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ライター 林 公代 宇宙はもっと楽しめる!—「宙フェス2016」レポートライター 林 公代 宇宙はもっと楽しめる!—「宙フェス2016」レポート

宇宙はもっと楽しめる!—「宙フェス2016」レポート

2016年10月9日、京都・嵐山で開催された「宙フェス2016」に参加してきました!いつもは宇宙最先端の話題をおっかける「極限大好き」な私ですが、実は宇宙スイーツや宇宙柄のアクセサリが大好き。宙フェスに参加して、改めて宇宙や星空の楽しみ方について新たな気づきがたくさん。当日参加できなかった方のために、その内容を紹介しましょう!

なぜ京都・嵐山で?

少しだけ宙フェスの紹介を。今回で3回目となるこのイベント。合言葉は「上を向いて遊ぼう!」。宇宙や星空の様々な楽しみ方を一堂に集めた、サイエンスとカルチャーの融合イベントだ。今年のメイン会場は、京都・嵐山の「法輪寺」。和同6年(713年)に建てられた由緒あるお寺だ。お寺のご本尊である「虚空蔵菩薩」は大空(宇宙)を意味しているという。2014年の第一回目はのべ3000人、第二回目はのべ4000人以上が参加した人気急上昇中の注目イベントなのである。第三回目の今年ものべ4000人以上が集まり、会場は熱気に包まれた。

ファッションで楽しむ宇宙

会場に到着するとびっくり。参加者たちの多くが星や宇宙を取り入れた「宙ファッション」に身を包んでいる。洋服はもちろん、髪留めやピアス、バッグ、靴下・・・女性だけでなく男性もさりげなく、思い思いに宇宙を取り入れている。お互いに「それ、どこで買ったの?」と情報交換に盛り上がるのもイベントならでは。そんな参加者たちが注目したのが「宙ガール☆ファッションコンテスト」。宙フェス来場者の中から素敵な宙ファッションに身を包んだ人をスカウト隊がスカウトし、グランプリを競う。コンテスト参加者は、既製品に手作りの洋服やファッションアイテムをうまく組み合わせた「トータルな宙コーディネイト」が光っている。さらにお友達と、また兄弟とおそろいの衣装で、全身で宇宙を楽しんでいる様子が伝わってきた。

百人一首に詠まれた宇宙とは?—宙✕文学

ところで、嵐山のあたりは歌人・藤原定家が百人一首を編纂した地。法輪寺の対岸にある「小倉百人一首ミュージアム・時雨殿」には宙カフェ特設ステージが設けられ、宙トークが繰り広げられた。

興味深かったのは、歌人・天野慶さんと宇宙飛行士を目指すタレント・黒田有彩さんの「百人一首 宙の歌のハナシ」。百人一首の中で宇宙がどう詠まれてきたかを読み解くことで、その時代の宇宙観が伝わってくる。天野さんによると、百人一首には星の歌がほとんどなく、月の歌ばかり。月という言葉が出てくる歌は11首、言葉は出てこないが月を詠んだ歌を含めると12首あるそうだ。天野さんは百人一首から月の歌5首をセレクトし、その背景や意味を興味深く解説してくださった。

たとえば「天の原 ふりさけ見れば 春日なる 三笠の山に出し月かも」。遣唐使として中国に渡った阿部仲麻呂が、中国で詠んだ歌だ。当時の皇帝に愛され、なかなか日本に帰してもらえなかった仲麻呂が、ようやく日本に帰れることに。旅立ち前に春日大社で見た月を思い出し、もうじき日本で月を見られるだろうと思いを馳せる。しかし残念ながら阿倍仲麻呂の乗った船は難破し、日本に帰ることができなかったそうだ。

地球でどんなに遠く離れたとしても、月はどこでも同じように輝き、懐かしい場所で見上げた時の情景を思い起こさせる。「月の効果的な使い方の一首です」と天野さん。

百人一首が詠まれたのは鎌倉時代までの400年間。だが月を見上げて好きな人を想ったり、自分の人生を重ねたりする「感情」は科学技術が発達した現代でも変わらない。「日本人にとって月は星よりも様々な想いを重ね、想像を広げやすいのかもしれない」と天野さんは語る。

