連載100回&10周年 特別企画
2015年11月某日、国立天文台副台長、渡部潤一先生の「星空の散歩道」連載100回&10周年のお祝いに、宇宙大好き、星に夢中!な仲間が国立天文台に集いました。宙ガール代表の篠原ともえさん、そして宇宙が好きすぎて、南米チリのアルマ望遠鏡まで飛び、「ALMA」のミュージックビデオを撮影したACIDMANの大木伸夫さんを渡部先生が迎えます。
1929年に完成し当時日本最大だった国立天文台の65センチメートル望遠鏡を背景に、3人は宇宙への溢れる想いを、夢を語ります。前編のテーマは「この10年を振り返ってみよう」。さて、どんな天文ニュースに夢中になったでしょう?皆さんもしばし過去にタイムスリップしながら宇宙談義を楽しんでまいりましょう!
予想と外れた、あの天文現象
篠原ともえさん(以下、篠原)渡部先生、連載100回&10周年おめでとうございます!
渡部潤一先生(以下、渡部)ありがとうございます。
篠原100回、そして10年も続くなんてすごいですね。
大木伸夫さん(以下、大木)ねー、すごいですね。
篠原これまでの10年の天文ニュースを振り返って、いかがですか?
渡部10年ねぇ~。 振り返ると色々ありましたねぇ~。にぎやかすぎて予想が外れたのもあるけどね(笑)
一同あははは(笑)
篠原たとえば何でしょう?先生のお得意の分野ですか?
渡部この10年間、実は大彗星が北半球では見えてないんですよ。期待されたのが2013年のアイソン彗星。これはみんな期待したんだけどねぇ・・
篠原消えちゃいましたね。
大木あの彗星が見えるかもしれないと、日本中のみんなを期待させたのは先生ですか?
渡部はっはっは(笑)。皆さんそう思ってらっしゃるかもしれないけど、世界中の彗星研究者がそう思ったの。
大木そうなんですか。
篠原日本だけでなく、世界中が期待していたんですね。
渡部一番、被害を受けたのはNASAね。いろんな宇宙望遠鏡とか探査機のプログラムを書き換えて彗星の太陽接近に備えたんです。書き換えるって大変なことだからね。(今回、予想が外れたので、今後彗星が現れても)二度とやってくれないんじゃないかと思って。
篠原NASAがプログラムを書き換えるぐらい、期待していたということですか?
渡部世界中の彗星研究者のほとんどが「間違いなく大彗星になる」と思っていたんです。でも残念ながら・・。
篠原でも先生が子供の頃、期待されていたジャコビニ彗星が現れなくて「予想って外れるんだ!」と思ったのが、天文学者さんになるきっかけだったんですよね?
渡部そうですね。1972年10月8日に、まさにこの天文台の先生方が「雨あられのように流れ星が降る」と予測されたんです。それで大騒ぎになって小学校の校庭で人を集めて、一生懸命待っていたの。ところが一つも流れない(笑)。ほんとに。
篠原一つも?
渡部そう。見事に流れない。こっちは何が起こったのかわからないわけですよ。天文現象ってたとえば日食・月食、日の出・日の入は秒単位で予測できる。それなのになぜ流れ星が予測できないんだろうと。つまり「わかってないことがわかった」んですよね。逆に言えば、わかっていないんだから、エライ先生が今日は流れ星が出ないよという日に流れ星が出るかもしれない。
流れ星の観測は小学生にもできますから、それから毎日のように空を見て今日は何個流れたと。「これは面白い。自分でもフロンティアに立てる」と思ったのが、天文にのめりこむきっかけだったんですね。
大木さすがだ・・
渡部だからアイソン彗星が予想と外れたことで、何か思ってくれる人がいてくれたらいいなと思います。
篠原きっといたと思いますよ。
月の中は今でもあったかい?
篠原他には気になるニュースはありましたか?
渡部探査機の活躍も大きかったですね。小惑星探査機が地球に砂粒を持ち帰ったことも非常に大きな成果になりましたが、その前に月探査機がありました。未だにデータ解析が続いていて、実は月の中が溶けていることがわかってきたのです。
篠原え!? どういうことですか?
渡部月はカラカラに乾いているから何も起こっていないし、もう完全に冷えた天体だろうと天文学者はみんな思っていたんですよ。ところがどうも溶けているところがあるらしい(小声)。
大木それはどういう観測でわかったんですか?
