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星空の散歩道

国立天文台 副台長 渡部潤一 Junichi Watanabe国立天文台 副台長 渡部潤一 Junichi Watanabe

 Vol.112

地球外生命への発見に期待高まる間欠泉

9月末、アメリカ航空宇宙局(NASA)が、大々的に記者会見を行った。ハッブル宇宙望遠鏡の観測によって、木星の衛星エウロパから水が噴き出しているのを捉えたというのだ。それも、複数箇所からの噴出が撮影されている。

もともと、3年前には分光観測、つまりエウロパの光を分析して、南極域に水蒸気らしき兆候を捉えていたため、水が噴き出しているらしいことはわかっていた。今回は、エウロパが木星の表面を通過するときを狙って、いわばシルエットになった水の噴出の様子を画像で捉えたのである。エウロパは3日と13時間ほどで木星を公転しているが、遠木点(軌道上で木星から最も離れた地点)で、噴出が活発になるらしい。その意味では、常時噴き出しているわけではなく、いわば巨大な「間欠泉」である。とはいっても、地球の間欠泉の規模とは桁違いである。何せ、その高さは約200kmに達している。きわめて大規模な間欠泉といえるだろう。

ハッブル宇宙望遠鏡によって観測された木星の衛星エウロパから水が噴き出している様子(提供:NASA/ESA/W. Sparks (STScI)/USGS Astrogeology Science Center)

同様の間欠泉は、土星の衛星エンケラドゥスでカッシーニ探査機により発見されている。この間欠泉の噴出物の中にはナノシリカと呼ばれる物質が含まれていることが、日本の研究者を含む研究グループが明らかにしている。ナノシリカはケイ素を含む岩石と海水とが、ある程度の温度で反応してできるとされている。つまりエンケラドゥスの海底はかなり暖かい場所があり、おそらく海水と岩石とが接しているのだろう。この状況は地球の深海底とさほど変わらない。地球の場合、熱水噴出口のまわりでは、噴出してくるミネラルを栄養源とする微生物、それを食べる動物などがしっかりと生態系を作っている。この生態系には酸素も、太陽光も必要ない。状況はエンケラドゥスと同じなのである。このエンケラドゥスの間欠泉の発見は、地球外生命の検出に大いに期待を抱かせるものとなった。というのも、表面の厚い氷を掘り進んで、地下の海に到達する様な探査は不可能だが、表面に吹き出す物質をサンプルするのは可能だからだ。噴出物の中に有機物や生命の死骸のようなものが含まれているのではないか、とエンケラドゥスへの探査が早速、検討されはじめたほどだ。

ところが、今回の木星の衛星エウロパでの間欠泉の発見は、さらにその期待を大きくさせるものといえる。エンケラドゥスよりもエウロパは大きい衛星なので、地下の海も大きく、地球の海の2倍ほどの水があるといわれている。間欠泉として噴きだしてくるのは、海が確実に存在する証拠だし、おそらくエンケラドゥスと同じように地下の海は暖かいのだろう。そして、なんといってもエンケラドゥスよりもエウロパの方が地球に近い。探査機の燃料も少なくてすむし、到着までにかかる時間も少なくてすむはずだ。その意味で、地下の海の地球外生命探査のターゲットとして、かなり有力となったのではなかろうか。NASAは2020年代にエウロパへの探査計画を検討しているが、その実現に弾みがつきそうである。

NASAが、2020年代に打ち上げを目指しているエウロパ探査機(イメージ)(提供:NASA/JPL-Caltech)