金井飛行士の意外な一面、
宇宙を舞台に大プロジェクトを成し遂げたい!
大西卓哉宇宙飛行士と、「こうのとり」のフライトディレクタを務める内山崇さん。大学時代の同級生であり、宇宙飛行士選抜試験で戦ったライバルでもある二人が、同級生ならではのリアルな宇宙話を語り合う大好評スペシャル対談も第3回、最終回になってしまいました。テーマは今年末に国際宇宙ステーション(ISS)に飛び立つ金井宣茂宇宙飛行士について、また宇宙開発の今後についてざっくばらんにお話頂きました。今回もへぇ~とにやにやしてしまう裏話が満載ですよ。
金井さんってどんな人?
- —改めて金井さんってどんな人ですか?
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大西卓哉(以下、大西):
マイペースで自分をしっかり持っている人。ぶれないですね。
- —内山さんは、金井さんとは宇宙飛行士選抜試験でどの段階から一緒でしたか?
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内山崇(以下、内山):
二次試験から一緒でした。どこでも寝られる人(笑)。正直言って、たくさんの応募者の中であんまり目立つ感じではなかったけど、とにかく弱点がない。
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大西:
コンスタントだよね。何と言っても僕が印象に残っているのは折り鶴。最終選抜の課題で出たんだけど、ずば抜けてた。綺麗でかつ早い。外科医で手先が器用というのもあるかもしれないし、本人はおばあちゃん子で小さい頃、おばあちゃんと一緒に折ってたからと言ってたけど、そういう次元じゃない(笑)。僕の倍ぐらい早くて受験者の中で一人だけノルマをクリアしてた。
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内山:
100羽折ればいいのに160羽ぐらい折って、紙が足りなくなるぐらいで(笑)
- —その後宇宙飛行士候補者に選ばれて、2009年にNASAの宇宙飛行士候補者(アスカン)クラスに入って訓練を受けたんですよね。金井飛行士のニックネームが「ニモ」。ジュール・ヴェルヌの名作「海底二万里」のネモ船長や映画「ファインディング・ニモ」に登場するクマノミのニモからつけたと。油井亀美也飛行士は「シャーク」。それぞれぴったりですよね。大西さんは何でしたか?
- 大西:
僕はビンクス。映画スターウォーズの登場人物ジャー・ジャー・ビンクスのビンクスです。
—え、似てないですが、どうして・・・?大西:アスカンクラスではコールサインを訓練生同士でつける習慣があって。僕の中でコールサインってかっこいい名前を付けるイメージだったんですよ。だから「お前何がいい?」って聞かれて、映画「スターウォーズ」が好きだったので「スカイウォーカー」(主人公の姓)と言ったら、「そんなかっこいい名前をつけるわけないだろう、お前はビンクスだ」と言われて(笑)
内山:選ばせてもらえない(笑)
- —4月の金井さんの記者会見で、先に宇宙飛行に行かれた大西さんから何かアドバイスがありましたか?と聞いたら「表敬訪問の仕方をアドバイスされた」と仰ってました。この方には挨拶したほうがいいよとか・・・。
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大西:
会見見てました!「そこ言っちゃうかな」と思った(笑)。その引継ぎは確かに大事だけど、裏の攻略法というか、生々しすぎる(笑)。他にも、仕事のことや生活面で色々アドバイスしています。
- —仕事のことではどんなアドバイスを?
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大西:
たとえば宇宙で仕事をするときの準備の仕方。人によって前日のうちに手順書を読み込む僕みたいな「前日派」とか、朝早起きして運動2時間半を先にやってしまって、その分をスケジュールから仕事が遅れた時に使う「早起き派」とか、効率よく仕事をするための色々なやり方を話したり、それこそトイレの使い方とか。
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内山:
宇宙ではものすごく色々な仕事をするから、自分が関わっていない実験もたくさんある。それを手順書通りにやるのは大変だろうね。
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大西:
何回もやるタスクは身体が覚えるけど。最初にやる仕事は失敗する可能性も高いし、大変だね。
ツイッターで知る金井さんの意外な一面
ミッションロゴを作ってもらえましたので、ブルースーツへ縫い付け。
— 金井 宣茂 (@Astro_Kanai) 2017年4月25日
これで、今後の取材や講演でのアピールもバッチリです!