渡部卵でもそうだけど、ゆで卵はテーブルにおいて回すとぐるぐる回るでしょう?でも中身が液体である生卵はあまり回りませんよね。殻(固体)と中身(液体)の動きがずれるからです。その原理を使って月の中の様子を知ることができるんですよ。月の微妙な動きや重力を調べると、どうも中身が溶けていないと説明ができない。だからまだ月はあったかいんです。
篠原わぁ!まだ月はあったかいんだぁ。
大木それは探査機が実際に月に行かないとわからなかった、地球からの観測ではわからなかったんですよね?
渡部そうですね。
大木月の中については、空洞という説もありますよね?
渡部 空洞はどうもなさそうだけど(笑)、日本の観測で、「縦穴」と呼ばれる地下トンネルがみつかってます。たぶん内部はトンネル状になっている。
篠原どうやってできたんですか?
渡部おそらく、月の内部を溶岩流が流れていたんですね。その上の薄い部分に隕石がぶつかるとぽこっと穴があいてしまう。縦穴は将来の月面基地の候補なんです。中緯度地方だから簡単に行けるし、地下に基地を作ることができますから。その縦穴を探査しようという人たちも最近出てきましたね。NASAは月に縦穴があるなら、火星にもあるんじゃないかと探し始めたら・・・火星にもあるんだねぇ!
篠原えー!
渡部火星は月よりも溶岩流がたくさん流れているのでね。
大木確かに火星のほうが(溶岩流が)あるようなイメージありますね。
篠原なんだか惑星が「どうぞ住んでください」って言ってるみたいですね!
冥王星は降格したのか、昇格したのか?!
篠原そういえば、冥王星が惑星でなくなったことに先生は深く関わっていらしたんですよね?あれは何年でしたか?
渡部2006年ですね。
大木10年よりもっと前かと思っていました。先生は冥王星の定義を決める、世界7人の委員の一人だったという。いろんな人に恨まれたという(笑)
渡部はっはっは(大笑)
大木逆にいうと、なんで今までは準惑星でなく惑星だったんですか?
渡部つまり冥王星って、たまたまかなり早く見つかってしまったというのが正しい。
大木発見当時は大きさはわかっていなかった?
渡部あまりにも遠いので大きさがわからず、1930年に発見された当時は地球ぐらいの大きさと思われていたんです。冥王星の周りに他の天体がないか一生懸命探したけど、あまりないということで、「(冥王星は)惑星だろう」と。ところが2005年に冥王星より大きな天体エリスがみつかった。
篠原それは一大事ですね!
渡部そうだよねぇ。それまでは惑星以外の天体が発見されると分類上は小惑星と呼んでいたんです。でもなんか変でしょ。「惑星より大きな小惑星」って。矛盾している。そこで、これは何とかしないといけないということになって。そもそも惑星の定義がきちんと決まっていなかったので、まず国際天文学連合で惑星の定義をしないといけないと。それで惑星と小惑星の間に、惑星に準ずる天体という意味で準惑星という天体の分類を作ったのが、2006年の大きな変更ですね。
大木落ち込むな!と。惑星でなくなったわけじゃない。準惑星を作ったんだ!と。
渡部うん。皆さん冥王星が降格したっていうんだけど、準惑星のボスになったわけだから、まぁ言ってみれば本店の平社員が支店長に昇格したわけです(笑)
篠原すごくわかりやすい!
渡部これは小学生に言ってもわかってくれないんだよね(笑) 人生経験が必要なんだね。
篠原その物語の中に渡部先生が参加されているっていうのがびっくりですね。
大木実は僕、先生がその7人のうちの1人だった、ってことを今日はじめて知ったんですよ。そんな大きなことに関わっていたというの知って「すごい方なんだなぁ」と改めて感じました。
大木ちなみに惑星と言えば、僕は「FREE STAR」という曲を前に書いたんです。自由な星があるんじゃないかと思って。恒星につかまっていない惑星たちは今は見つかっているんでしょうか?
渡部はい。今はね、フリーフローティングプラネット(浮遊惑星)というのがどんどん見つかっています。
篠原なんてステキな名前!
大木そうなんだ!やっぱり!
渡部すばる望遠鏡が、木星の5~10倍ぐらいの天体が星の周りを回っていないことを発見しています。
篠原大木さんはその曲をイマジネーションで作ったんですか?
大木うん。イマジネーションです。真っ暗な星があって子供たちがそこで光を集めているというファンタジーですね。
篠原大木さんの想像を科学者の方が証明したっていうことですね?想像が本当になる時代に私たちがいるっていうことですよね。
標高5000メートル、アルマで歌う!
渡部見つかるという意味ではこの10年の間にアルマ望遠鏡が完成しました。アルマの解像度は今までの光の望遠鏡を遥かに超えているので、今までの望遠鏡では見えなかったものが見えてきましたね。たとえば惑星ができつつある、非常に若い星の周りの円盤。昔は観測は無理だと思っていましたが、見えてきたんです。
篠原わくわくしますね!ところで大木さんはアルマに行かれたんですよね?