続いて天野慶さんと現役大学生たちによる「宙歌ワークショップ」が行われた。宙を題材にしてもっと気軽に歌を詠めたら、日々の暮らしも豊かになりそう。天野さんによるポイントは「みんなが思っていることを違う言い方で。みんなが思っていないことを普通の言い方で表現すること」らしい。なるほど!原稿を書く時にも使えそうです。

雅楽師・東儀秀樹さんの「本格的」宇宙飛行士訓練

そして、東儀秀樹さん✕縣秀彦さんのトーク「遥かなる宙旅への想い」では、雅楽師である東儀秀樹さんの驚くべき宇宙体験が披露された。東儀さんは知る人ぞ知る宇宙好き。ロシアで本格的な宇宙飛行士訓練を受けていた!無重力訓練(東儀さん曰く、別名「ゲロ訓練」)では屈強なロシア人がエチケット袋のお世話になったのに、東儀さんは「笑っちゃうぐらい感動した」と平気だった。

そしてロケット打ち上げ時の重力加速度を体験する訓練では、鉄のカプセルの先っぽに乗り、回転させられ「失神直前で視界が狭くなり真っ暗になったが、歯を食いしばって乗り切った」そう。さらに宇宙船のドッキングシミュレーションを一回で成功させ、ロシア人飛行士に「初めてやって成功した人は見たことがない」と驚かせたという。

宇宙人とのコミュニケーションツールは「音楽」

東儀さんの本職は雅楽師。JAXAの宇宙利用(芸術分野)の委員も務めた経験があり、無重力で奏でられる楽器も考えているという。そんな東儀さんに対して、国立天文台の縣秀彦准教授は「最近は、生命が存在可能な環境をもつ惑星が発見されている。そのうち、知的生命体がいる惑星が見つかるかもしれない。彼らとどうやってコミュニケーションをとるかを考えたとき、音楽は重要なツールになる。音楽を愛せる生物を知的生命体と呼んでもいいと思います」とユニークな視点を提示した。

東儀さんも「動物は音楽を聴いたり演奏したりはしない。生活に必要のないものに、どれだけ心を持てるかが人間と人間以外の境目ですね」と深く共感。さらに縣さんは「人類のもっとも古い文化は数学・天文学・音楽の3つ。これらは人間同士のコミュニケーションに必要でした。それは将来、知的生命体とのコミュニケーションにも言える。今こそ音楽の出番です」と音楽への期待を熱く語った。

音楽を通して知的生命体とコミュニケートできたら、どんなに素晴らしいことだろう。どんな音楽でコンタクトできるのか、想像が広がる。

そもそも地球上の芸能のルーツともいわれるのが雅楽。シルクロードの文化が1400年前に日本にもたらされ、そのまま音色も形も変わらず生き続けている。「雅楽の楽器である『笙』の音色は天から差し込む光、『篳篥』は地上の音、そして『龍笛』は天と地の間を行き交う龍の鳴き声を表す、空間の象徴です。雅楽の楽器を合奏することで天地空を一つにする、つまり(雅楽は)宇宙を創る音楽なのです」(東儀さん)。トークに続き、東儀さんは演奏を披露。その演奏は私たちをCOSMIC TRIPへと解き放ってくれた。

宇宙の楽しみ方は星の数ほど!

ここまで紹介した内容以外にも、大学生たちによる研究発表、ワークショップ、宇宙や星モチーフの雑貨やさんなど気になるブースがいっぱい。「木星とろ角炙り丼」(木星に見立てた角煮が丼に!)、「宙フェス限定カクテル」、宙ネイルには長蛇の列ができていて、数時間では全部周りきれなかった(とは言え、宙ネイルを2本だけやってもらいました!)

宇宙って普段の生活とかけ離れていて、なんとなく難しそう・・・と思いがちな方も、宇宙の視点やエッセンスを生活にちょっと加えると、まるで宇宙の無重力状態にいるかのように気持ちが軽やかになり、暮らしに彩と楽しさが加わる。まだまだその可能性は広がりそうです。

掲載 / 文: 林 公代