連日、謎の女子力アピールでスミマセン。
元自衛官なので、以前は名札を縫い付けたりすることもあったのです。 pic.twitter.com/WcmQpgIEB0
- —金井さんがツイッターを始めましたね。ご覧になってどうですか?
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大西:
結構やりたい放題(笑)
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内山:
頑張って発信してるよね。
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大西:
数年前に「新米宇宙飛行士最前線」という連載をJAXAウェブサイトで3人でやっていた時も、金井さんは文章量が多かったし、僕とか油井さんは締め切りギリギリだったのに、金井さんは、ぼーんと書いてきた。ツイッターも始めたらプライベートのことも含めてすごいつぶやいている。好きなんでしょうね。
- —大西さんは金井さんがミッションロゴをブルースーツに縫い付ける裁縫姿に反応してましたね。
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大西:
僕はこんなスキルない。ガムテープをくるくる巻いてぺたんとつけるぐらいのレベルだから。
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内山:
宇宙飛行士が自分でワッペンを縫うんだ!って知って驚いた。面白いですね。
- —アニメネタもありましたね
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大西:
ドラクエネタもぶち込んできましたね。僕らの中でゲーマーと言えば油井さんだったのに。彼は3度の飯よりゲーム好き・・・。
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内山:
油井さんはツイッターでも書いてるよね。久しぶりに一日中ゲームしたとか。
- —知らなかったです・・・金井さんは意外に女子力が高いことに驚きました。
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大西:
お花の写真をアップしたりね。僕の知っている金井さんとは違う金井さんを出していて、楽しみに読んでます。
- —大西さんはGoogle+、内山さんはツイッターとそれぞれSNSで発信なさってますが、広報部のチェックを受けてるんですか?
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内山:
僕のは公式じゃないから。
- —内山さんは時々、投稿で怒られてるって聞きました。
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内山:
よくご存じですね(笑)
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大西:
内山は要注意人物ですから(笑)。でもすごくいいと思う、マニアックだし、ああいう情報ってほかのどこにもないことが書かれているし。
- —私もすごく面白いと思って楽しみにしています。なんで怒られるんですか?
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内山:
微妙なところが・・・。
- —大西さんのGoogle+は広報部チェックを受けてるんですか?
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大西:
訓練中はチェックなしでしたね。ISSでは回線が遅いので平日は広報部にメールで送ってアップしてもらいましたが、結果的に修正依頼はなかった気がします。
- —とても読ませる文章で面白かったですね。
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大西:
自分で楽しいと思うことを書いていたからでしょうね。
民間宇宙開発—どんどんやって欲しい
- —今、民間宇宙ベンチャーの動きが活発です。大西さんの以前の勤務先だったANAホールディングスが宇宙旅行ベンチャーに出資しましたね。どうご覧になっていますか?
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大西:
どんどんやってほしいです。民間の動きが出ると宇宙業界全体が活性化します。官と民は強みも違うし、官民一体となって盛り上げていけばいいと思う。アメリカでもスペースXは民間として宇宙に参入し色々な挑戦をしていますが、彼らから学ぶことも多いです。
- —たとえば?
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大西:
一番の例はロケットの再利用。切り離された第一段エンジンが地上に帰ってくる映像を見ると凄まじいです。
- —民間宇宙旅行の会見では、ANAホールディングスの社長さんが大西さんに民間宇宙船のパイロットとしての期待も話されていましたよ。どうですか?
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大西:
じゃあ、JAXAを首になったら再就職先に・・・(笑)
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内山:
ANAは一回講演させてもらったけど、本当に宇宙が好きな会社だよね。チャレンジする精神が社風としてあるのかな?
