三菱電機インフォメーションシステムズ株式会社が開発した「Rulerless」(ルーラレス)は、スマホなどに搭載されているLiDAR(Light Detection And Ranging)センサーを使って3 次元形状を高速・高精度に計測できるアプリケーションです。
専用のLiDAR 機材と比べて優れた機動性や操作性、コストメリットにより、浸水被害調査の効率化や設備点検、搬入シミュレーションなど、幅広い用途で活用可能です。
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3次元計測アプリ「Rulerless」
2023年12月
目次
三菱電機インフォメーションシステムズ株式会社が開発した「Rulerless」(ルーラレス)は、スマホなどに搭載されているLiDAR(Light Detection And Ranging)センサーを使って3 次元形状を高速・高精度に計測できるアプリケーションです。
専用のLiDAR 機材と比べて優れた機動性や操作性、コストメリットにより、浸水被害調査の効率化や設備点検、搬入シミュレーションなど、幅広い用途で活用可能です。
「Rulerless」は、三菱電機インフォメーションシステムズが開発したスマホ用の3次元計測アプリです。対応機種はLiDARセンサーが搭載されたiPhoneやiPad(注)となります。LiDARはレーザーを照射して対象物までの距離や形状を高精度に計測する技術で、動画を撮影するような手軽な操作で物体の3次元形状(3Dモデル)を高精度に取り込めます。
計測距離は約5mまでですが、移動しながら計測することで、例えば家一軒の周囲をぐるりと計測することも可能です。
取り込んだ3Dモデルはスマホなどの画面上で自由な角度から確認できるほか、3Dモデル上で指定した任意の2点間の距離を高精度に計測できます。また、独自のアルゴリズムで壁面や床面を検出し、指定した点から地面までの高さを自動計測する機能もあります。さらに、クラウド上にアップロードすることで、遠隔地との情報共有や、他のシステムとの連携も可能になります。
開発のきっかけについて、金融第二事業部システム第一部 第一課 課長の大島正晴氏は次のように語ります。
「私たちは損害保険会社のシステム開発を担当してきました。近年、大型台風などによる水災が多発、激甚化するなかで、何かITで貢献できることはないかと考えたところからRulerlessの開発がスタートしました」
損害保険会社では水災に対する保険金を算定するために、浸水状況の把握が必要です。具体的には調査員が現地に出向いて建物のどの高さまで浸水したかを、一軒ずつメジャーで計測して記録します。
金融第二事業部 システム第一部 第二課 課長の上野靖氏は、この調査について次のように語ります。
「大きな水災が発生すると損保会社では調査の資格を有した社員が総出で現地に向かうことがあります。被災地はアクセスが困難なことも多く、泥やゴミの中での計測は大変な作業です。1日に調査できる件数は決して多くありません。以前からこの業務を効率化できないかというお客様の声を伺っていました」
浸水状況調査の効率化は、保険金支払の迅速化を可能にし、ひいては一日でも早い復旧へとつながります。そこで開発チームでは最近のスマホなどに搭載されているLiDARセンサーを使って計測をデジタル化することを考えました。
「従来のLiDAR計測器は高価で扱いが難しい専門的な機材でした。スマホなどに搭載されたLiDARセンサーを使うことで、低コストかつ簡単にLiDARによる計測が可能になりました」(大島氏)
三菱電機インフォメーションシステムズは様々な企業が集まって防災・減災に寄与するソリューションの創出に取り組む「防災コンソーシアムCORE」に参画しています。その中で2022年12月に家屋被害調査サポートサービスの技術実証が実施され、Rulerlessの検証も行われました。
金融第二事業部金融システム営業第一部 第一課の甲斐博将氏は、テストについて次のように振り返ります。
「技術実証には福島ロボットテストフィールドという実証実験施設が使われました。そこには浸水した家を再現したリアルな試験環境があり、そこでRulerlessの精度や作業効率を検証しました。結果は、正解値に対し誤差1cm 以内と実用上十分な精度が得らました。作業効率の面でもメジャーを使った計測に比べて短時間での計測が可能なことが分かったほか、従来は計測役と撮影役の2名以上が必要だった調査が1人で可能になり、要員不足軽減にもつながることが確認されました」
テストでRulerlessを使用した調査員からは、操作が簡単で分かりやすい、3D表示の動作が軽くて使いやすいといった評価を得たといいます。操作性については誰にでも使えるようなUIを追求したと上野氏は語ります。
「ボタンなどのデザインや機能を一般的なアプリとなるべく共通のUIに落とし込むことで、誰でも使い方を直感的に理解できるようにしました。当社のデザイン課のアドバイスも受けながらUI設計を行いました。Rulerlessの名称についても若手の意見を取り入れるなど、積極的にフレッシュな意見を取り入れています」
計測した3Dモデルや浸水高のデータは専用のクラウドにアップロードできるため、現場で紙に記入したデータをシステムに手入力するような手間もありません。
「効率化の面で、現地とクラウドで分業できるメリットは大きいと考えています。今までは現地で対応する担当者がすべての作業を行っていましたが、Rulerlessなら現地の担当者は被害状況をスキャンするだけで、アップロードされた情報をバックオフィスにいる別の担当者が被害状況の調査や審査、認定を行うといった分業が可能です」(甲斐氏)
また、3Dモデルで現場の詳細な状況が共有できる点もメリットだと大島氏はいいます。
「今までの調査では、現地に行った人しか実情が分かりませんでした。Rulerlessで3次元計測を行うことで、現地まで足を運ぶことなくリアルな被害状況を確認できます」
将来的には、被災者自身がRulerlessを使って被害状況を報告することを目指していると話します。
「大きな水害ですと調査を予約して数週間待ちといった事態が起こります。被災者自身がスマホで申告できればそうした待ち時間も減らすことができます」(上野氏)
Rulerlessは、こうした水災の被害状況調査の効率化だけでなく、様々な用途への応用が考えられています。
「現在、設備点検や、工場などでの設備の搬入シミュレーション、自動車保険の傷や凹みの計測などでの活用を検討中です。お客様からも、例えば土木工事で法面の検査に使えないか、コンクリートのひび割れや道路の轍の計測に使えないかなどの問い合わせや要望をいただいています。今後LiDARセンサーを搭載したスマホの普及が進めば、Rulerlessの活用シーンが一気に広がると期待しています」(甲斐氏)
Rulerlessはまず23年10月に試用版を公開、翌年4月に正式なリリースを予定しています。今後の開発や販売について甲斐氏は次のように語ります。
「アプリの機能に関してはCADソフトなどへの3Dデータの書き出しのほか、ユーザーから要望があった機能のなかで汎用性の高いものを盛り込んでいきたいと考えています。活用分野では、まず防災コンソーシアムCOREで取り組んでいる被害状況調査での利用を実現し、並行して平時でのユースケースも広げていきたいと考えています」