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星空の散歩道

国立天文台 副台長 渡部潤一 Junichi Watanabe国立天文台 副台長 渡部潤一 Junichi Watanabe

 vol.99

みずがめ座を探してみよう

秋には明るい星の少ない、いささか寂しい夜空が広がる。ただ、夏に比べると温度が下がる分、大気の透明度もよくなるため、星も見えやすくなる。中でも、頭の真上には、秋の夜空のランドマークといえる、四つの2等星でできた大きめの四角形が目につく。秋の四辺形である。ペガスス座の四辺形とも呼ぶが、秋はこの四辺形から星座を探すとよいだろう。

秋の夜の南の空。2015年10月1日22時、東京。(アストロアーツ社・ステラナビゲータで作成)

四辺形の下(南)に注目してほしい。そこには、有名なみずがめ座がある。黄道十二星座の一つなので知名度は高いのだが、実際に眺めた人は少ないのではないだろうか。というのも、みずがめ座は一等星はおろか、二等星もなく、最も明るい恒星でも三等星という、暗く微かな星たちでできている星座だからである。都会の夜空では、みずがめ座の星たちをつなぐことはほとんどできないだろう。しかし、だからこそ、ぜひ秋の夜、暗い夜空で探し出して欲しい星座ではある。月明かりの邪魔がない時が理想的だ。双眼鏡があると探しやすいかも知れない。

まず四辺形の西側(南向きで見上げた時の右側)の二つの星を結んで、まっすぐ下に伸ばしてみる。すると地平線に向う途中に、明るい星が目につく。これが秋の夜で唯一の一等星、みなみのうお座のフォーマルハウトである。このフォーマルハウトまで結んだ直線で、上から三分の一ほどのところ、すぐ西(右)側に注目しよう。夜空が良ければ、そこには、ちょっと暗めの4等星が、小さな”へ”の字に並んでいるのがわかるだろう。双眼鏡を用いると、その真ん中の星の、やや上に5等星がくっついているのもわかる。全体で三本の矢をあわせた形、いわゆる三ッ矢に見える。これが「みずがめの三ツ矢」と呼ばれている部分である。みずがめ座は瓶に入った水を流している様子を描いた星座だが、その水が流れ出る瓶の取手の部分にあたる。ここから流れ出た水は、いくつかの星を伝って、ずっと地平線寄りにある、みなみのうお座の一等星フォーマルハウトに注がれている。注意深く観察すると、三ツ矢から、フォーマルハウトまで、微かな星たちを辿ることができるので、ぜひ挑戦してみて欲しい。

ところで、みずがめ座は星座としては目立たないが、巨大な天体が存在していることで有名である。その大きさは、満月の半分ほどもある。円環状のガスの形状が、いささかねじれているので、全体がらせんを描いているように見えるため、らせん星雲と呼ばれている。らせん星雲は(NGC7293)は、惑星状星雲という種類に属している。この種の星雲の中では、約700光年と最も地球に近いので、見かけが大きくひろがっているのである。

らせん星雲(提供:NASA, NOAO, ESA, the Hubble Helix Nebula Team, M.Meixner (STScI), and T.A. Rector (NRAO).)

惑星状星雲は、太陽のような恒星が一生の最後、星の芯を残して外層のガスを宇宙空間に放出した瞬間、つまりご臨終の姿だ。星の芯の部分に輝いている白色矮星(はくしょくわいせい)は10万度もあるような高温なので、可視光よりも紫外線を強く放っている。その紫外線を受けて、もともと星の一部だったガスがエネルギーを得て、光輝いている。宇宙の蛍光灯のようなものである。ガスには水素だけでなく、星の中で作られた窒素や酸素などが存在する。この酸素や窒素が緑や赤などの色の光で輝くため、写真を撮影するときわめてカラフルとなる。

ただ、きわめて見かけが大きいのだが、極めてかすかな天体なので、実際の観察には夜空がとても暗い場所で、しかも双眼鏡や倍率の低い天体望遠鏡を使わないと見ることはできない。観察できても、白っぽいリング状の雲のように見えるだけで、写真のようなカラフルな色には見えないのは残念である。