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星空の散歩道

国立天文台 副台長 渡部潤一 Junichi Watanabe国立天文台 副台長 渡部潤一 Junichi Watanabe

 Vol.116

冬の夜空の巨星たち

夜空に輝く星々は、肉眼で見る限りどれも点である。惑星の場合は、ある程度の倍率をもつ天体望遠鏡で眺めると、一定の面積を持つ有限の形状が見えるのだが、恒星はそうではない。星座を形作る恒星は、やたらに遠いために、どんなに性能の良い天体望遠鏡で眺めてみても、基本的に点光源で、その大きさはわからない。

例えば、太陽系にもっとも近い恒星である、ケンタウルス座アルファ星の距離でさえ、約40兆キロメートルにある。この星は太陽の直径の1.2倍ほどだが、それでも、その見かけの直径は100万分の2度ほど。これは東京から富士山頂においた太めの鉛筆の芯に相当する。これでは大きさがわかるはずもない。

日没直後のアルマ望遠鏡山頂施設(チリ・アタカマ 標高5000メートル)の上空、縦に二つ並んだケンタウルス座アルファ星、ベータ星が輝いています。(提供:国立天文台)

それでも天文学者は様々な方法で恒星の大きさを推定している。明るさと距離、その表面温度から間接的に推定する方法が一般的だが、比較的、近い恒星で太陽よりもずっと大きな直径を持つものであれば、月に隠される瞬間を詳しく観測したり、干渉法という特殊な方法を用いて直接測定することも可能である。

これらの方法を用いて計測された代表的な恒星が、冬の夜空には輝いている。おうし座の一等星アルデバランは、月が隠す位置にある一等星であるため、多くの測定例があり、太陽の約44倍ほどとされている。その半径は3000万キロメートルほどに相当する。水素燃料を安定に核融合で燃やしている(太陽のような)主系列星の段階を終え、赤色巨星へ移行しつつある恒星であるため、その直径が大きくなりつつある段階だ。地球がもし、アルデバランの周囲を公転していたら、いまよりも44倍も大きな太陽が見えていたことになる。

ただ、これくらいで驚いてはいけない。冬の夜空で最も目立つ、オリオン座にはさらに大きな恒星がある。近い将来、超新星爆発を起こすかもしれないとされている赤色超巨星、ベテルギウスである。その大きさは太陽の700倍から1000倍ほど。こうなると、その半径は約5億キロメートル。太陽の代わりにベテルギウスをおくと、地球はおろか、火星も飲み込んでしまうほど大きい。

オリオン座を形作る赤い星ベテルギウスは、冬空で見つけやすい恒星です。(提供:国立天文台)

だが、宇宙は広い。まだまだ上がある。おおいぬ座にある変光星、おおいぬ座VY星だ。この星はなにしろ5000光年もの遠方にあるため、明るさは6.5等から9等ほどと、肉眼では見ることはできないものの、あのベテルギウスよりも大きいことは確実である。なにしろ、一時期は太陽の2000倍もあるのではないかとされたほどだ。現在では太陽の約1400倍と推定されている。こうなると、半径は約10億キロメートルとなり、太陽系で言えば木星はおろか土星に迫るほどの大きさである。

こうした巨星は、大きければ大きいほど表面の温度が下がるために、橙色から赤色をしていることが多い。そんな目で冬の夜空を眺め、赤色の星を見つけたら巨大な恒星といっても間違いないだろう。実際には大きさを感じることはできないものの、ぜひそんなことを思いながら夜空を眺めてみてほしい。

ちなみに、現在知られている最も巨大な星は、夏の夜空に見える変光星、たて座UY星である。距離が1万光年ほどと、おおいぬ座VY星よりもさらに遠方にあるため、9等以下なので、なかなか観察するのは困難だが、その大きさはなんと太陽の1700倍。太陽の代わりに、この星を置くと、完全に土星軌道を飲み込んでしまうほどである。