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大西:
色々なことをやりたいというのはありましたね。
- —内山さんは民間の動きをどうご覧になってますか?
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内山:
民間の参入はあるべき。国と民間には役割分担があって、国は採算性がまだよくわからない段階でインフラ設備を構築する役割がある。そのインフラ上で様々な可能性が生まれて、早いサイクルで事業を行う会社が参入するのは自然な流れ。企業や政府が投資して急ピッチで宇宙の利用が進むわけだから、どんどんやってほしい。
- —アメリカでは、NASAをリタイアしたエンジニアが宇宙ベンチャーを起こしてますが、内山さんはJAXAをリタイアしてから起業とか?
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内山:
それはそれで面白いかもしれない。冗談に近いけど、「こうのとり」開発メンバーが独立して会社作った方が儲かるんじゃないかと話してたこともありました。意思決定も速くできるしね(笑)
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大西:
会議を半分ぐらいに減らせそう。
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内山:
半分どころじゃない(笑)。国でやろうとすると、意思決定プロセスをしっかり持って、何重にも確認して前に進める。それは変えられないしやらないといけないことだから、民間の早いサイクルに太刀打ちできない。すみ分けですね。うまく共存できればと思います。
宇宙旅行と安全性
- —ISS後に月や火星探査が議論されていますが、大西さんは火星に行くのはハードルが高いし、宇宙旅行もまだ現実には難しいのではないか、と仰ってましたね。
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大西:
高度100kmにタッチして帰る宇宙旅行なら、ここ10年ぐらいで可能になると思います。ただ例えばISSに滞在したいと思うと、かなりハードルが高い。一つはコスト、それから安全性の確保。宇宙船が何回かに一回失敗する段階では、誰も乗らないと思います。
飛行機は物凄く安全な乗り物です。だからこそ1日に一千万人もの人が乗る。宇宙旅行がビジネスで軌道に乗るには、しっかりした安全性を担保するべきで小さい民間企業だとどこまでそれができるのか。1回打ち上げに成功させることができても、いかに持続させるかは別の次元だと思います。
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内山:
「この基準を満たせば民間宇宙船を飛ばして宇宙旅行をやっていい」という許可を与える基準作りも凄く難しいと思う。アメリカでは既にやっていて、何をもってよしとするのか、とても興味があります。
- —大西さんは何百人ものお客さんを載せて飛ぶ飛行機の副操縦士として安全性の厳しさを身をもって知っているわけですから、余計にそう思うのでしょうね。
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大西:
人を乗せるには安全性が最重要課題だと思うので。僕が宇宙飛行士に選ばれたときは宇宙旅行時代がすぐに到来すると言われていました。でも実際に行ってみて、さまざまな課題に直面し、一つ一つ問題を解決していく経験をして、(軌道を周回する)宇宙旅行は簡単なことではないと認識しました。現実を見ないで夢だけを語るのは違う。しっかりリスクマネジメントしたうえで夢を語りたいですね。
ライバルとして、仲間として
- —最後に、ライバルとしてここは負けたくないというところはありますか?
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内山:
ゴルフかな。
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大西:
五分五分ぐらいだけど、こっちが負け越している。内山の方が後から始めたのにね。
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内山:
大西が訓練忙しいからと聞いて、「じゃあ貸して」とゴルフクラブを借りて、始めたんだよね。
- —じゃあこれからが勝負ですね。協力したいところは?
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内山:
宇宙開発で一緒にでかいことをやりたい。10年後20年後とかに。二人だけじゃなくて、宇宙飛行士選抜試験を受けたメンバーみんなで。彼らは色々な分野で活躍していて、意外な場面で再会したり、プロジェクトで一緒になったりしています。
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大西:
宇宙飛行士だけでなくてエンジニアもパイロットも地質学者もいるし。いろんな人たちがいるからね。
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内山:
みんなでしっかり協力して、宇宙を舞台に何か大きな一大プロジェクトを成し遂げたいですね。
- —楽しみにしています!
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