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星空の散歩道

2010年12月17日 vol.61

夕方の皆既月食を眺めよう

 今年の年末を彩る夜空の天体ショーといえば、12月21日の皆既月食である。既にご存じの方も多いと思うが、月食とは太陽-地球-月が直線に並び、月が地球の影に入り込み、満月の一部または全部が欠けたように見える現象である。月全体が影にすっぽりと入り込むと全体が暗くなる皆既月食に、月が地球の影をかすめる場合には、月の一部が欠ける部分月食となる。今回は前者の皆既月食となり、また月が昇ってくる頃にはすでに現象が始まっているため、夕方の早い時間から眺められる天文ショーとなる。皆既月食が日本で見られるのは、2007年8月28日以来、およそ3年ぶりである。

イラスト:12月21日の皆既月食の様子 東京(提供:国立天文台)

イラスト:12月21日の皆既月食の様子 東京(提供:国立天文台)

 実は、今年は皆既月食の当たり年であった。まず元旦に部分月食が起こった。4時から5時にかけての早朝の時間帯だったし、最大でも食分が8%の部分月食で、満月の縁のほんの一部が欠けるに過ぎなかった。しかし、元旦ということもあって、多くの人が眺めたようである。続いて、6月26日には二度目の部分月食が起こった。こちらは、食分54%まで達する深い部分月食であった。つまり月の半分ほどが欠けてしまっていたので、誰が見てもよくわかる上に、その時間帯が月の出の午後7時から午後10時頃までの夜半前で観察しやすい時間帯であった。しかしながら、ちょうど気圧の谷が通過中で、全国的に天候に恵まれなかった。今回は今年三回目となる。目に見えないような月食(半影月食)を除いて、一年に三回月食が起こるのは、前回が1982年、その前は1917年であった。また将来はというと、次が2029年、その次は2094年まで起こらない。ただ、月食が三回起こるからといって、すべて日本で見えるとは限らない。今回はすべて日本で見えたのだが、これを条件とすると、次回は410年後の2420年までないという珍しさだ。

 三回目の月食は、1月、6月とは異なり、皆既月食となる。皆既月食では、月に太陽の光が届かないので、本来であれば真っ暗になる。しかし、実際には、わずかに赤い光が入り込み、「赤銅色」の月となることが多い。これは地球の高層大気を通って屈折し、影に入り込み、月に届く太陽光があるからだ。その光のうち、青色の成分は散乱されて無くなってしまい、赤色の光だけが残るために、皆既月食中の月が赤く光ることになる。ちょうど夕日が赤くなるのと同じ原理である。ただ、例外もある。大きな火山が爆発した時などは、成層圏に漂う火山灰によって、赤い光さえ届かず、真っ暗な月食になることもある。今年はアイスランドやフィリピンの火山が噴火した後なので、もしかすると皆既中の月が暗く見えるかも知れない。

 今回の皆既月食は、月が東の地平線から昇ってくるころには、すでにかなり進んでいる。東京あたりでは、16時半頃の月の出の時には、既に月がほとんど地球の影に入っている。月食の状態のまま月の出を迎えるのを、月出帯食と呼ぶ。日本でも西に行くほど、月の出が遅れるので、月食の後半しか見られないことになる。皆既食の最大は17時17分、皆既が終わって部分食となり始めるのが17時54分である。南西諸島の一部では、月の出がこれよりも遅い場所があるので、実質的には皆既月食中の月を眺めることはできない。それでも、皆既月食の後半、再び光を取り戻して、次第に明るい満月に戻っていく様子が観察できるだろう。

 東日本であっても、月の出直後の観察となるので、東北東の地平線が開けた場所で眺める必要がある。ちょうど夕刻の時間帯なので、子供を含めて、多くの人にとって観察しやすい時間帯といえる。ぜひ皆さんも、東の地平線から昇ったばかりの月が、どのように見えるか、そして、どんなふうに輝きを取り戻していくかを観察してみてほしい。月食の観察は、望遠鏡や双眼鏡が無くても肉眼でもよくわかる。国立天文台では、「皆既月食を観察しよう」というキャンペーンを展開している。観察時刻、月の見え方、観察方法、観察地、年齢などをインターネットで報告してもらうものだ。ぜひ参加してみて欲しい。