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星空の散歩道

国立天文台 副台長 渡部潤一 Junichi Watanabe国立天文台 副台長 渡部潤一 Junichi Watanabe

 Vol.102

日本の探査機の健闘

この12月は日本の宇宙開発関係者のみならず、多くの宇宙ファンがハラハラした時期だった。というのも、たてつづけに日本の探査機の山場がやってきたからだ。

まずは、はやぶさ2の地球スイングバイである。2010年、瀕死の重傷を負いながらも、なんとか地球に帰還し、小惑星イトカワのサンプルを持ち帰った、はやぶさ探査機の後継機である。このはやぶさで日本は小惑星探査において欧米を一歩リードした。この成功を見て、アメリカはまたたくまに、同様の小惑星サンプルリターン計画であるオシリスーレックス計画に予算をつけ、その開発に向けて動き出した。日本も、はやぶさの後継機であるはやぶさ2計画をすでに練っており、はやぶさを越えるサンプルリターンをめざし、イトカワ(S型小惑星)とは異なる成分を持つと思われるC型小惑星「りゅうぐう(竜宮)」へ向かうことにした。しかも、今回は小惑星へ向けて、衝突弾を発射し、表面にクレーターを作り、露出した宇宙風化していないサンプルを持ち帰ろうという、かなり野心的な計画となっている。

そんなはやぶさ2が打ち上げられたのが2014年12月。打ち上げから一年後、地球に再び接近し、その重力を利用して、軌道変更を行うと共に、僅かに加速する、スイングバイを行う予定だった。地球への接近距離は約3000km。はやぶさ2は小さい衛星だが、このくらいの距離まで接近すれば、太陽光を反射して輝くはずだ。太陽電池パネルの角度次第では、かなり明るくなって、アマチュアの天体望遠鏡に適切な観測装置があれば捉えられると思われた。そんなことから、はやぶさ2の地球スイングバイ観測キャンペーンが実施された。多くの天文台や観測施設、アマチュアの皆さんが参加し、撮影が試みられたのである。東京大学天文学教育研究センターと木曽観測所で開発している新型カメラ「トモエゴゼン」も観測に加わることとになった。このカメラはCCDではなく、CMOSを用いた本格的な天文観測用カメラで、秒単位の高速読み出しで高速撮影が可能なように設計されている。実は、筆者もこの開発チームのメンバーの一人である。ちょうど12月には木曽観測所のシュミット望遠鏡に取り付け、観測が試みられる予定だった。こうして12月3日の夜、観測に成功した。筆者自身は番組の収録のためにNHKに出かけていたが、木曽観測所で撮影が成功した様子はNHKのニュース7で放映された。スイングバイは、それほど失敗する心配は無かったものの、はやぶさ2の姿を自ら関わるチームが捉えたことは嬉しさもひとしおだった。

もうひとつの山場が12月7日に予定されていた金星探査機あかつきの周回軌道再投入である。金星の謎に満ちた気象現象の解明を主目的とした観測衛星あかつきは2010年5月、H-IIAロケット17号機によって打ち上げられた。その後順調に飛行を続け、2010年12月7日に金星に到着し、ここで逆噴射をしてスピードを落とし、金星を周回する軌道への投入を実施した。ところが、この軌道制御用のメインエンジンが故障してしまうというトラブルに見舞われ、金星を通り越してしまったのである。メインエンジンの故障は軌道変更ができないことを意味する。あかつきの運命はこれまでかと誰もが思った。しかし、あかつきチームは諦めなかった。探査機には、通常、姿勢を制御するための姿勢制御用エンジンというのがついている。メインエンジンに比べれば、その推力は弱いのだが、これをうまく利用することで、金星周回軌道への投入できる道筋を見つけ出したのである。こうして5年間の忍耐を経て、2015年12月7日、あかつきは宇宙開発史上、前代未聞となる姿勢制御エンジンだけでの金星軌道投入を試みて、見事に成功させたのである。最初に送られてきた金星の画像を見て、関係者はうれし涙を流したに違いない(写真)。今後、観測機器をテストしつつ、金星を9日ほどで周回する楕円軌道へ移行し、2016年4月頃から本格的な観測を開始するという。

日本の金星探査機あかつきの紫外線イメージャ(UVI)が捉えた金星の紫外線画像。周回軌道投入後の12月7日に金星から高度約7万2千kmから撮影した画像である。
(提供:JAXA)

それにしても、はやぶさといい、あかつきといい、日本の探査機にはいささかはらはらさせられる事が多い。はやぶさ2は今後も順調であることを願いたい。