DSPACEメニュー

読む宇宙旅行

ライター 林 公代 Kimiyo Hayashiライター 林 公代 Kimiyo Hayashi

宇宙探査に必須の医療テクノロジーに日本の強みを!—金井飛行士インタビュー②

2017年11月から国際宇宙ステーション(ISS)に滞在することが決まった金井宣茂JAXA宇宙飛行士。前回は自ら「臆病で用心深い」と語る親しみやすさ全開の素顔を紹介しました。今回は、そんな金井さんが熱く、饒舌に語る宇宙での身体の変化や、将来の宇宙探査に備えた宇宙医学のお話。宇宙に行くと視力が変化するって知ってましたか?

宇宙で目が良くなる?悪くなる?—宇宙での身体の変化を網羅的に調べる

記者会見で宇宙に行くと身体が様々な変化を起こすが、地上に帰ってからもとに戻るものと戻らないものがあると言われていましたね。戻らないものとは具体的になんですか?
金井:

面白いのが、目の変化です。以前から近眼だった人が宇宙に行くと治るとか、遠くのものがはっきり見えるようになる、などと言われていました。

視力が低下する人もいると聞いたこともあります。なぜ目に変化が起こるのですか?
金井:

ISSで長期滞在が始まるようになってから宇宙飛行士の目の奥をよく調べると、たとえば断層撮影では目の後ろがぺったんこに平坦化している。乳頭浮腫と呼ばれる目の奥がむくむ変化が起きていることがわかりました。何が原因かはよくわかっていません。

(無重力状態で)頭のほうに体液が上って頭の中の圧力が高まることで、あたかも(地上で)頭にけがをした人が、頭の中の圧が高まった時と同じような目の症状が起こるのではないかと。でも宇宙飛行士本人は健康でへっちゃらだし、よくわかっていない。

昔は地上に帰還後に視力が戻ると考えられていました。ところが帰還した宇宙飛行士を調べたら目の変化がそのままずっと残っている人もいる。視力も完全には戻らない。戻る人もいれば、戻らない人、ちょっとだけ戻る人もいるようで個人差があるんですね。スペースシャトル時代に飛行した宇宙飛行士に「目の変化がありましたか?」と問診票をとったら、けっこうな人数の宇宙飛行士が「視力が変わった」と答えています。

宇宙滞在決定直後、DSPACEの単独インタビューで宇宙医学について熱く語ってくださった金井宣茂宇宙飛行士。
ということは、約一週間程度の短期ミッションでも、目に影響が出ると?
金井:

ええ、起こります。そうすると、短期ミッションに参加した宇宙飛行士が次にISSの長期ミッションに参加して目の変化を調べても、以前の影響か今回の影響かがわからない。もしかしたら長期ミッションに参加する前に目の変化が出ているかもしれない。そこで、我々ネクストジェネレーションの3人(油井、大西、金井)が初飛行で被験者として目の検査を受けることで、本当のところが見えてくるのではないか、と考えています。

宇宙医学では目の変化が焦点になっているのでしょうか?
金井:

ホットな話題ですね。ただ、現在はどこが悪そうだからというのでなく、宇宙飛行の前後で全身をくまなく調べてみようと。遺伝子からたんぱく質のレベルまで細かくデータをとって比べる、網羅的な研究手法が流行です。何が出てくるかわからない。

ということは、目以外でも宇宙に行くことによる体の変化があるかもしれないですね。
金井:

はい、面白いですね。ちょうど古川聡宇宙飛行士が宇宙医学の総元締めとしてプロジェクトを立ち上げることになりました。

文部科学省から新学術領域研究として5年間の科研費を得た「宇宙に生きる」ですね。(欄外リンク参照)
金井:

はい。2017年に私が宇宙に飛ぶ際には、古川さんから医学的な面白いリサーチを回してもらって、被験者として日本の宇宙医学、ひいては世界をリードできるようにしたい。そういう夢を描きながら、自分の宇宙飛行決定のニュースを聞いていました。

ISSで目の検査を行う油井亀美也宇宙飛行士。
(提供:JAXA/NASA)

管制官があたかも後ろで指示するように—ITツールで宇宙の作業効率UP!

ところで、7月に行われた海底訓練NEEMOでは、様々なITツールの検証も行ったようですね。たとえばメガネ型のウェアラブル端末ではマイクロソフトの「HoloLens」を使ってISSや月を想定して作業性を評価したそうですが、具体的にどんなことをされましたか?
金井:

メガネにカメラがついていて、メガネを通して私が見ているのと同じ映像を地球上のミッションコントロールセンターの管制官も見られます。

またメガネがスクリーンになっていて、画面の中にピッと矢印が出て、「このバルブを締めて」と地上のインストラクターから指示が出るわけです。間違えると「そのバルブじゃない、一個左だ」とか。さらに「今、図を出すから」と地上から配線図をメガネのスクリーンに出してくれたりもできます。

映画の世界みたいですね!でも視界の邪魔になったりしないんですか?
金井:

邪魔になるときは動かすことができます。

どうやってですか?
金井:

指の動きを感知したり、ボイスコントロールで消したり出したり。あるいは地上の管制センターに頼んで「邪魔だからどけてくれる?」と指示を出すとか。

使い勝手はどうでしたか?
金井:

