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星空の散歩道

国立天文台 副台長 渡部潤一 Junichi Watanabe国立天文台 副台長 渡部潤一 Junichi Watanabe

 Vol.108

環の開いた土星を見よう

明るい火星に話題をさらわれている初夏の夜空だが、その火星の東側にある土星も負けてはいない。地味ながらも、その輝きは0等級で、なんとか面目を保っているのだが、なにしろ天体望遠鏡で眺めると、その魅力においては火星を凌ぐことだろう。なにせ、いま土星は環が大きく開いていて、とても見応えがあるからだ。

土星の環は土星の赤道面に一致しているが、この赤道面は土星の軌道面(公転面)に対して約27度ほど傾いている。土星はその傾きを保ったまま太陽を約30年かけて一周するため、地球から見ると赤道面の環の傾きが年によって異なることになる。土星が大きく傾いているときには、環も大きく傾き、土星本体を包み込むように開いて見える。一方、土星の赤道面が、公転面に一致するような時期には、環を真横から見る事になって、時期によっては環がほとんど見えなくなってしまう。なにせ、土星の環は非常に薄い。その厚さは密度が高いところでもせいぜい数百メートルといわれている。天体望遠鏡で眺められる土星の環の幅は、土星の直径並み、すなわち6万キロメートルに及ぶのに対して、その厚さが数百メートルというのは、限りなく無限小に近いといえるだろう。土星までは13億キロメートルも離れているので、数百mの厚さというのを地上でたとえれば、ちょうど東京都心から100kmほど離れた富士山頂の0.1mmの円盤よりも薄いということになる。これでは、どんなにいい望遠鏡を使ってもよく見えるはずはない。大望遠鏡を用いても、本当に環が消えたように見えるのである。しばしば、この現象を「土星の環の消失」などと呼ぶのだが、実際に消失するわけではないので、あまり適切ではないかもしれない。消失するように見えたのは、前回は2009年で、次回は2024年頃となる。逆に、そのちょうど中間の2016年から2017年にかけては、環が最大に開く時期と言うことになるわけである。

土星の環の見え方の変化(提供:国立天文台)

これだけ環が開くと迫力があるだけでなく、環の中の構造が見やすくなる。土星の環は無数の細いリングでできているのだが、肉眼で見える濃い環は、主にA、Bと二つの領域に分けられている。そのA環とB環の間には、幅が約4800キロメートルほどの薄い領域があって、最初に発見した天文学者の名前から、カッシーニの空隙(間隙)と呼ばれている。小さな天体望遠鏡ではなかなか難しいが、口径10センチメートルクラスの望遠鏡で、なおかつ大気の状態がよければ、黒い隙間として見ることができる。カッシーニの空隙も、環が大きく開いているときに最も見やすくなるので、ぜひ挑戦してみると良いだろう。近くに8等級の衛星タイタンも見えるので、探してみると良い。

土星は6月3日に衝、つまり太陽と反対側に位置する時期を迎え、これからしばらくは南の空に、ほぼ一晩中観察できる。天体望遠鏡をもっていなかったら、ぜひとも近くの公開天文台や科学館などの観察会で見せてもらうと良いだろう。