大木2010年8月に行ったんですよ。当時はまだアンテナが6~7台しかなかった頃ですが、標高5000mまで行かせて頂いて。そこで圧倒的に驚いたのは星空です。もう、怖さを覚えました。星って怖いんだなと。見上げるんじゃなくて目の前に天の川がせり上がってくるわけです。
そして日本の技術力。三菱電機さんのパラボラアンテナですよ。ヘルメットかぶってアンテナを動かさせて頂きました。うぃーんって。
篠原え、大木さんが動かしたんですか?
大木はい。コントローラーで。僕が観測の狙いを定めた、とかじゃないですよ?(笑)触らせてもらった感じでしたけどね。
渡部あの5000mの高地でミュージックビデオ撮ってるんだもんなぁ。すごいよね。
篠原でもそもそも、なぜアルマでミュージックビデオを撮りたいと思ったんですか?
大木アルマプロジェクトの成り立ちにすごく感動したんです。最初は日本やアメリカがそれぞれ別々のプロジェクトを考えていたのが、途中から一緒にやろうということになった。みんなで一つのことを目指して分担するのはすごくいいことだと思うんです。
篠原確かにそうですよね。
大木宇宙開発の最初の頃って、アメリカと旧ソ連が競争していましたよね。競争はあまり好きじゃない。地球人として星空を見上げるんだったら、みんなで協力すればいいじゃないかと思うんですよね。そのほうが成果があがるし。我々が欲しいのは成果ですからね。
それと、66台もの大きなパラボラアンテナを標高5000メートルに並べて約130億光年までの景色を捉えようというのがすごい。さらにアミノ酸の構造までわかる・・
篠原え、そうなんですか?
渡部アミノ酸がもしあればね、受信できます。
大木この間もアルマが有機分子のシアノアセチレンを見つけましたよね?
篠原ミュージシャンなのに学者さんみたい (笑)
大木元々、薬剤師だから。化学好きなの。こう見えて(笑)。そんなことができるってすごいでしょ?宇宙にある物質がわずかに出している電波をキャッチするって。それで感動して勝手に「ALMA」と名付けた曲を書いたんです。
篠原きっと「ありがとう」の気持ちから浮かんできたんですね。
©ESO/B. Tafreshi (twanight.org)
宇宙好き、星好きの女性が急増!
渡部ところで篠原さんは高校の時、天文部でしたよね。高校の頃から星を見てきて、この10年で印象に残っていることはありますか?
篠原私にとっては宙ガールという言葉がすごくポピュラーになったということかしら。高校生の時、星が好きだったけど天文部は3人ぐらいしかいなくて。篠原が入部して、星を見るのが楽しい楽しいと伝えて、星の観測にみんなで行けるよと誘ったら10人以上に増えて、にぎやかになっていったんです。
大木そうなんだ。
篠原でもね、当時は星を見ることはどちらかと言えばマニアック。女子が夢中になっていいものかなという感じがあったんですけど、最近はニュースで流星群もとりあげられるし、天文宇宙検定を受けに行ったときも女性が多かったですし。今日も星のアクセサリーをしていますけど、ファッションにもつながって宙ガールがアイコン化しているというのがこの10年の嬉しいニュースですね。
渡部篠原さんの活躍が大きいと思いますね。天体観測の暗いイメージがなくなってきた。
篠原「わからない」とか、「難しい」というワードがとれて、「楽しそう」とか「面白そう」「知ってみたい」というワードになって、宇宙がなんだか身近になりましたよね。
渡部歴女とか鉄女もそうだけど、広がるには女性パワーが大きいよね。
篠原2012年に天文現象の「3つの金」がありましたよね。金環日食、金星の太陽面通過、金星食。全部見ました!
渡部僕、一つも見てない(笑)
大木え、どうしてですか?
渡部だって金環日食のときは僕、NHKのスタジオに押し込められてたから。実際に見られなかった・・
篠原私は涙がポロポロこぼれてしまいました。肉眼で見るよりは、浴びるというか。星って見るもの、その光を浴びるもの、つまり体感するものだなと感じました。あのあたりから宇宙や星ブームが来たと感じましたね。
さすが宇宙好きの3人。宇宙トークは次から次へと話題が広がり、尽きることがありません。次回は「これから先の10年」をテーマに、宇宙の探査はどこまで進むのか、何が期待できるのか、さらに話題は広がり盛り上がっていきます。お楽しみに!
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