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星空の散歩道

国立天文台 副台長 渡部潤一 Junichi Watanabe国立天文台 副台長 渡部潤一 Junichi Watanabe

 Vol.120

木星探査機ジュノー、木星の極を捉える

木星を周回しているアメリカの探査機ジュノーが続々と成果を出している。ジュノーは、昨年の7月5日(アメリカ時間で7月4日の独立記念日)に木星に到着後、逆噴射エンジン噴射に成功し、木星の周囲を回る軌道に乗ったことはすでにご紹介した(参照:Vol.109/「エコな惑星探査機ジュノー、木星に到着」)。その後、軌道修正を行いつつ、試験観測を経て、本格的な観測を行っている。なかでも「ジュノーカム」の活躍がすごい。なにしろ、カメラの性能が向上していることに加え、これまでにない木星本体への接近によって、その大気の様子を高い画質で捉えているからだ。

木星は太陽系で最大の惑星で、表面は厚いガスに覆われている。大部分は水素やヘリウムだが、水やアンモニア、メタンなどといった微量成分がわずかに含まれている。天体望遠鏡で眺めると、表面には縞模様が見えるが、これは大気の上空を覆う雲が東西方向に流されて織りなす模様である。なにしろ、地球の300倍もある巨大な木星が、地球の半分以下、わずか10時間弱でぐるぐる自転している。その大気も秒速100メートルを超える猛スピードで東西方向に流されて、緯度に沿って雲の帯をつくっている。また緯度ごとに上昇流と下降流の領域があって、アンモニアやメタンなどの微量成分が雲になったり、消えたりしているために、帯状の濃淡模様に見える。明るい部分は帯、暗い部分を縞と呼ぶ。特に赤道を挟んで、南北に太く濃い縞模様が目立っていて、これらを北赤道縞および南赤道縞と呼んでいる。南赤道縞には、大赤斑が埋まっている。

しかし、ジュノーが撮影した画像を見ると、それほど単純ではないことがわかる。帯の中では雲が複雑に動き、大小様々の乱流が発生している。ジュノーが今年2月上旬に木星の南半球に接近して撮影した画像をみると、その複雑さに驚くだろう。台風のような渦の周りに乱流が複雑に発生している様子が捉えられている。まるで抽象画のような、こうした模様は、木星のあちこちで発生しているようだ。

木星探査機ジュノーが今年2月上旬に、高度1万4500kmから撮影した木星の南半球表面のクローズアップ。渦を中心にした複雑な雲の様子がわかる。(提供:NASA/JPL-Caltech/SwRI/MSSS/Roman Tkachenko)

特に驚きだったのは北極や南極の大気の様子である。実は、これまでの探査機は、すべて木星の赤道部を中心に観測していて、極地方の様子は細かくは見えていなかったが、そこをジュノーが詳細に捉えることに成功した。ここにジュノーの意義のひとつがあるだろう。実は、ジュノーは木星の周囲を衛星と同じように赤道平面に沿って周回しているのではない。北極と南極の上空を通過する、いわゆる「極軌道」を周回しているのである。これによって、木星の大気だけでなく緯度ごとの磁場の強度や向き、重力の強さなどを測定して、木星の内部構造に迫っている。さて、何が驚きだったかというと、画像を見てもらえば一目瞭然なのだが、中緯度以下に見られる緯度ごとの平行な帯縞模様がなくなり、直径 1000kmに及ぶ台風のような渦がかなり乱雑に存在しているのだ。これは木星と似た惑星である、土星とは全く異なっている。土星の極には中心に大きな渦があり、まわりに六角形模様を描く気流があって、どちらかといえば整然としている。ところが、木星はそうした整然とした様子は全く見られず、非常にカオス的なのである。同じような構造を持つ惑星で、一体何が違うのか、その謎解きは今後である。ジュノーは来年春まで運用される予定で、これからもいろいろな画像が届けられるだろう。

木星探査機ジュノーが上空3万2千kmから捉えた木星の南極の姿。直径1000kmにも及ぶ台風のような渦がたくさん見える。(提供:NASA/JPL-Caltech/SwRI/MSSS/Betsy Asher Hall/Gervasio Robles)