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星空の散歩道

国立天文台 副台長 渡部潤一 Junichi Watanabe国立天文台 副台長 渡部潤一 Junichi Watanabe

 vol.96

金星と木星の接近を眺めよう

夕方の西空に宵の明星・金星が美しく輝きだして久しい。そろそろ、その輝きも最大となる。地球を追いかけて、近づいてくるにつれ、次第に明るくなるからだ。最大光輝あるいは最大光度とも呼ばれる、マイナス4.7等に達するのが、7月10日である。その頃には、天体望遠鏡で眺めると、金星も大きな三日月型をしているはずである。この金星には、しばしば惑星や月が接近して、天体ショーとなる。今年も2月末には火星が金星にニアミスし、21日には細い月まで加わって見事な眺めとなったはずである(Vol.92/「金星と火星の大接近を眺めよう」)。そして、今月は木星の番である。木星は金星にはかなわないものの、マイナス1.8等という明るさを誇っており、火星よりもずっと目立つ。かに座としし座の間あたりで輝く木星は、星座と共に西に傾いてきて、宵の明星・金星に接近していくのである。6月末から7月にかけて、比較的緩やかな動きをしている金星に、木星が上方から近づいていく。

6月20日の夕刻、西の地平線に輝く金星、木星、月齢3.9の月。(20時30分、東京、アストロアーツ社ステラナビゲータで筆者作成)

今回の接近では、ぜひ眺めてほしいタイミングが2回ある。一回目は6月20日だ。月齢3.9の細い月が木星・金星に加わるからだ。ちょうど金星と木星と月が、ややひしゃげた三角形をつくり、バランスの良い位置関係となる。月もまだ細いので、地球照と呼ばれる太陽が当たっていない部分も、ほんのりと輝く様子も見られる。夕焼けがまだ残る西の夜空に浮かぶ、地球照を抱く細い月と、その上を飾るふたつの惑星の姿は、見たら忘れられない光景に違いない。

もう一回のタイミングは、7月1日である。20日の三者の天体ショー以降は、月が次第に太くなると同時に東の空へ向かって離れていく。一方で、木星と金星は日に日に近づいていき、7月1日には、わずか0.4度にまで接近する。これは月の直径、0.5度よりも近いニアミスである。最接近時には倍率が50倍程度の天体望遠鏡でさえ、両者が同一の視野に入る計算である。そして、四つのガリレオ衛星を従え、縞模様と持つ木星と、半月よりも欠けた金星とを同時に眺めることができる。

この2度のハイライトを含む、この時期には、毎日眺めていると、日に日に金星と木星との位置関係が変わっていくのがわかって面白いだろう。

以前にも紹介したが、今年の後半には、金星は明けの明星として輝くようになる。東の地平線で、急激に高度を上げた金星は、そのスピードを落とした10月末頃になると、東から徐々に木星と火星が高度を上げてくる。10月末には木星、金星、火星が並んで輝く。文化の日の翌朝11月4日の明け方には、火星が2月の接近と同じレベルの40分角ほどまでに接近するのが観察できるはずだ。11月7日には月齢24.7の細い月が加わり、火星、金星とほぼ縦に並ぶ。明け方の天体ショーも楽しみにしてほしい。