバーリソースの確保や拡張もしやすく、インフラ管理工数の削減にもつながります。
次のステップとしてMDISは、三菱電機株式会社製のシーケンサ「MELSEC iQ-Rシリーズ」のオプションユニット「C言語インテリジェント機能ユニット」をデータ連携のレパートリーに加えました。中谷氏は次のように語ります。
「設備・装置メーカーが自社の設備や装置を顧客先に納品した後にリモート監視や保守する場合には、C言語インテリジェント機能ユニットを活用することで、導入しやすいソリューションを提供できると考えました」
FA機器とAWSのノウハウを駆使した機能開発
C言語インテリジェント機能ユニットは、ラダープログラム※では難しい複雑なロジックを実行するために、シーケンサのCPUと連携して機能を拡張する役割を果たします。MDISはこのC言語インテリジェント機能ユニットを活用して、クラウドとの連携を実現しました。
今回使用するクラウドサービスには、製造業におけるシェアが高いこと、データ収集後の可視化や分析系のサービスが豊富に揃っていること、複数のサービスとの連携がしやすいことなどを考慮してAWSを採用しました。
産業第一事業部 製造システム第二部 第二課の池田憲史氏は開発で工夫した点を次のように話します。
「C言語インテリジェント機能ユニット上のLinuxで稼働する専用プログラムを開発しました。専用プログラムにより、シーケンサからデータを取得し、AWSに受け渡すためのファイルを作成します。作成したファイルはクラウドが持つ機能をローカルデバイスに拡張することができるAWS IoT Greengrassという連携機能を使い、AWS上に送信します」
「開発にあたり、MDISの開発室にシーケンサを実際に動作させる環境を構築し、C言語インテリジェント機能ユニットを用いて収集したデータを元にロジックの検討を行いました」(池田氏)
AWS IoT Greengrassで取得したシーケンサのデータを、クラウド環境に転送する部分は、産業第二事業部 流通・サービスシステム第二部第一課の大下輝氏が担当しました。
「AWSにデータをアップロードする際、AWS IoT Greengrassの機能を活用して扱いやすい形式に変換するなどの工夫をしました。また、アップロードするデータのうちクラウドで使用しないものをエッジ側で間引いて、通信コストを削減しています」(大下氏)
- 機器の制御に用いられるプログラム
お客様へ出荷する機械・設備に組み込み遠隔地からリモート保守を実施
C言語インテリジェント機能ユニットがAWSと連携できるようになったことで、製造業の幅広いニーズに対応することが可能になりました。
工場のラインに設置されたMELIPCは、工場の見える化や予兆検知などに利用でき、上位のMESやERPと連動した垂直統合モデルの実現に寄与します。
一方C言語インテリジェント機能ユニットは、アフターマーケットにおける製品納入先での予防保守や異常監視などに適用できます。
「製造装置や検査装置などの設備・装置メーカーは、自社製品を海外や国内の遠隔地に販売する際、MELSECとC言語インテリジェント機能ユニットを組み込んで出荷することで、自社から納品先の製品の稼働状況をモニタリングすることができます。納入先のお客様も、社内で稼働する装置の保守や監視の用途でこのソリューションを利用することが可能です」(中谷氏)
また、クラウドに蓄積されたデータを機械学習サービスで分析し、その結果をエッジ側に展開して活用するということも可能になります。製造現場で得られるデータをより深く分析したいお客様に対しては、データサイエンティストによる分析支援も実施しています。
「MELIPC、MELSEC、C言語インテリジェント機能ユニットは豊富な実績がある製品です。それらとクラウドをうまく組み合わせてFAとITが双方向に連携したソリューションをワンストップで提供できることが、製造業とITを熟知したMDISの強みです」(中谷氏)
アフターマーケットソリューションの機能強化を継続
より利用しやすい形でサービスを提供
MDISでは、今後もお客様のニーズに耳を傾けながらクラウドを活用した製造DXを推進していく予定です。
「今後も様々なAWSのサービスを活用しながら機能を追加していきます」(大下氏)
また、より多くの製造業のお客様へソリューション提供していくため、様々なFA機器と連携し機能拡張をしていく考えです。中谷氏は「目的に合ったソリューションをリーズナブルなコストでご利用いただくために製品やサービスを拡充し、これらを定額のサブスクリプションモデルで提供するなど、よりよいサービスを進化させていきます」と語ります。
- MELIPC、MELSECは三菱電機株式会社の登録商標です。
- EDGECROSSは、一般社団法人Edgecrossコンソーシアムの日本またはその他の国における商標または登録商標です。