三菱電機インフォメーションシステムズ株式会社(MDIS)は、様々なデータ分析ソリューションを提供しており、分析を担うデータサイエンティスト達は、自らの能力向上を図るために日々、研鑽を続けています。2022年8月、データサイエンティストの白浜氏が所属したチームが世界的なデータ分析コンペティションKaggle(カグル)にて金メダルを獲得。これまでの実績とあわせてKaggle Grandmasterの称号も獲得しました。受賞の経緯やMDISのデータ分析サービスの特徴などについて伺いました。
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世界中のデータサイエンティストが集うコンペティションの場、Kaggle
Kaggleは、世界中のデータサイエンティストが集うデータ分析コンペティションのプラットフォームです。KaggleのWebサイト上には、各国の企業や団体から寄せられた多種多様なデータ分析の課題がコンペティションとして掲載されています。コンペには誰でも参加でき、参加者は課題ごとに与えられたデータやルールに従って分析の成果を競います。成績上位の参加者には金・銀・銅メダルが授与され、複数のメダルを獲得するなど一定の条件をクリアしたメンバーには“Expert”や“Master”といった称号が与えられます。世界中のエキスパートが競い合うコンペだけに好成績を残すことは容易ではありません。
今回、白浜氏が所属したチームが金メダルを獲得したのは英語の長文をAIで自動添削するコンペです。世界1,557チーム中12位で金メダルを獲得。これまでに個人で獲得した3つの銀メダルの実績と合わせて"CompetitionMaster"の称号も得ました。Masterの称号を持つ人は世界で約1,900人、全参加者の1%ほどです。白浜氏は金メダルとMaster獲得時の状況を次のように振り返ります。
「最終順位が確定するまでは非常にドキドキしました。確定後は、受賞を知った多くの人から祝福の連絡をいただいて嬉しかったです」
Kaggle Grandmasterの称号はデータサイエンティストの実力を示す指標のひとつとして業界で定着しています。Kaggleコンペに挑戦している取引先から、どうすればメダルや称号が取れるのかと尋ねられることもあるといいます。
データ分析の市場では資格と実績の両方が重視されると、データサイエンティストの育成・指導を行っている中村伊知郎氏は語ります。
「データサイエンスに関する資格の有無は理論的な分析能力を示す指標のひとつです。Kaggleの称号は、それに加えて実践的な課題解決能力の高さを示すステータスとなっています」
“国際コンペの洗礼”を受けるもチーム全員がExpertの称号を獲得
白浜氏は2020年に同課に所属する5人のデータサイエンティストとともにKaggleコンペに参加しました。当時の状況を白浜氏は次のように振り返ります。
「最初は思うような結果が残せず、全体の三分の一程度の順位でした。自分ではもう少し上にいけると思っていたのですが、競技参加自体が初めてということもあり、コンペの洗礼を受けた感じでした」
主な要因はKaggleコンペの文化に慣れていなかったことでした。「例えば、Kaggleでは競争相手同士がオープンな場で情報公開とディスカッションをして分析モデルを改良していくのですが、当時は自分たちだけで開発を進めていました」(白浜氏)
また、チームメンバーが各々異なる学習モデルを作って統合することで精度を上げるといったテクニックも使えていなかったといいます。
これらの反省点を踏まえた再挑戦では銅メダルと銀メダルを相次いで獲得、全員が"Expert"の称号を獲得しました。中村氏はすぐに好成績を残せた背景にMDISのデータ分析の歴史があると言います。
「早くからデータ分析に取り組んできたMDISは、特定のパッケージに頼らず分析システムを開発してきました。パッケージでできないことは自分たちで解決法を見つけてきました。そうした引き出しの多さがコンペでも優位に働いたと思います」
Kaggleの面白さに魅了された白浜氏はその後も挑戦を続け、今回の金メダル受賞とMaster称号の獲得に至りました。
Kaggle Grandmasterへの挑戦と後進の育成へ
白浜氏は現在、世界でも300人ほどしかいない“Grandmaster”の称号を目指して挑戦を続けています。Grandmasterになるための条件はコンペティションで金メダル5個を取得すること。そのうちひとつはチームではなく単独で取得する必要があります。
「先日、単独で参加したコンペでは、あとひとつ順位が上がれば金メダルの受賞圏に入れたのですが、惜しくも届きませんでした。しかし手応えは感じているので、これからもGrandmaster取得への挑戦を続けていきたいと思います」
また、白浜氏は三菱電機グループの人材育成の場である“DX人材育成アカデミー”での指導にも積極的に取り組んでいます。
「Kaggleの報告会では三菱電機の情報技術総合研究所の方も含めて非常に高度な技術的議論ができました。これからもKaggleコンペティションへの参加を通して蓄積した知見やノウハウを、MDIS社内はもちろん三菱電機グループ全体に展開して、コミュニティ全体の分析スキルの底上げに貢献していきたいと考えています」
Kaggleで得たデータ分析の知見を実務にフィードバック
Kaggleでの経験はどのように実務にフィードバックされているのでしょうか。コンペと実務の関係について白浜氏は次のように説明します。
「データ分析において最も重要なのは、課題の本質が何かを見極めることです。そこはコンペでも実務でも変わりませんのでKaggleで得た知見が実務に役立つケースが多くあります。」
MDISでは様々な大手金融機関向けに音声系ソリューションの提供実績があり、白浜氏がメダルを獲得したテキスト分析の知見は、独自の付加価値創出に役立っているといいます。
「コールセンター向けの分析はMDISが得意とする分野のひとつです。コールセンターのやりとりを音声認識でテキスト化し、それを分析することで応対品質や利用者の感情などを抽出して満足度向上に結びつけます。また、分析によってオペレーターのストレスや疲労度をモニタリングして健康に支障を来す前に対処したり、職場への定着率を上げたりするといった応用もあります」(白浜氏)
最近ではコールセンターに架電してくる顧客行動をより深く分析する施策も提案しており、お客様から評価を頂いているといいます。「MDISの強みは、複数のデータを組み合わせたデータ分析ができることです。例えば、コールセンターの分析でも、音声やテキストだけでなく、感情値やお客様WEBサイトのアクセス履歴など複数のデータを組み合わせることで、より高度な分析を行うことが可能です」(中村氏)
コミュニケーションを大切にしてお客様のビジネスを支援
さらに、ビジネスにおいて大事な視点をお二人にお聞きしました。
「実務においてはお客様の設備能力に合った形での分析や、最終的にソリューションとしてまとめるための業務への組み込み、データの収集方法など、より多くの要素を考える必要があります。さらに、お客様との会話から本質的なニーズを聞き出したり、こちらの意図を正確に伝えたりするコミュニケーション能力も欠かせません」(白浜氏)
「最近のデータ分析ツールはデータを投入すれば、もっともらしい答えが導き出されます。しかし、数理的な背景を理解し、なぜその答えが導き出されたのか、その答えがどの程度信頼できるのか判断してお客様に説明することが重要です」(中村氏)
MDISではデータ分析技術だけでなく、コミュニケーションを大事にして、お客様のビジネスを理解し、システム導入から保守まで支援していくとのこと。今後もデータサイエンティストの幅広い活躍が期待されます。