画面が見にくい時もありましたが、方向性としてはこういうITツールを使うことになるのかなと思いました。ISSでは今、コンピュータ画面に開いた手順書を見ながら仕事をするのが当たり前ですが、このテクノロジーの時代にそんなことをしていていいの?と。

確かにいちいちPCを見ながらだと時間がかかりますね。
金井:

そもそも、宇宙ではクルータイム(宇宙飛行士が仕事に使える時間)が少なくて、もっと効率的に仕事ができるんじゃないかという検討が行われているんです。今は双方向コミュニケーションツールが流行りで、地上の最先端テクノロジーを宇宙で使えるのではと皆が研究しています。NEEMOでは「HoloLens」だけでなくESA(ヨーロッパ宇宙機関)や何社かのツールを検証しました。

「Camera over the shoulder(カメラ オーバー ザ ショルダー)」、つまり地上管制官が宇宙飛行士の後ろに立っているような感じで、どんどん指示を出して一緒に作業をするためのテクノロジーの研究開発がすごい勢いで進められています。

どこで使うことを想定しているんでしょう?
金井:

月までならリアルタイムで使えると思います。火星だと通信の時間差がありすぎてリアルタイムでは難しいのではないかと思います。でも、たとえ時間差があっても地上の専門家の力を借りるほうが、より効率的で安全性や信頼性が高まる作業ができるのではないかというのが、NEEMOの検証目的でした。

なぜ時間がかかっても地上が介在したほうがいいと?
金井:

一つには探査を考えたときに、地質学のサンプルを採ることが大きい。アポロでは地質学者のハリソン・シュミット飛行士が月に行きすごい発見をしました。しかし、火星には何回も人を送りこめるわけではありません。クルーの中の地質学者にすべてを託すのではなく、全世界の一流の地質学者たちを管制センターのバックルームに集めて、その人たちのアドバイスの元で探査をしたほうが、一回の探査で最大成果を得られるのではないかと。

そこで、NEEMOでは海底を火星に見据えて、我々宇宙飛行士が地質学のサンプルを採取しました。海底基地内にいる宇宙飛行士が火星上での司令塔役を務めて我々に「あれをやって」と指示を出す一方、地上側の管制センターにいる科学者と片道10分遅れでコミュニケーションをとりました。模擬火星上のある場所でとったサンプルについて、地上に意見を求めて返事が返ってくるまでの20分間は、別の場所を探査するにように我々に指示を出す。そして地上の科学者から「これは貴重なサンプルだからもっと採取しろ」と返事が返ってきたら、我々に元の現場に戻る指示を出すというように、作業の順番を検討することで、地上の意見を十分に吸収できるのではないかなど、地道にアイデアを出し実際にやってみています。

なるほど、実際の火星探査を想定して、どうやったら通信遅れがあっても効率的に探査ができるかを検証していたわけですね。

火星探査で必須になる遠隔医療技術—地上にも応用できる!

火星探査ではどんな点が課題であり、どう解決できると考えておられますか?
金井:

医師としての観点から考えると、火星への長期間の飛行中に急病人が発生したらどう対応できるか。地上と火星という離れた地点間で行われる遠隔地医療が必要となり、さらに地上との間には片道10分以上の通信遅れがある。ここからは私の夢の世界ですが、日本のテクノロジーや医療技術は世界から期待されています。小型化技術や遠隔ロボット技術など日本のもつ最先端のテクノロジーを組み合わせれば、時間差のある遠隔地医療で新しい技術やイノベーションが生まれるのではないかと思います。

日本の医療技術が強みになると?他に具体的に何かアイデアはありますか?
金井:

たとえば先ほど話題に出た目の変化に関しては、現在ISSではNASAが打ち上げたOCT(眼底三次元画像解析)という断層撮影の機器を使っています。地上で眼科の先生が使っているそのままの大きな機器で、宇宙放射線の強いISSでどこまで使えるのか、もっとコンパクトにできないかと思います。日本のメーカーが積極的に開発に入って小さなものができれば、地上の医療でも僻地で目の検査ができるとか、病院に安く売ることができるとか地上の産業につながるのではないでしょうか。

先日の会見後にJAXAの緒方克彦医長が、JAXAで研究中のメガネ型ウェアラブル端末のことをお話しされていました。宇宙で睡眠がとれたかは今、基本的に宇宙飛行士が自己申告しているが、睡眠後の覚醒度や集中度合を客観的に測ることができないかと。
金井:

面白いですね。宇宙飛行士の健康管理という点で、たとえばグーグルのスマートウォッチで心拍を測ることができるような面白いアイテムやガジェットが宇宙でできたら、一般の産業にフィードバックする。そして地上の最先端テクノロジーを宇宙で使えるんじゃないかと検証し、宇宙でさらに手を加えて地上に戻す。地上と宇宙の間でそういうサイクルが回れば宇宙がもっと身近になって、色々な人が宇宙を使えるのではないでしょうか。

2015年7月に行われた海底訓練NEEMO20でメガネ型ウェアラブル端末を手に説明する金井飛行士。この端末を通して宇宙飛行士が見ているのと同じ風景を地上の管制官が見て指示を送ることができるそう。(提供:JAXA/NASA)
  • *

    Microsoftは、米国 Microsoft Corporation の米国及びその他の国における登録商標または商標です。