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読む宇宙旅行

2013年7月31日

打ち上げ間近。日本の宇宙船「こうのとり」が世界から頼られる理由

2013年7月13日、準備が進む「こうのとり」4号機。船外装置の他、480リットルの水、冷凍・冷蔵庫、若田飛行士が実験を行う実験試料や食料、コミュニケーションロボット「KIROBO」、超小型衛星などが搭載される。

2013年7月13日、準備が進む「こうのとり」4号機。船外装置の他、480リットルの水、冷凍・冷蔵庫、若田飛行士が実験を行う実験試料や食料、コミュニケーションロボット「KIROBO」、超小型衛星などが搭載される。

 8月4日未明、JAXAは種子島から貨物船「こうのとり」4号機を国際宇宙ステーション(ISS)へ向けて打ち上げる。ISSへはロシアやヨーロッパ、米国の貨物船もそれぞれ貨物を運ぶ。しかし「こうのとり」にしか運べない物がある。さらに注目に値するのは「こうのとり」のISSへの接近システムを米国企業が購入し、本番でも日本に支援を要請していることだ。今やISSにとって「こうのとり」はなくてはならない「生命線」なのだ。

いったい、「こうのとり」のどんな点が他国より抜きんでているのか。

 まずは運ぶ荷物について。「こうのとり」は約6トンの物資をISSに運ぶことができる。特徴は貨物を積むスペースが2つあること。空気のある部屋と、空気のないトラックの荷台のようなスペース。ここにISSの船外装置を積むことができる。NASAスペースシャトル引退後、大型の船外装置を運べるのは「こうのとり」だけであり、2012年の船外物資の輸送は100%「こうのとり」が担った。今回も米国の電力・通信系の装置や船外実験装置を運ぶ。船内物資についても実験ラックなどの大型装置を運べるのは「こうのとり」だけなのだ。

 さらに「こうのとり」フライトディレクターであり運用・搭載貨物の責任者であるJAXA麻生大氏によると、ISSでニーズが高く、好評なのが「こうのとり」が運ぶ「水」だという。

 「4号機では480リットルの水を運びます。今、ISSに水を運べるのは我々とヨーロッパの貨物船ATVだけ。ATVで運んだ水は、ISS到着後に容器を移し替える必要がありますが、日本は独自の梱包材を開発したことで、運んだ水バッグをそのまま保管できる。膨大な量の水を移し替えるのは大変な作業なので、宇宙飛行士の時間と労力を節約できると好評です。」

JAXA宇宙船技術センター 技術領域リーダーの麻生大さん。NASAでの審査会を終えて帰国したばかり。「こうのとり」運用準備初期から関わり、フライトディレクタも務めている。

JAXA宇宙船技術センター 技術領域リーダーの麻生大さん。NASAでの審査会を終えて帰国したばかり。「こうのとり」運用準備初期から関わり、フライトディレクタも務めている。

 宇宙飛行士は1日に約3.5リットルの水を使う。6人で滞在すれば1ヶ月で約600リットルの水が必要だ。ISSには尿から水を作る装置があるが、備えとして常時約1000リットルの水を蓄える決まりになっている。NASAから要請を受けたJAXAは運搬後そのまま保管できれば宇宙飛行士の時間を節約し、その分宇宙実験などの作業ができることに着目し、水バッグ運搬用の梱包材を開発、NASAの協力を得て数々の試験を行った。

 「こうのとり2号機で初めて水を運んだところ評価が高く、今回480リットルの水を運んで欲しいとNASAから要請がありました。1袋20リットル入りで24袋分。『積荷用収納棚の三分の一が水になるがいいのか』とNASAに確認したところ『それでも運んでほしい』と。水の需要が大きいのです。ATVはあと1機しか運用しないので、水が運べるのは『こうのとり』だけになり、需要はますます大きくなります」(麻生氏)。

●ISSへの接近システムを米シグナス社が購入

 またISSへの接近法に世界も注目する。「こうのとり」は直接ドッキングせず、ISSの真下10mに接近し相対的に静止、宇宙飛行士がロボットアームで掴むという手法をとる。「開発過程では、NASAから何百項目もの厳しい技術的な指摘を受け、鍛えられました」(麻生氏)。

 厳しい要求をクリアしただけあり、その安全確実な接近法は高く評価される。その証拠に2013年9月に初フライトを行う予定の米国のシグナス宇宙船で「こうのとり」の近傍接近システム(PROX)が使われる。シグナスを製造するオービタルサイエンス社がPROXを製造した三菱電機から9機分を購入。同時に、ISSへ接近する本番時のPROX運用を「JAXAにお願いしたい」と依頼してきたのだ。

 PROXとは無線通信システムのことでアンテナや、通信機器などで構成される。宇宙船がISSから数十kmに接近した時点で、ISSと直接通信を行うことで、ISSの位置や速度を精度高く知ることができる。

ISSの下10メートル。ロボットアームで捕獲直前、静止して見える「こうのとり」3号機。秒速7.7Kmで飛行するISSと速度を合わせ、誤差はわずか秒速1mm。その技術力にNASAも驚いたという。(提供:JAXA)

ISSの下10メートル。ロボットアームで捕獲直前、静止して見える「こうのとり」3号機。秒速7.7Kmで飛行するISSと速度を合わせ、誤差はわずか秒速1mm。その技術力にNASAも驚いたという。(提供:JAXA)

 日本が開発した機器や運用法を米国企業が購入したことについて、「これまで米国に頼る一方だったのが頼られる立場になった」と麻生氏は胸を張る。シグナス宇宙船がPROXを使ってISSに接近する際は、筑波宇宙センターにある管制室から日本人がPROX担当フライトディレクターとして運用に参加する予定で訓練中だ。

 「こうのとり」は3号機まで確実に成功を重ねた。その過程でも「より失敗の確率が少なくなるよう」改良を続けている。4号機からは定常運用となり、次世代の宇宙船のために技術を蓄積することに主眼がおかれる。実は将来につなげるために「今やらないと世界から取り残される」と麻生さんら技術者が焦りを感じている技術があるという。それは何か?くわしくは次回。まずは8月4日の打ち上げに是非、注目して下さい。