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星空の散歩道

2011年7月22日 vol.68

夏の一等星が増える? さそり座デルタ星の増光

 皆さんは、一等星がふたつある星座をご存じだろうか?そんな贅沢な星座は、実は全天88星座のうち、みっつしかない。ひとつは、冬の代表的な星座であるオリオン座である。ベテルギウスとリゲルという色の異なる対照的な一等星を持つ豪華絢爛の星座である。もうひとつは南天で最も有名な南十字星。星座でいえば、みなみじゅうじ座である。そして、その東にあるケンタウルス座もそうだ。ちなみに、冬の星座で、ふたご座というのがある。カストルとポルックスというふたつの明るい星が仲良く並んでいる。実はベータ星のポルックスの明るさは、1.2等なので、れっきとした一等星なのだが、アルファ星のカストルは1.6等と、四捨五入すると二等星となり、残念ながら「ふたつの一等星を持つ星座」には入らない。つまり、オリオン座、みなみじゅうじ座、ケンタウルス座以外に、一等星が二つある星座はない。

7月末のさそり座デルタ星。(東京、午後8時頃)ステラナビゲータ/アストロアーツで作成しました。

7月末のさそり座デルタ星。(東京、午後8時頃)ステラナビゲータ/アストロアーツで作成しました。

 

 ところが、今年の夏は、もしかするともうひとつ増えるかも、と天文ファンの間で期待されている。6月のこのコラムで紹介したさそり座である。このさそり座の2等星のひとつが、もう少しで一等星というところまで明るくなっているからである。その星は、さそり座の頭の部分にあるデルタ星だ。さそり座の中心に赤く輝く一等星アンタレスより、右上を眺めると、明るめの星が縦に三つほど並んでいる。この三つの真ん中の星が、問題のデルタ星だ。固有名「ジュバ」は、アラビア語で「ひたい」を意味する言葉に由来する。この星は、もともと2.3等で、とくに注目されていなかったのだが、2000年半ばに突然、明るくなり始め、最終的に1.6等にまで達した。その時には、さそり座の印象を変えるほどであった。通常の肉眼で見える恒星が、こんなに急激に変化を示すのは珍しく、さっそく多くの天体望遠鏡が向けられ、詳細な観測が行われた。その結果、この星は単独星ではなく、連星となっていることがわかったのである。少なくともふたつの星からなる連星系で、まるで彗星のように歪んだ楕円軌道を、約10年余りで周回していると思われている。連星が接近したとき、しばしばお互いの間の重力でガスのやりとりが起こる。すると、星の周囲にガスの円盤が生まれ、その円盤のせいで明るくなっているのではないかと思われている。ただ、もしかしたら3番目、あるいは4番目の星もあるかもしれない、ともいわれており、まだまだ増光の謎が完全に解けたわけではない。

 

 いずれにしろ、前回は連星の接近は2000年頃に起きたため、今回もほぼ10年ぶりに連星が接近し、増光しているというのは確かだろう。2011年の6月中旬頃から明るくなっているのが報告されているのだが、たとえメカニズムがある程度までわかっても、今回の増光でどこまで明るくなるのかは予想がつかない。これからもっと明るくなって、1.4等を超えるのではないか、とも噂されているのである。

 

 夜空には、このように明るさを変える星、変光星は珍しいものではない。様々なタイプの変光星があり、明るさもいろいろである。しかし、ペルセウス座のアルゴルやくじら座のミラといった規則的な変光星を別にすれば、新星以外でこのように眼視でわかるほどの変光があるのは、きわめて珍しい。しかももともと暗く、明るい時期に一等星にまで達する変光星は皆無である。今回、さそり座デルタ星が1.4等を超えれば、四捨五入して一等星の仲間入りとなり、夏の夜空に一等星が一つ増えることになる。さそり座は、もともとの一等星アンタレスと共に、ふたつの一等星を持つ星座になるかもしれない。南の夜空で起こっている宇宙のドラマをぜひ自分の目で眺めてほしい。